和解・・・?
「……」
夜。
宴の場では、たくさんの人で埋め尽くされていた。中には全身を宝石で着飾った商人や、貴族、公爵までもが出席し、皆勇者が魔王を討伐したことを盛大に賛美した。
勇者達は現在公爵達に囲まれて談笑している。おおかた、どうやって魔王を倒したのか、とかそういう話だろうな。それか何かの勧誘か。
俺は、ご飯をさっさと済ませるとワインを持ち、端の方でおとなしくしていた。
そして改めて、宴の場を眺める。
皆、魔王(俺)が討伐されたという話を聞いて大層喜んでいた。別に俺自身は、人間達に危害を加えたわけではないのだが、どうも人間達からすると俺が諸悪の根源だと思っているらしい。
聞いていると、皆口々に魔族達の悪口ばかり言っている。
確かに過激派のような悪い魔族もいるのは事実だ。だが、全員が全員悪に染まっているというわけでもない。中には善良な魔族だったのにも関わらず、人間の商人によって裏切られたり、ひどい扱いを受け泣きながらこっちに戻ってきた魔族もいる。そしてそこから過激派に入った奴もな。
だから正直俺は人間達と、特に偉そうにしている公爵や商人たちとは会話すらしたくなかった。
なのでこうしてあまり人に触れられないように端っこでおとなしくしている。
だが、そんな俺に話しかけてくる馬鹿な奴がいた。
「ねぇ」
「……」
「ちょっと」
「…?」
つむっていた目を開けるとそこにはアリサがいた。
俺は無視を決め込むことにする。
「ちょ、あんた今一瞬こっち見たでしょ! 無視するなー!!」
「何か用か? 俺は今考え中なんだけど」
「いや、どうして端にいるんだろうと思っただけよ」
「いやどうしてって…そんな理由かよ」
女っていうのはどうして、どうでもいいことでも気にするのだろうか。
ネネコの奴も割とそういう部分があるから困ったものだ。俺関係になると特に。
「あのな。俺は魔王なんだぞ?わかってるか?
魔王がどうして、魔王討伐を記念した宴で、中心で盛り上がってる連中と一緒になって盛り上がるんだよ」
「むぅ・・・それはそうだけど」
言い返せないのか、アリサは押し黙る。
だが、俺は、アリサの俺に対する態度が最初の時のようなトゲトゲしさが少し取れていることを感じていた。
「それに俺はな。はっきり言って人間はあまり好きではない。だから極力人と話すことは避けたいんだ。
だからこうして端の方でじっと宴が終わるのを待っている」
「……」
アリサはただじっと聞いていた。
何も言ってこないなんて珍しいな。
俺とアリサは壁にもたれかけると、忙しなく動いてる人の様子を眺めていた。
だが、やがてアリサが口を開く。
「あんたはさ」
「ん?」
「本当に魔王なの?」
「何が言いたいのかよくわからないが、その問いに対して一言で答えるとしたらその通りだ」
突然わけのわからないことを言い出したアリサに少し困惑する。
だが、次の一言でどうしてそのように言ってきたのかが判明した。
「さっきさ、聞いちゃったのよ」
「聞いちゃった?」
聞いちゃったって何を?
ん? あ、もしかしてあのことか。
「あんたが、人間達を襲うつもりじゃないってことよ。
それどころか、あんたのおかげで私達はこれまで魔族による被害がほとんどなかったってこともね」
「あぁ……」
あの時の会話か。
なんとなく外から人の気配はしていたが、やはりいたんだな。
「私だけじゃなくてフェイリスとエリカも聞いてるわ。
別に盗み聞きするつもりはなかったんだけど・・・」
そう言って目をそらすアリサ。
これは明らかに嘘をついているな。まぁおおかた勇者が俺の部屋に入ったのを見たんで気になったとかそんな感じだろう。
「まさか魔族が2つの派閥に分かれているなんてね。
その穏便派っていうのが良い魔族ってことなのよね?
私、ママとパパから魔族はとにかく悪い奴だから懲らしめてやりなさいって言われてたから、ちょっと意外だったわ」
まぁ過激派だからといって必ずしも全員が悪いというわけでもないけどな。けれど大体はあたっているから何も言わないでおく。
「おい、そんなに勝手に俺の言葉を鵜呑みにしていいのか?
俺がお前達に同情を誘ってわざと嘘の情報を伝えたって可能性もあるんだぞ?」
俺はそう言ってあえて邪悪な笑みを浮かべる。
だが、アリサはくすっと笑っただけだった。
「あんた、嘘付くのが下手なのね。流石に今の言葉がウソだったことぐらい、馬鹿な私でもわかるわ」
「なんだ、自分が馬鹿ということは認めていたのか」
「うん。だけどなんかあんたに言われるとムカつくから殴っていい?」
そういうとどこから取り出したのかハンマーを持つアリサ。
その表情はにこやかだ。
「ば、馬鹿な真似はよせ!! 今の俺は人間と変わらないんだぞ?
そんな物騒なもので殴られたら今度こそ天界へ行ってしまうじゃないか!!」
「ふん、冗談よ。こんなところで殺人事件、いやあんたは魔王だから殺王事件になるのか。それをおこして騒ぎになるのはごめんだからね」
そう言うとハンマーをしまうアリサ。
ってちょっと待て。
「ちょっとまて、ハンマーは何処に消えた」
あんなに大きかったハンマーが一瞬にして消えてしまったことに俺は驚いた。
「え? あぁ。これはある人が作ってくれたのよ。保存式のをね」
そう言うとアリサはトランプのカードのJを見せてくる。マークはハートだった。
「この男の人がハンマーを持っているでしょ? そしてこうやって握って祈りをこめると…」
そう言うと間もなく再びハンマーが現れる。
「こうなるってわけ」
アリサは再びハンマーをしまうと、ジュースを飲んだ。
俺は手品のような所業にただ驚くばかりだった。
あのエリカという女、天才なのか?
こんな発明品、魔界でも見たことがないぞ。
人間の中にも、すごいやつはいるんだな。
少し、認識を改めることにしよう。
その後アリサは公爵に呼ばれたため、そっちの方へと行ってしまった。
再び一人になった俺は、騒がしい環境下にずっといたせいか、少しのぼせてしまったのでバルコニーへと向かった。