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機内での出来事

久しぶりの帰省に私もワクワクしている。東京を離れ、半年ほどだけどずいぶんと祖母の会うのがしばらくぶりに感じる。滞在は一週間くらいを予定しているが、2,3日、延びてもいいように着替えは多めにした。 新幹線で品川駅までいくつもりだったが、セギョンがどうしても飛行機がいいと言って聞かないので格安航空券を手配し羽田まで行くこととなった。


(月岡さん、明日だね。私、東京にはまだいったことないからすごく楽しみなんだ。)


(でも、私の住んでるとこは、下町情緒だから・・ま、あまり期待しないほうが・・)


どうやら、セギョンの思ってることは、私たちの世代が集まる、渋谷、原宿などのイメージのようだ。


(セギョン?荷物はまとめたの?)


(これくらいで大丈夫だとは思うのだけど・・・)


と、見せてくれたのは、どデカイ、アタッシュケース。


(え?そんなに?何が入ってるの?笑。)


(着替えとか、お菓子とか・・)


(笑。一週間くらいだから、そんなにいらないよ。それに、おばあちゃんの家には洗濯機なんかもあるし、お菓子もあるから。もっと少なくていいよ。)


セギョンと一緒に私の持ち物も見せながら、コンパクトに整理した。



いよいよ、故郷、蒲田に帰る日だ。セギョンも私も荷物を手に学生寮を出発した。飛行機はANAで午前9時の出発。羽田までは約一時間で到着する。午前中には祖母の家には着くだろう。そう思いにふけながら搭乗した。


秋田から羽田までなら、そんなには人もいないだろうと思ってが以外にも席はほとんど埋まっている。私と同じ、帰省するひとも多いのだろう。秋田空港を離陸し羽田へと私たちは向かった。

離陸して、少したったころ私の隣に座っている男の人が何か変だ。気分が悪いのかうつむきかげんで、それに顔色も悪い。


(あの・・・どこか気分でも悪いんですか?)


問いかけてみたが返事をしようともしない。ちょっとやばいんじゃないか? セギョンにも伝えた。


(月岡さん、私、客室乗務員の人に言ってくる。)


(うん、お願い。もしもし?どうしたんですか?)


私も再度、問いかけてみた。全然、反応がない。でも、飛行機はもう空の上だ。どうしたらいいんだろう・・・


セギョンが客室乗務員の人と一緒に来た。


(お客様?どうかなされましたか?)


客室乗務員が話しをかけても反応がない。


(今、機内アナウンスを流して、医師が乗っていないか探してみます。)


なんだか大変なことになってしまった。私もどうしたら・・・・あ、そうだ。熊本のチーフドクターに連絡してみよう。私もセギョンに、Ipad proを出してもらい、アクセスした。


(小野さんのときの先生でしょ?何か、分かるかもしれないね。)


セギョンも心配そうに見ている。


(チーフ、月岡です。こちらから見えますか?)


(おお、その後はどうだ?入院した生徒の経過はいいか?)


(はい。あの、ちょっと緊急事態でまたチーフに連絡しちゃったんですけど・・)


(どうした?何があった?)


(今、秋田から羽田に向かう、飛行機の機内なんですけど、私の隣の人が意識がなくて機内アナウンスも流してもらい医師が乗ってないか探してるところなんです。)



(よし、分かった。Ipadをその人に向けてくれないか?)


(はい。分かりました。)


Ipadを向け、チーフに見せた。



(愛ちゃん、客室乗務員に医療バッグを持ってくるように伝えてくれないか?)


(医療バッグですか?)


(そう、それとAED.)


セギョンは客室乗務員に伝えに向かった。


(愛ちゃん、状態から見て、恐らく(血管迷走神経反射)だと思う。医療バッグに入ってるもので対処できるはずだ。)




血管迷走神経反射・・・・自律神経系の突然の失調のために、血圧や心拍数が下がり、脳に行く血液循環量を確保できないために、失神や目まいなどの症状が起こる病気。




セギョンと客室乗務員が小型のバッグを持って戻ってきた。客室乗務員にチーフと話してもらうことにした。


(医療バッグです。この中に必要なものはありますか?)


(まず、血圧計はありますか?それとsaline(生理食塩水)。)


(入ってます。これをどうしたら・・?)


(まず、血圧を測ってください。)


私はIpadを血圧計に向け、客室乗務員は血圧計を手首に巻きスイッチを入れた。


(チーフ、血圧計は見えますか?)


(ハッキリ見えるよ。大丈夫だ。)


60/30で数字が止まった。


(かなり低いな。ちょっとまずい。愛ちゃん、これから言うことを良く聞いてくれ。)


へ?まさか私が何かするの?


(乗務員さん、(salin)って液体、細いチューブと一緒になってるから袋にイラストが描かれてるから同じようにセッティングしてくれませんか?)


(はい。わかりました。)


乗務員さんは、セギョンと一緒にセットし点滴というスタイルになった。


私もIpadをその点滴にフォーカスしながらチーフに映像を送る・・・


こうして私たちは、salinと名のつく生理食塩水をこの意識のない人に点滴という形で処置をすることになった。


(でも、チーフ、医師でもないのにこんなことして大丈夫なんですか?)


(バカ!一刻を争うことなんだから、そんなこと言ってられないんだよ。あとの事はまた考えればいい。)


チーフも意外にアバウトな人だ。


私はIpadを客室乗務員に渡し、セギョンが生理食塩水と細いチューブを手に持ち点滴のスタンバイになった。


(愛ちゃん、その人の前腕の内側を上に向けるんだ。手首あたりから上にやや強めに擦ってくれ。そうすると血管が浮き出てくるから、まずそれを見せてくれ。)


(分かりました。やってみます。)


左腕の内側を上に向け、手首から上へとスッスッと擦った。するとチーフのいう通り、血管が少し浮き出て来た。


(よし、いいぞ。そしたら、salinにチューブを差し込んでそれをセギョンに持ってもらい、愛ちゃんは先端の針をその血管に打つんだ。)


えーーーまじィ???? 私がやるのぉ???


(ゆっくりな。そう。血管の上に来たらスーと差し込めば大丈夫だ。)


私は手が震えていて自信がない。おでこにも汗が流れてきた。


(大丈夫だぞ。そう、よし、ゆっくりと差し込んでみろ。)


ええぃ、ままよ!


言われた通りに針を差し込んだ。この先には何が待ってるのか・・・


(チューブに、小さなローラーみたいなのが付いてるだろ?クレンメっていうんだ。それを動かしてくれ。)


言われるがまま、このクレンメという輩を動かした・・・すると、ポタポタ液体が落ち始め細いチューブを通り、腕の中に入っていった。



クレンメとは、点滴の滴下量と速度を調節する器具のことである。メーカーによってはクランプともいう。点滴を行う際は、患者の状態や年齢によって速度を調節するため、点滴ルートの途中に置かれている。調節部分の操作方法の違いにより、ローラークレンメ、ワンタッチクレンメ、スライドクレンメなどに分類される。留め具を意味するドイツ語Klemmeに由来している。




(よし、OKだ。そのままの状態で続けてくれ。)


私がチューブと針、客室乗務員がIpad、セギョンが点滴を支えてる。なんだか3人とも救命救急医に見える。しかし、機内には医師は乗ってないのかよ・・・


機内アナウンスを流すも、医師と名乗る人は現れず、現れたのは、周りにいる乗客の群れ。見てないでなんとかしてくれよ・・・と言いたくもなる。


10分ほど経ち、この男の人は意識を回復してきた。


(チーフ、意識が戻ってきました。)


(よし、これで大丈夫だ。よくやった。)


(ありがとうございました。)


私たち3人はチーフにお礼を伝えた。



秋田から羽田に向かう一時間の間、救命作業で終わり、羽田空港に到着。客室乗務員からも感謝の意を伝えられた。倒れた男の人はそのまま空港で待機していたドクターカーで近くの病院に搬送された。


(2人とも本当に、ありがとう。なんだか本物の医師みたいだったわよ。)


(いえ、そんな・・でも助かって良かったです。乗務員さんもありがとうございました。)


(あ、ちょっと機長が会いたいっていってるから。待ってくれる?)


機長が会いたいですって?


私とセギョンは、空港職員専用のラウンジに案内された。


(ここで待ってて。私はこれで離れるけど、またどこかでお会いしたいわね。本当にありがとう。)


そういって名刺を頂いた。 


少し待ってると、


(先程の機内で救命処置してくれたお二人かい?)


(あ、はい。そうです。)


機長が私たちの前に現れた。 テーブルに着くと、コーヒーとケーキをウェイトレスさんが私とセギョンに差し出した。


(大変だったろう?笑。さ、コーヒーでも飲んで、甘いもの食べな。)


目の前に、とろけるようなモンブランと香りのいいコーヒー・・・これを召し上がらずになんというか・・・ 遠慮なしに頂くこととした。


(今日は本当に助かったよ。ありがとう。乗務員からも、2人に何かしてあげたら、どうか?って言われてさ。それでうちの本社にも伝えて、後日、うちの会社から感謝状を贈ろうということになったんだ。そのときは、ぜひ日を開けて来てもらいたいんだ・・・)


(はい・・でも私たち一週間しか滞在しないんです。また秋田へ戻り学生寮での生活がありますので・・)


(秋田?学生寮って大学生なの?)


(そうなんです。)


(秋田のどこの大学なの?)


(秋田国際大学です。)


(へぇ・・素晴らしいね。今、上場企業でも新卒の就職率が一番じゃないかな。)


(はは・・まぁ・・・そうですかねぇ・・・笑)



機長と話し中に、


(すいません、○○テレビですが、先程の機内での救命活動を本日のニュースで取り上げたいので取材に応じてもらえますか?)


へ?テレビ局ですか?それも報道?なんでまた?


(じゃ、また後日、連絡するから。)


機長からも名刺を頂き、席を後にした。私たちも連絡先を伝えた。 しかしテレビ局の報道番組ってすごいな。いつ私たちのことをしったんだろう? 断る間もなく取材が始まってしまった。


わずかな時間の取材だったが、今日の夕方に放送されるようだ。


時刻を見るとお昼に近い。祖母の家には午前中には着く予定だったが、大遅刻になってしまった。


(セギョン、ここから空港線で京急蒲田駅までだから。早く行こうか?)


(OK,月岡さん、私、お腹ペコペコ。笑。)


(おばあちゃんに電話して、お昼の用意もしてもらうから、大丈夫よ。)


祖母に連絡し、事の成り行きを伝え、お昼は祖母の家で食べたい旨を伝えた。


(愛、大丈夫だったのかい? 遅れるのは構わないけど、そっちの方が心配だよ。お昼はちゃんと作っとくから大丈夫だよ。ゆっくりとおいで。)


祖母にも連絡し、あとは向かうだけだ。 思うが、私は本当に忙しい女のようだ。なんかいつになってもバタバタと忙しい日常に感じる。でも、それがきっと私らしいのかもしれない。
















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