馬鹿な男達
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突然手を握られたことに、俺は驚いたものの冷静に言った。
「あんたが禁止級の魔法を使っても耐えられるぐらい魔力を秘めているかわかってからなら、考えなくもない」
「ほんとに!? ありがとうルイくん!」
エリカはよっぽど嬉しかったのか、俺に抱きついてきた。
俺の顔がエリカの豊満な胸に埋もれる。突然のことに俺は硬直したままだったがやがてエリカに声がかけられると、俺から離れた。
「ごめんなさいルイくん。
もう少し話していたかったのだけれど、ちょっと呼び出されちゃったからそっちに行ってくるわ。
じゃあね~!!」
そう言うとエリカは中へと入っていく。
バルコニーに再び静けさが戻った。
中ではまだ、たくさんの人で賑わっている。
俺はグラスの中のワインを飲み干すと、立ち上がった。トイレに行きたくなったのだ。
もう一度中に入り、トイレを済ませると、再びバルコニーへ戻ろうとする。
だが、不意に見知った顔が目に入ったので足を止めた。
「あのぉ…貴方がフェイリスさんですよね?
よかったら僕と一緒に――」
「おい、待てよ。俺がフェイリスさんと話そうとしてたんだ。邪魔するなよ」
「あぁ? 二人共何言ってんだ!俺が先に約束してたんだよ!」
男たち3人が、どうでもいいことで怒鳴りあっていた。近くにいるフェイリスはどうしていいかわからずただオロオロしている。それどころか、怒鳴っている男が怖いのか少し震えていた。
周囲の人たちは、男達の怒鳴り声に気づいてはいるものの、男達の身分が高いためか、見て見ぬふりをしていた。
俺は思わずため息をつく。
本当に人間っていうのはどうしてこんなに愚かなのか。
俺は、テーブルからいくつか食べ物を拝借すると、フェイリスの前に出した。
「食うか?」
突然目の前に出された食べ物に、フェイリスは驚く。
「あ、貴方は…。えっと……」
「ルイだ」
「そう、魔王さ むぐぅっ――!」
俺は魔王って言いそうになったフェイリスの口に咄嗟にパンを放り込んで黙らせた。
「しーっ!! 俺が魔王ってバレたらやばいだろ」
「ご、ごめんなさい…」
そう言うと俯くフェイリス。
声色に元気がなかった。
そういえばエリカが人見知りするって言ってたよな。だからなのか。
「ふむ……」
俺はフェイリスの目線に合うようにしゃがむ。
「エリカはどうした?」
「公爵様に誘われて、向こうで談笑してます…」
あーなるほど。
エリカにずっとくっついてたけどエリカが離れたから、それで心細かったってことか。
そうか、人混みが嫌いか…。
「じゃあ俺と一緒にバルコニーに来るか? 人もほとんどいないし、静かだぞ」
ダメもとで俺はフェイリスを誘ってみる。
正直来ないと思っていたが、フェイリスの返事は意外なものだった。
「え…いいの?」
「いいもなにも、別にバルコニーは俺のものでもなんでもないからな。
来るならこっちだ。付いてこい」
コクコクと頷くフェイリスを連れて、俺達はバルコニーへと向かう。
俺はバルコニーの椅子に腰掛けると、腕を組んだ。
フェイリスは、さっきまでエリカが座っていた椅子に座っている。何も言わず、ただじっと城下町を眺めていた。
俺達はしばらく無言の状態が続いていたものの、不意にフェイリスが口を開いた。
「あの…」
「……」
「あ…寝てますか」
「いや起きているよ。何か用か?」
「その、えっと…」
何かを言おうとして、フェイリスは黙る。
目を開け、顔を上げると彼女はモジモジしていた。
俺はフェイリスが話すその時まで、ただじっと待つ。
やがて、口が開きかけたとき、タイミングが悪いことにさっきの男たちがバルコニーへと入ってきた。
「おい、お前誰だか知らねえけど何勝手にフェイリスさんを連れ出してんだよ!」
「そうだぞ、僕が先に話す約束をしていたんだ! 勝手な真似はやめてもらおうか」
あーもう…めんどくさいのが来たな。
俺はこういう権力をかざすことしかできない無能な奴が大嫌いだ。身分が高いんだろうがそんなの知ったことではない。
本来ならこんなやつさっさとつまみ出せばいいのだろうが、いかんせんこの場での俺の立場はあくまで一般人だ。身分だけでいうと格が違うと言ってもいいだろう。下手なことを言えば、面倒なことになるのは間違いない。
なので俺は、腹が立つ気持ちをこらえながら、演技をすることにした。
「いや、申し訳ありません。この子は私の妹でして。少し、人混みにいすぎてのぼせてしまったようなので、ここで涼んでいたんですよ」
俺は、愛想よく笑いながらそう言うと、相手は突然手のひらを返したかのように声色が変わる。
「あ、あぁ!お兄さんでしたか!これは怒鳴って申し訳ない。
もしよければ、そちらの妹さんを少しお貸しいただけないでしょうか?」
「何言ってるんですか。
お兄さん。フェイリス様と話す約束をしていたのは僕が先です。なので、僕に妹さんを!」
「いや俺…じゃなかった私が先です!」
そう言うと再び口喧嘩を始める3人の男。
俺は思わず心の中で舌打ちをする。
せっかく静かな場所を見つけたと思ったのに、騒がしくなってしまった。
しかしそこへ運のいいことに、エリカがこっちへやってくる。
「フェイリス。なんだ、ルイくんといたのね。
何処に行ったのかちょっと心配していたのよ」
「あ…エリカ」
フェイリスはすぐにエリカに駆け寄ると、背中に隠れてしまった。
「あら? ルイくんと話してたんじゃなかったの?」
エリカは背中に隠れてしまったフェイリスを撫でながら言う。
「いや、話そうとしたらあいつらが邪魔をしてきた」
俺は視線の先を男たちの方へ向けると、まだ口喧嘩していた。
「あぁ…なるほどね」
エリカは納得したようだった。
続いて呪文を唱えると、フェイリスを透明にした。
間もなくして、男たちがフェイリスがいないことに気づく。
すると俺たちに何処にいるのか聞いてきたため、適当に離れた場所の名前をエリカに言ってもらうと、男達はそこへ向かって走り去った。