夏休み
7月の終わりにもなり、大学は夏季休暇に入った。帰省する人、旅行に行く人、秋田を離れず、学生寮に留まる人など、それぞれだが、帰省する人も海外や国内に旅行に行く人たちも、そのほとんどが一週間程度で学生寮に戻り、普段と変わらない日常を過ごすようだ。
食堂で周りの会話が聞こえてくると、
(一週間くらい、実家に帰ってすぐに戻ってくるんだ・・)とか
(ちょっと京都まで行きたいから・・・)
(久しぶりに隅田川の花火を見に行くだけ・・)など
そんな話が多い。 一方、私は、7月のお盆(関東では7月、地方など田舎と言われるとこは8月)に祖母の家に戻る予定だったが、大学の夏季休暇と合わなかったため、8月に入ったら帰ることにした。
日本でも報道された、フランス、ニースで起こった大型トラックの暴走テロ事件では、ティファニーの家族が巻き込まれ、急きょ、フランス、ニースまでティファニーは向かった。
現地に着き、搬送されてる病院で、ティファニーは、母と妹と悲しい対面になってしまった。
暴走したトラックからは、容疑者である男は、銃を乱射。警察官たちとの銃撃戦になり、それでも次々と人をなぎ倒した。ティファニーの母は娘をかばうために抱き抱え背中に銃弾を浴び、その流れ弾が娘の首、肩などを貫通、即死の状態だった。
故郷、ニュージーランドからも、父が現地に着き、変わり果てた姿を見て愕然とした。ティファニーはあまりにものショックで、気が錯乱してしまい、医師たちに保護された。
2日ほど病院で過ごし、少し落ち着いたところで、ご遺体とともに政府専用機で、故郷、ニュージーランドに向い、無言の帰国となった。
あれから半月ほど経つが、ティファニーからも連絡はない。 今後、どうするのだろうか・・・
秋田を離れ、故郷のニュージーランドで、父と過ごすのか・・・それともこのまま大学に在学するのか・・ 大学側からも何も報告はない。 しばらくそっとしておいたほうがいいということだろうか。
相棒(Iphone 6s)に着信だ。誰だ?
着信の主は、受験の時、旅館で一緒になった、竹内さんだった。女優さんと同じ名前で裕子って言ってたっけ。 石川県金沢市から、秋田まで受験に来ていた。その後どうしたんだろうと思っていたけど・・・お互いに連絡もしていなかったな。
(月岡さん? 元気してる?久しぶりだね。)
(竹内さん? 元気してるの?その後、どうしてるの?)
(私、秋田の大学は不合格だったの・・・月岡さんは?)
(そうだったんだ・・・私は合格して今、大学の寮に住んでるの。)
(えー、良かったね。)
(竹内さんは、その後どうしてるの?)
(私、今ね、東京に住んでるの。)
(え?東京?)
(うん、東京の大学に合格して、こっちで生活しながら大学に通ってるんだ。)
(へぇ・・・どこの大学なの?)
(東京工業大学なんだ。)
(え? 東京工業大学って・・男がたくさんいる?大学?)
(笑。うん・・まぁ・・そうね。)
(なんで、また男ばかりの大学に?)
(私ね、ロボット工学を学びたいと思ったんだ。たくさん勉強して海外にも通用するような技術を身に着けて医療や介護の現場で活躍したいんだ。)
竹内さんは、秋田国際大学の不合格通知が届いた後、少し落ち込んだようだが、家族の励ましと支えもあり、技術的なこと学べる大学に、いわゆる手に職というものを身に着けられる大学にいったらどうか・・・という言葉に後押しされ、偶然にも、(大門未知子)という医者のドラマを見ていたとき、手術をするロボットを見て、私もこんなロボットを作ってみたい・・とエンジンがかかったようだ。また、都内の大学の工学部の生徒たちが、自作でロボットを製作し実際に競技をさせようという企画を見たときにも、東京の大学、それも工学部に入学したいと決意。高校の先生にも相談し、推薦入学を求め、無事にに東京にある、東京工業大学に合格した。
(月岡さん、夏休みってあるでしょ? こっちに帰ってこないの?)
(うん、8月に入ったら帰省する予定だよ。)
(本当? じゃ、こっちで会おうよ。絶対、会いたい!)
(分かった。戻るとき連絡する。私も会いたい。)
私と竹内さんは久しぶりの再会の約束をした。
そして8月・・・
祖母にも連絡を入れて、今週末の金曜日に帰るという旨を伝え私は帰省の準備をしていた。竹内さんにも連絡しようと思ってたとき、部屋をコンコンと叩く音・・・
ドアを開けると、セギョンがいる。
(セギョン?どうしたの?)
(月岡さん、休みの期間ってどうしてるの?)
(へ?うん、東京に帰省して祖母の家に泊まるけど・・・)
(ふーん・・そうなんだ・・・)
(セギョンも韓国に帰らないの?)
(うん・・私、今回は、秋田にいるんだ・・)
なんか、訳ありかもしれないが、ここはちょっと、私優先ということでお願い・・・
(そうなんだ・・東京に行くんだ・・・分かった・・ごめんね。おやすみ・・・)
なんか、元気がない。ちょっと気になるが、まっいっか。
さぁ、準備も整ったし、あとは、いざ東京へ!だ。しばらくぶりに祖母の作るご飯が食べれる。また、生まれ育った、蒲田の街とも再会だ。それに、瞳との再会もある。思うだけでワクワク、ドキドキする。
そろそろ寝るか。竹内さんへの連絡は明日の朝でいいな。 私は寝床に着いた。
でも、セギョンのことがなんか気になる。私は気になりだすと寝れなくなってしまう。
セギョンの部屋に行った。
(まだ、起きてた?)
(うん。ドラマ見てた。どうしたの?)
(あの、セギョンが良かったらでいいんだけど、私と東京に行かない? おばあちゃんの家に泊まることが良ければどう?)
(え??いいの?行きたい!私、月岡さんと一緒に東京に行きたい!)
(東京では受験で一緒だった人と、高校時代の同級生も来るけど、それでもいい?)
(うん!!全然、いい!)
(じゃ、今週の金曜日に出るから、着替えとか準備して。)
(ありがとう。すごく楽しみ。)
どうやら正解だ。祖母にも連絡をして、セギョンも泊まるということを伝えると、久しぶりに賑やかになって楽しそうだといっていて了解を得た。
大学生活、初めての夏休みは、私、竹内さん、セギョン、そして、瞳と、女4人で過ごすことになりそうだ。