フレンチトースト
私は、せっかちな女である。 早く事が済まない、分からないとじれったくなるのだ。コンビニやスーパーなどのレジで小銭を一枚二枚と出しながらモタモタしてる人を見ると、もう堪らなくなってしまう。
たとえば、朝ご飯。 ふつうならテレビや新聞など見ながらゆっくりと食べるけど私はサッサと平らげ、すぐに歯を磨き着替えてしまう。また、マックに入っても、ものの10分程度で食を終わらせる。お喋りをしながら、30分、1時間と長居が出来ないのだ。 だから外でお店に入るときは、とにかく一人でないとダメ。
モノだけではない。私はアクション(動き)にもこだわる。歩いていて前に人がいると、もう、邪魔で邪魔でしょうがない。モタモタ歩いてないでサッサと歩け!と言わんばかりに全速力で追い抜く。チャリンコで駅に向かうときなど、一台、二台と続々に追い抜き10何台、ゴボウ抜きなんて余裕だ。
少し気持ちに余裕というものを持ちたいものだが・・・
しかし、この秋田に来てからは、少し、この【せっかち】な性格が和らいできた。自然に囲まれて空気も良いのか、このモタモタ、ノロノロにイライラしなくなってるのだ。東京にいるときに比べ、近くにマックもないしコンビニもないし、秋田駅の方までいかないと買い物はできない。でも、キャンパスには食堂もあり売店もあり自販機もありで思ったほど不便ではない。値段も定価より安い。自販機の飲み物はすべて100円。
まともにコンビニで買ったら160円はするペットボトルも100円のワンコインだ。また売店にあるお菓子類なども、学生料金という感じでこれもスーパーなんかより全然安い。スーパーなどに比べ、品数は少ないが、定期的に入れ替えもあり新しい商品も入ってくる。
キャンパスの中で、日常のことがほとんど出来てしまい外に出なくても良いから時間にも余裕が出る。本や日用品など、キャンパスで購入できないものは、【アマゾン】などネットを使えば寮まで配達で届けてくれる。 自分が思う、【完璧】なのだ。
しかし人間って本当に勝手な生き物のようで、それで満足が出来ない。 たまにはマックの100円コーヒーが飲みたいとか、吉牛で汁ダク、紅しょうが特盛、七味、盛かけなどたまらなく食べたくなるときがある。
【完璧】というのは本音を言えば【理想】なのだろう。現実には思うようにうまく行かない。 これは日常生活だけでなく、仕事や家族関係でも同じことが言えると思う。自分を客観的に見てどう思うか、自分自身を知るということだろうが、こんなことを気にするのもある意味、【せっかち】なオンナ、なのかもしれない。
(月岡さん、1階のキッチンに行かない?)
セギョンが何やら、食材を片手に私の部屋に来た。
(え?キッチンでなにするの?)
学生寮の1階には、ダイニングキッチンがあり、ここで寮の学生たちがよく集まり食事会や飲み会など開いている。結構、広くてグループで来ても余裕で使うことが出来る。
(私の得意なものを披露してあげる。)
(何、作るの?)
(内緒。フフフ・・)
セギョンが私の手を引きキッチンまでエスコートした。
食材をだすと、厚切りの食パン、卵、砂糖、それに野菜や果物もある。何を作るのか・・・
セギョンはフライパンを出し、卵を割り、厚切りのパンをカットしている。 分かった。フレンチトーストを作るんだ。
(それ、フレンチトーストでしょ?私の同級生もよく作ってくれたよ。)
(私、これすごく好きで韓国でもよく作ったの。友達にも好評でお店にも出たくらい。笑。)
(その野菜は?)
(これは、スムージー。にんじんとりんご、それにほうれん草、蜂蜜・・・お腹に最高よ。)
へぇ・・スムージーですか。 私はまだこのスムージーとやらを嗜めたことがない。野菜ジュースのようだけど美味しいのか・・・・ザクザクと無造作に野菜と果物を包丁で切り、蜂蜜、黒ゴマ、など合わせ調味料もミキサーに入れた。
(さぁ、出来たわよ。フレンチトーストは出来たてで半熟が最高よ。)
そういうと、フライパンからお皿に移し、同時進行のスムージーも出来上がった。フレンチトーストは甘くいい香りがする。セギョンのいうとおり、半熟ですごく美味しそうだ。
(月岡さん、飲んでみて。はじめは飲みにくいけどイケるわよ。)
勧められるまま、スムージを口にした。 うっ・・野菜と果物がドロドロしていてあまり美味しいとは感じない。でも一口、二口といくうち、野菜と果物の甘さ、それに蜂蜜と黒ゴマの味も結構、イケる。
(これ、美容にとてもいいの。韓国じゃ体を鍛えてる女の人が多くて、このスムージもよく飲んでるよ。)
さすが美容大国、韓国だ。 メインのフレンチトーストも熱々でやわらく甘くてとても口当たりが良い。本当にトロけそうで美味しい。
(セギョン、美味しい!すごく美味しい!)
私は美味しいものを体に投入すると、叫びたくなるのだ。
(良かった。月岡さんに食べてもらえるかどうか、ちょっと心配だったけど。)
(ぜんぜん心配じゃありませんよ。大歓迎です。本当に美味しい。)
スムージもおかわりをしてしまいミキサーは空。慣れというのは恐ろしいものでこのスムージも野菜と果物の搾りかすが体にマッチしてしまってる。
気の合う、女同士だと食も美味しい。会話も弾み、ふつうなら10分もいないのにセギョンとは一時間も過ごした。
心許せる友が、また一人、出来たような気がする。