未来
「だ、誰だ……? お前は…」
助けてもらった恩も忘れてそんなことを言う俺。
その女は、俺を見てふっ、と微笑むと、
「空間移動――――!!」
そう叫んだ。
次の瞬間、俺、ネネコ、勇者、エリカ、フェイリスは別の空間へと飛ばされる。
そこは今まで見たことのない大きなホールだった。周囲の壁はところどころくすん
でおり、衛生的にはあまりよくない。
しかし、驚いたのはそれだけではなかった。
「ルイ様っ」
「ルイ様だ!」
そう思って振り返るとそこには大勢の魔族達がいた。
どうしてこんなところに魔族達が……。
俺は全く理解ができず、フェイリスたちと顔を見合わせる。
「まぁ、ここまでくれば大丈夫でしょう」
そう言ってネネコに似たその女は、俺の方をくるりと振り返る。
片目には黒い眼帯をしており、もう片方の鋭い目つきはネネコにそっくりだ。
俺は警戒を緩めずに、ネネコ達を後ろにやる。
俺が口を開こうとしたとき、先に話しかけてきたのはその女だった。
「お久しぶりです、ルイ様」
そう言うと、一礼される。
「お久しぶり……? 俺は君のような人物は知らないぞ」
俺がそういうも、その女は笑うだけだった。
上から下までその女を見る。
ネネコにそっくりだが、ネネコに姉妹がいるなんて聞いたこともない。
じゃあこいつは一体誰なんだ?
すると、勇者が俺の前へと出た。
「もう、いいのかい?」
勇者がそう言うと、その女はこくりと頷いた。
「ギリギリでした。あともう少し時間が早ければ、きっと倒すことは不可能だったで
しょう」
「じゃあ……」
勇者の顔がぱっと晴れやかになる。
な、なんだ。わけがわからないぞ。
女は、勇者に微笑むと続いてこちらを向く。
「まずは、ルイ様。このようなことをしてしまい、本当に申し訳ございません」
そして、俺に深く頭を下げた。
それで、俺は合点がいった。
このようなこと、とはつまり……。
「じゃあまさか君は……」
「はい。勇者リュートにルイ様の力を封印しろと命じたのは私、“ネネコ”です」
「―――っ!?」
「えっ?」
「はいい!?」
俺は一瞬その女の言っていることの意味がわからなかった。
いま、こいつは自分の事をネネコ、と言ったのか。
俺は思わずネネコの方を見る。
「貴女は一体何を言ってるんですか? 勝手に私の名前を使わないでください!」
それに聞けば、貴女がルイ様の力を封印した? ふざけるなっ!!」
そう言うと怒ったネネコがその女に向かって走っていった。
2丁の短剣を逆手に持ち、いきなり本気で斬りかかったネネコだったが、
「ふ……」
「な……!」
なんと、その女はネネコの本気の攻撃を同じ短剣2丁で受け止めた。それも軽々と。
更に、
「やはりまだ弱いですね……」
そう言うと、何かを詠唱する。
間もなくして、ネネコから力が抜けていった。
「これは脱力の魔法かっ―――!」
体を支えきれず、ネネコはその場に座り込んでしまう。
「感情に直上的なのも相変わらず……ですか。やはり、まだ若いですね」
「く、貴様……」
ネネコが憎々しくそのネネコと自称する女を睨むも、涼しげな表情でそれをかわす。
そして、こちらに近づいてくると、
「皆さんが混乱するのも無理はありません。なにせ、私は5年後のあの子の姿ですから」
そう言った。
「な――――」
5年後の……ネネコの姿? だと。
皆が驚く中、勇者だけが動じていなかった。
俺は眉をひそめながら、
「ちょっと待て。未来から来た、とでも言うつもりか?」
自称ネネコもとい、白ネネコは頷く。
「本当はもっとゆっくりルイ様たちに状況を説明したいのですが、ヴァルグレイドが
侵攻してきている以上、手短に説明しようと思います」
そうして、俺達の頭の状況が追いついていない中、白ネネコは言った。
「今から5年後の未来、つまり私が元いた世界では魔族はおろか、人間達もほぼ全員死
亡しています。
その原因は、あのエイジス博士が発明したバイラスという化け物でした。
本来の歴史では、ルイ様はバイラスによる襲撃を受け、私を庇って重傷を負いなが
らも人間界へと逃げました。
そこで勇者リュートとルイ様は出会います。重傷のルイ様を勇者リュート達は看病
し、ルイ様が事情を説明します。
そしてバイラスを倒すため、ルイ様が勇者たちを鍛えたのです。バイラスたち魔族
に見つからないよう、場所を転々としながら……。
その間に、人間界への侵攻は始まり人間達はどんどん殺されていくのですが、私達
は辛抱強く耐えました。
しかし、そこから半年経ったところでバイラスに見つかってしまい、そこで勇者リ
ュートが死亡してしまいます」
「なっ……」
勇者が死亡?
勇者を見れば、自分が死んだという話にもかかわらず特に驚いた様子はない。
事前に聞かされていることがうかがえた。
「そして怒りに震えるアリサ様達をルイ様は無理やり連れ、ひたすら鍛えたのです。
それは勇者リュートの望みでもありました。
お互いに、どちらかが死んでも必ず辛抱する……と。
しかし、バイラスはしつこく、それから1年程たった頃、私達は隠れている場所に見
つかってしまいます。
既にバイラスは、あろうことか人間どころか同じ魔族にまで手を出し、殺していた
のです」
それはヴァルがバイラスによって殺されたところからも大体予想はできる。しかし
、バイラスだけでそこまで壊滅的ダメージを与えることなどできるのか?
しかし、過激派組織のエイジスは昔から変な発明ばかりしていたと聞く。もしかす
れば究極兵器のようなものを作っていてもおかしくはない……か。
「そしてその戦いでルイ様は……死にました」
「――――!」
一同が息を呑むのがわかった。
本気である俺を殺す……か。
バイラスはそれほどまでに強いのか。
「しかし、そこで私は怒りによりこのような姿になったのです。赤かった私の髪やし
っぽは白くなり、尻尾も2つに増えました。
それでパワーアップした私が、その世界のバイラスを倒したのです。
しかし、私に残ったのはルイ様を失った虚無感と喪失感だけでした。暫くは何をし
ても動かないぐらいにまで私は疲弊しきってしまいました。
それを見かねたそこにいるエリカさんが、数年かけてタイムリープの魔法を取得し
たのです」
「え、わ、私が!?」
白ネネコに指をさされ、驚くエリカ。
かくいう俺もさっきから驚きっぱなしだった。まさか、エリカがタイムリープを取
得するだと……? 俺ですら取れなかった魔法を……。
「エリカさんは、あのリガウスの血を引いていますから、きっとそれが影響したので
しょう。とにかく、私はそれで過去にまで戻ってきたわけです」
「ちょっと待て、それならなぜお前がバイラスを倒さない」
白ネネコがその未来の世界でバイラスを倒したのならば、こっちに来て倒せば解決
する話だと思ったのだが……。
しかし白ネネコは申し訳なさそうに首を横に振る。
「すみません。それはできないんです。何故なら、タイムリープの魔法には期限があ
り、その期限を過ぎると私は自動的に未来に送還されてしまうからです。
バイラスを倒そうと思っても、それだけ魔力を消費しますから、倒しきる前に私の
魔力が尽きて未来に強制送還されてしまいます。
そうすればここに来た意味がなくなるのです」
「ふむ……」
なるほど、話の筋は通っている……。
だが、まだ1つ問題は残っている。
「ならば聞くが、“どうして俺の力を封印”した?」
俺が睨むようにして白ネネコに言うと、彼女は目を瞑りつつ、
「それは、ルイ様の魔力の性質です。
実を言うと、ルイ様の魔力は封印されたのではありません。
ルイ様が生み出す莫大な魔力を、吸い取っていただけに過ぎません」
そう言うと、白ネネコは丸い岩盤のようなものを見せてきた。
「これは……俺の城の宝物庫にあるゴルゴレイクではないか!!」
ど、どうしてこんなところに……。
いや、問題はそこじゃない。
「じゃあまさか、俺の魔力は……」
勇者以外の人達がよくわからない、と言った様子で首をかしげる。
白ネネコは、笑んだ。
「はい。ルイ様が勇者リュートに封印されてから今日までの間、本来ルイ様が生み出
した魔力は全てこの中に入っております」
そう言うと、俺はネネコからゴルゴレイクを受け取る。
そこで俺はついに合点がいった。
「ちょ、ちょっとルイ君、全く話が見えないのだけれど、私達にもわかりやすく説明
してくれないかしら」
「ああ。このゴルゴレイクは、対象となる人物を設定するとそいつの魔力を永遠に吸
い取るんだ。吸い取られた方は、魔力が0になるんだから封印されたと勘違いしてもお
かしくないだろう」
白ネネコがやりたかったことは、ゴルゴレイクに俺が生み出す魔力を貯めて、あと
で俺の方へと還元することで莫大な魔力を得た俺に、バイラス達過激派魔族達を討っ
てもらう……。そういうことだな。
「ルイ様にこのことを言わなかったのは本当に申し訳ございません。ですが一つ言い
訳を許していただくとすれば、ルイ様とネネコが共に学園に通う姿が見たかったので
す」
「はぁ……あのな……まあいい、とにかく、この中に全て俺の魔力が詰まっている。
そういうことでいいんだな?」
白ネネコが頷く。
そうと決まれば、早速―――
「ルイ様!」
「なんだ? 今忙しい……」
そう思って振り向くとそこにいたのは――――
「お、お前ら……なんで!?」
敬礼するルシエル、ミリア、オザルリオの姿がそこにあった――――。
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