最終話 永遠に
ホールから次々と魔族が飛び出していき、過激派魔族達の元へと向かっていった。
「創世せよ―――我が分身―――っ!!」
俺が詠唱すると、間もなくして2体、3体と俺の分身ができていく。
やがてその数が100体になったところで俺は詠唱をやめると、
「お前らは、民間人の保護と、学園生らの援護に回れ。
いいか? もし、攻撃してくる魔族がいたら、容赦なく殺せ。多少ど派手にやっても構わない」
俺は分身にそう命令すると、間もなくしてものすごい速度で100体は散っていく。
結構魔力は消費したものの、これでもまだバイラスを殺せる力は残っているだろう。
ふと、隣を見るとエリカ達は呆気にとられていた。
「ル、ルイ君ってやっぱりすごいわ! 分身なんて制御が難しすぎて人間界で出来る人なんてほんと数えられるほどよ!?
すごすぎるわ……」
ひたすら感動するエリカ。
「ふん、驚くのはまだ早い。むしろこれからだ」
俺がそういった時、前方数百メートル先に、魔族達の大群が見える。
傍にいるルシエルが俺にこう言った。
「ルイ様、あやつらは我らが倒しましょうか?」
「いや、いい。俺が出よう。
あいつらにはお灸をすえねばならないからな」
そう言うと、俺はブツブツと詠唱を唱え始める。
やがて俺の周囲に巨大な魔法陣が現れ、強い風が吹いた。
「ル、ルイあんた何する気よ!」
とんでもないことをすると悟ったアリサがおどろくようにしていった。
俺はその質問には答えずに、ただひたすらと詠唱する。
魔族の大群はどんどんと俺達に近づいてくる。その数はおよそ1万。
とてもじゃないが、こんな数の魔族を人間達が相手にしていたらどれだけの被害が出るか想像に耐えない。
「ル、ルイ君!もう近くに来てるよ……! 僕らも早く出なきゃ!!」
切羽詰った声でそういう勇者を静止したのは白ネネコだった。
「まあ見ていてください。今にわかりますから」
尚も俺が詠唱していると、次第に俺の体から黒いオーラのようなものがバチバチと溢れ出てきた。
よーし……準備は出来た。
俺は、フェイリスの方を振り返ると、
「フェイリス。その杖を貸してくれ」
「え……? あ、はい」
フェイリスが駆け寄ってきて、俺に杖を渡してきた。
俺はそれを受け取ると、もう目前にまで迫ってくる魔族達に杖を向ける。
「殺せ……暴風の矢」
俺がそう言うと、杖の先が黒く光り、そこから無数の黒い矢が飛び出していった。
その矢は途中で増幅し大きくなり、魔族達めがけてホーミングしていく。
「わ、私の光の矢が黒く……?」
魔族達はあまりにも速いその矢に、なすすべなく貫かれていく。俺が杖をくいっと振ると矢はそのまま魔族達の体を貫通するだけでなく、もう一度戻ってきて更に魔族を貫いた。
それはまさに地獄絵図。
魔族たちからどす黒い血が吹き出し、地面に血の池を作っていく。
「ふん、お前らの死骸など処理する価値もないわ……ビッグバン―――」
そう言った瞬間、黒い矢はその場で凄まじい爆発をおこす。
魔族達はそのまま消し炭となり、バラバラになっていった。
やがて、1万もの魔族の大群は一瞬にしてその姿を消してしまった。
「ふぅ……暑いな」
俺がそう言うと、流れる汗を拭ってくれるネネコ。
流石にちょっと張り切りすぎたか。
分身を使い、暴風の矢を放ち、更にビッグバンまで使ったからな……。
「す、すごい……」
周りにいる人達はただただすごいという形容しかできないようだった。
エリカに関しては完全に信じられないといった感じだ。
「これがルイ君……魔王の力……」
「ええ……、こんなのに私達は最初勝負を挑んでだってこと……? なんか震えが止まらないわ」
「なんだ、ビビったのか?」
からかうようにしてアリサに言うと、慌てて否定される。
「ち、違うわ! これは武者震いよ!」
「くく、まあそういうことにしておこう」
久々に惜しみなく力が使えて俺は非常に気分がいい。
だが、まだ最大の敵が残っている。
「おい、お前がバイラスを倒した時、何か特殊な方法で倒したとかそういうのはあるのか?」
「いえ……、いくらバイラスが強いとは言え、所詮はつくりものです。粉々に消し飛ばせば、倒せるはずです。
私はそのようにして倒しましたから」
ふむ……。
ならば、最初から全力でいかせてもらおう。
『みぃ~つけた……!』
「来たか」
恐らく、というか確実にさっきの俺の魔法で気づいたのだろう。
バイラスがこっちに向かってきていた。
俺は自身に強化魔法と、防御魔法を限界ギリギリにまでかけると問答無用でバイラスの元に猛スピードで走り、斬りかかった。
魔族は、カードの恩恵を受けない。しかし、人間の血を引いている俺はエリカとアリサのJバック……つまり速度の強化がかかっている。
その上俺の強化魔法で更に速度は上がっている。
さすがのバイラスもこの速度の奇襲には対応できないだろう……。
そう思っていたのだが、
『ふっ……!! いきなり攻撃なんてひどいなぁ。死ぬところだったじゃないか』
「っ―――!」
バイラスは、俺の攻撃を素手で受け止めた。奴のその手からは毒々しい液体が飛び散り、その液体が少し俺にかかる。
「なんて奴だ……俺の攻撃を素手で受け止めるなんて……」
『すごいでしょ。じゃあ次はこっちだねー』
バイラスは、俺の剣をそのまま握りしめ、粉々にしてしまった。
俺は一瞬驚いたものの、その隙に空いた手でバイラスの腹部を殴りつける。
『おおっ!?』
変な声を上げながら、バイラスは後方の壁に叩きつけられた。
本気で殴ったつもりだったが、手応えは薄い。
俺は振り返ると、
「エリカっ! 俺にあの魔法をかけろ!」
「わかったわ!」
俺がエリカに教えた魔法、それは浮遊魔法だ。
以前バイラスと戦ったとき、奴は宙を飛んで襲ってこなかった。だから、上空から奴を狙い撃ちにすれば奴からの攻撃を受けることはないと考えたのだ。
しかし、浮遊魔法は自身がかけると、負担がかかりすぎて他の魔法を打てなくなる。その為誰かにかけてもらう必要がある。そこで目をつけたのがエリカだ。
エリカは当初、浮遊の魔法もほんの数秒しかかけられなかった。
しかし、あの成長くんを使い鍛錬した結果、数分程度ならば浮遊を保持できるようになったのだ。あとはそれを他の人に応用するだけで簡単だった。
俺は、フェイリスの杖を受け取るとエリカから浮遊魔法をかけてもらう。程なくして、俺の体は宙へと浮いた。
恐らく、エリカの魔力量から考えて、もって3分が限度だろう。
既にエリカの額からは汗が流れている。それだけ魔力の消費量が大きいのだ。
さあ、後はさっさと蹴りをつけるだけだな……。
バイラスは未だに瓦礫にうもれたまま出てこない。
まさに今が葬れるチャンスだ。
「さあ、来たれ暴風の矢。あのバイラスを串刺しにせよ」
俺は上空から杖でバイラスを指すと、
杖が禍々しく光り、そこから再びバイラスめがけて無数の黒い矢が飛んでいく。
そして再び俺がビッグバンと言うと、そこで爆発が起きた。
その爆風が周囲の物を吹き飛ばす。思わず俺も吹き飛びそうになるぐらいの勢いだった。
少し強く出しすぎたか……?
しかし、これでバイラスの息の根は止まったはず。
念のため、俺は爆心地に近づいてみる。
そこはもう消し炭と化しており、黒いすすだけが残っている状態だった。
「ふむ……。やったか」
やけにあっさり終わったのが気になるものの、とりあえずバイラスを倒すことには成功した。
あとは……。
『バイラスを倒した……だと? そんなことあるわけがないっ!!』
そう言うと今度はスクリーンからヴァルグレイドと無数の魔族達がやってくる。
俺の方めがけて、斬りかかろうとしてくるのを防いだのは、ネネコだった。
「く、ネネコ……」
「黙れこの外道……。ルイ様に刃を向けたものは死、あるのみです」
そう言うとネネコはヴァルグレイドを斬りつけていく。
その手数の多さにヴァルグレイドは耐え切れず、生傷を増やしていく。
ヴァルグレイドは、奥歯を噛み締めながらも進んでいこうとするが、
「皆、ルイ様を援護しろ!」
ルシエルの声と共に穏便派の魔族達は過激派魔族たちに突っ込んでいく。そして乱闘になった。
ミリアがその状況を見ながら、
「ルシエル、オザルリオ。そこから右に5体、左に3体です」
「わかったでござるよ!」
と的確に敵の位置を指示することで確実に倒していく。
「ルシエル!? なぜ貴様がここに……」
「久しいなヴァルグレイド。だが、どうせもうじきルイ様に殺されるお前にそんなことを答えても無駄だろう。
大人しく死ぬがよい」
「貴様ァ……!!」
憎々しくルシエルを睨むヴァルグレイド。
「戦闘中によそ見とは、いい根性してるじゃないか」
俺がその隙を見逃すはずはなく、蹴り飛ばした。
強化魔法で威力がかなり上がっている俺の攻撃をまともにくらったヴァルグレイドは、血塊を吐きながら民家に突っ込んでいく。
「ぐふっ……なぜ、バイラスが……」
「それは、バイラスの弱点が聖属性の攻撃だからですよ」
そう言ってボロボロのヴァルグレイドの元にゆっくりと歩いていく白ネネコ。
「いくらバイラスと言えど、その素体は魔族です。
どれだけ表面を強くしようが、内面から壊されては意味がありません。
ルイ様は、フェイリスの光の矢を改良し、暴風の矢としてバイラスに当てることで致命傷を与え、絶命させたのです」
「ぐ……」
そして白ネネコがヴァルグレイドの目の前へとたった。
「さあヴァルグレイド。認めなさい。この戦いはもう、貴方たちの負けだと」
「……」
俺達は白ネネコと、ヴァルグレイドの様子をじっと見守っていた。
少しでも反抗する意思を見せれば、俺はすぐに攻撃できる準備を整える。
だが……。
「ふっ……。どうやら、そのようだな……」
「何?」
ヴァルグレイドは立ち上がると、
「だがルイ様。これで終わったとは思わないことだ。
必ずや、俺の……俺達過激派魔族の仇を討ってくれる奴が現れるだろう……。
その時までに首を洗って待っておくことだな……
ハハ、ハハハハ……!!」
そう言うとヴァルグレイドは一瞬にして姿を消した。
辺りには、ボロボロに壊された民家だけが残っていた。
「お、終わったの?」
アリサの言葉に俺は頷いた。
「まだ、残党が残っている……。
が、どうやら俺の分身もほとんど仕事を終えたらしい」
既に半分以上は俺の中に戻ってきている。
あとの半分もすぐに戻ってくるだろう。
そしてバイラスもあれだけ警戒していた割には、あっさりと倒してしまった。
一瞬何処かに逃げたのか? とも考えたが、あの一瞬の隙に、しかもネネコ達が見ている中逃げるのは至難の業だ。
本当に消し炭になったんだろう……。
そうして過激派魔族達との戦いは幕を閉じた―――――。
それから数年後。
過激派魔族達を一掃したことで、魔界には殺伐とした空気がなくなり、穏やかな日常を取り戻しつつあった。しかしそれでも、人間達の魔族に対する強い偏見というものはそう簡単になくなるものではない。
ヴァルグレイドも何処かへ姿へ消したようだ。だが、暫くはなにもできやしないだろう。
今でも日々魔族を倒すために日々鍛錬し、切磋琢磨している者もいる。極端に言えば、それに一生を費やす者もいるだろう。
しかし、別にそれはそれで構わない。
魔族という共通の敵がいることで、勇者曰く、少なくとも人間達による戦争、諍いというものは激減したという。それならば、俺達魔族の存在は、むしろ人間を人間らしく生きる上での貢献に役立ったのではないか?
俺は、人間の血を半分引いている。だから、人間らしい考えをするようになった。
できるだけ、争いを起こさずに平穏に暮らせればそれでよい。
それが俺の願いだった。
それに最初に同調してくれたのはネネコだ。
そこからルシエル、オザルリオ、ミリアと続き、穏便派組織が出来上がった。
彼らの活躍がなければ、過激派魔族達による侵攻はもっと残虐でひどいことになっていただろう。
しかし、勇者にはある意味では感謝しなければならない。
本当ならあの白ネネコの言うことなど聞かずに、俺を殺すこともできたはずだ。
それなのに、白ネネコのいうことをバカ正直に信じて、結果はそれが真実だったから良かったものの……やはりあの勇者は……。
「ふむ……」
と、俺がすっかり元通りになった魔王城の魔王の間の玉座に座りながら、コーヒーを飲んでいると、ネネコと、それを追いかけるフェイリスの姿が目の端にうつった。
「ネネコさん、返してくださいー! それは私がルイさんに貰ったものなんです!!」
「ダメです!どうして貴女がルイ様と同じペアルックのブレスレッドをしているんですか。ルイ様とのペアルックは私だけで十分ですからっ」
「意味がわかりませんっっ!」
そうして走り回る2人を、ルシエル達は微笑ましそうに見ていた。
「いやー……あのネネコがああも感情を表に出すとは……。あの僧侶は一体何者なんですかな」
「すごいでござる……。あっしが話しかけても、凍てつくような視線でしか見られないというのに」
「あのね……ネネコはそこまで冷たい奴じゃないわよ」
俺は必死に追いかけるフェイリスから逃げるネネコを見ながら、白ネネコのことについて考えていた。
バイラスを倒し、過激派魔族の大部分を倒して戦いを終結させたあと、白ネネコは満足したかのように自身の未来へと戻っ
ていった。 あの白ネネコは結局未来のネネコということは信じよう。
しかし、たった5年でああも物腰が柔らかくなるものなのか……?
勇者にも他の者にも全く敵意を向けることはなかったし……。
元の世界では、きっと彼女の気持ちを変える決定的な何かがあったのだろう。
俺は、最後に白ネネコから貰った、黒い眼帯を手に取る。
白ネネコは別に、目を怪我しているというわけではなかった。それならば何故、眼帯をしていたのか。
その理由は最後までわからない。
ただ一つ分かることといえば、彼女がいなければ、今この場に俺はいない……そういうことだけだ。
「おーいルイ君~」
そこへ、勇者達も俺の城へと姿を表した。
皆最初はギョッとして驚き警戒したものだったが、俺が勇者と普通に話している上、何度も足を運んでくるうちにすっかり慣れてしまったらしい。今では、普通に勇者と仲良く会話までしている。
「ちょっと、ルイ。私にばっか買い物させて一体何の恨みがあるのよっ!」
「結局お前、ネネコに謝っていないじゃないか。その罰だ」
「だからってねぇ……」
アリサのこめかみがひくついた。
そう。結局アリサが不機嫌だった理由は、あのボンタ王子とかいう奴に付きまとわれていたかららしい。なまじ王の息子であるからか、無下にもできずストレスだけがたまり、それが顔に出ていたんだという。
理由のしょぼさにあまりにも呆れてしまうが、まあ、馬鹿なアリサならしょうがないか、とも思う。
だが、いじっぱりなためか悪いとは思っていても結局ネネコに謝らないアリサに罰として、1週間俺のパシリになるということで手打ちにしたのだ。
本当は、ネネコのパシリでも良かったのだが、ネネコ曰くあんな使えなさそうなパシリは要らないとのことで、俺が引き受けた。
ちょうど、魔界にてちょっとした催し物でも開こうと考えていたところだったので俺は食べ物などを全て人間界からアリサに調達させたのだ。その苦労はいざしれず。
催し物は俺はあまり好きではないのだが、今回は特別だ。
「さあ、アリサも来たところで準備にかかろう」
そうして、料理が作られている間、エリカが俺の側近の大魔道士と会話しているのを見つけた。俺とは違い熱心に話を聞いてくれるエリカに嬉しいのか大魔道士はどんどん得意げに語っていく。そしてその話を逐一メモしていくエリカ。
やはり研究熱心だなエリカは。
まあ、お互い楽しそうだし話しかけるのも野暮というものか……。
「はぁ……はぁ……返してくださいぃぃ……」
ついに息切れしたのか、ネネコを追いかけることを諦めたフェイリスと、ネネコ。
そのネネコは俺の横に立つと、
「ルイ様、このブレスレッドはどうしますか?」
「どうもしない。早くフェイリスに返してやれ」
「え、ええー……」
珍しく俺の命令を渋るネネコ。
だが、俺が強く命令すると、ネネコの体は意思とは関係なく動く。
「か、体が……!? ルイ様!」
「こんな時に喧嘩するんじゃない。さっさと、フェイリスに返してやれ。
それは俺がフェイリスにあげたものだ」
「う、うぅ……はい」
俺に怒られ、しゅんと耳をうなだれながらフェイリスにブレスレッドを返すネネコ。そしてそのブレスレッドを大事そうに受け取るフェイリス。
「よ、良かったですぅ……」
と言って、その場に座り込んでしまった。よっぽど走り回ったのだろう。
その間に、次々と料理が運ばれていく。
やがて、全ての料理が運ばれ終えると、俺達は魔王の間に一斉に集まった。
俺は、一同をぐるりと見渡しながら、
「皆。今回は本当によく頑張った。お前達のおかげで、人間たちにはそれほどの被害を出さずに戦いを終えることができた。
魔族と人間たちの確執はまだまだ深い。
しかし、こうして勇者達が俺達の理解者となってくれている。
まずは一歩前進した、ということだ。
これからもこの調子で少しずつ人間との確執を俺は減らしていきたいと思っている」
その言葉に、皆が拍手した。
俺はそれを制止させると続ける。
「……と、まあ堅苦しい話はこのぐらいでいいだろう。
では皆、乾杯だ―――――!」
「「乾杯っ!!」」
そうして俺達は朝まで飲んで食べた。
人間も、魔族も関係なく、俺達はひたすら楽しんだ。
それはまさに俺の理想とする光景だ。
願わくば、この平和な日々がいつまでも続きますように――――。
Fin
今までご精読して頂きありがとうございます。
新作の方も更新しておりますのでよかったらどうぞ。




