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侵攻





 それから数日間、俺はネネコから勇者が一体誰と会っているのか調べてもらったものの、その尻尾を掴むことは一向にできなかった。

 ネネコ曰く、気がついたら勇者の姿を見失ってしまうのだという。

 隠密行動が得意なネネコが見失うなんてことは考えられない。

 となると、何らかの魔法を使用している可能性が高い。あるとすれば瞬間移動(テレポーテーション)ぐらいだが、あの高度な魔法を勇者が使えるとはとても思えない。

 俺は疑問に思ったものの、その間にもう一つ気になることがあった。

 それはアリサのことだ。

 アリサが怒ってからというものの、彼女の不機嫌な様子はずっと変わらなかった。 

 勇者たちにも心当たりがないようで、どうしたらいいかわからないのだという。

 それなのなら直接聞いてみればいい。前ははぐらかされたが、いい加減あの不機嫌な態度にはみてるこっちもイライラするというものだ。

 あいつは結局ネネコに謝っていない。そのことについても言ってやらないと。

 そう思い、俺は早速アリサに聞くことに。

 しかし、放課後になるとあいつはすぐ何処かへ出かけてしまう上に、エリカから、禁止級魔法についての指導も頼まれている俺は、忙しすぎて中々アリサと話す機会が取れなかった。

 そして時間だけが過ぎていき、結局勇者が誰と会っていたのかもわからないまま、俺はネネコに尾行させることを断念した。

 一応、フェイリスやエリカもアリサに理由を聞いてみたのだが、なんでもないの一点張りで取り付く島もなかったそうだ。

 

「……」


 しかし、俺も随分とここの学園生活に慣れてしまったものだ。

 結局俺は、何のためにここに連れられてきたのかまだわかっていない。

 それを知るのは勇者だけ……。

 過激派の動向もかなり気になる。

 とっくの昔に俺が何処かへ姿を隠したということは知れ渡っているだろう。

 まだ、俺が死んでくれていると思ってくれれば、救いはあったのだろうが、そこまで馬鹿ではないはず。

 過激派リーダーであるヴァルグレイドは、かなりのカリスマ性を持っている。

 俺が逃げたと知れば、その情報をうまく利用して一気にのし上がってくるだろう。

 そしてこっちの世界に侵攻してくるのもそう遠くはない……。


「ふーっ……」


 俺は風呂から上がったあと、寮の共有スペースででコーヒーを飲みながら、今後のことについて考えていた。

 ネネコを襲ったあのバイラスとかいう奴の強さはネネコでも歯が立たない程の化物だったという。

 結局その仮面の素顔を見ることはできなかったが、恐らく過激派組織の兵器である可能性は高い……。


「よ。風呂上りか?」

 

 そうして声をかけてきた方向に振り返ると、そこにいたのはコウヤだった。

 その顔は、妙に晴れ晴れとしていた。端的に言うと、とても機嫌が良さそうなのだ。


「まあな。そっちはどうしたんだ? えらく機嫌がいいようだが」

「ふふ、やっぱそう見えるか? 実はな……」


 そう言うと、コウヤは8のスペードのカードを見せてきた。


「じゃーん! 実はこの前半年ぶりの機械による測定でさ、なんと7から8に数字が上がったんだ! 俺の努力のおかげでな!」


 そう言うと豪快に笑うコウヤ。

 

「おーそれはよかったじゃないか」


 確か8は8切りとかいう特殊効果があるんだったな。

 

「ああ、まあなっ! これであのエリーゼの野郎もぶっ潰せるってものだ」


 エリーゼ……ああ、あのQとかいう数字の高飛車女か。

 というか野郎じゃなくてせめてアマって言えよ……。


「ルイは、何か考え事か?」

「ああ……。そういえば、あれからアネットはどうなった?」

 

 ここのところ忙しすぎて、周りの状況が疎かになっていた節がある。

 俺が言うと、コウヤは腕を組みながら、


「ああ! そうだった。お前、一体どんな教え方したらあんなに強く出来たんだ? アネットの奴、3からいきなり7にまで数字をあげやがったぞ」

「ほう……。いや、俺はそんなに大したことは教えていないぞ。あいつは夜遅くまでずっと鍛錬して努力していたからな。それが実ったんだろう」


 俺は、あいつが鍛錬しやすいよう動いていただけ。

 それをうまく引き出したのはアネット本人だ。だからあれは俺ではなく、アネットの努力の結果のたまものと言える。(まあ成長くんのおかげでもあるが……)


「そうか……ありがとよ、アネットを鍛えてくれて。

 ルイに頼んで正解だったみたいだぜ」

「よせ。俺は本当にそんな大したこと――――」


 その時だった。

 突如、地面が揺れ始めたかと思うと、窓の外の空が暗くなり始めた。


「な、なんだ!?」


 間もなくして地震はおさまったものの、寮内は騒然となる。

 俺達は、外へと向かう。

 すぐ近くにある女子寮からも人がたくさんでてきた。


「おいおい、なんだこりゃ」

「……」


 空は、まるで暗黒に飲まれたかのようなどす黒い色に包まれていた。

 明らかにおかしい。

 俺はその黒い空をじっと睨んだ。


(まさか……)


 程なくして、エリカとフェイリスがやってきた。

 よほど急いで来たのか、息を切らせている。


「ルイ君っ!」

「エリカか。アリサはどうした?」

「さ、さぁ……空が黒くなったのを見た瞬間どこかに行っちゃったわ……」


 ちっ……こんな緊急時にどこにいったんだあいつは……。

 フェイリスが不安そうに俺の服の裾を掴んでくる。

 

「ルイさん……これって……」

「ああ……そのまさかの可能性が高い」


 周囲を見れば、突然起きた地震に加え、空が黒くなったことに不安を感じた生徒たちでいっぱいだった。

 俺の予測が正しければ……これはいよいよまずいことになってしまった。

 

 

「ルイ様、もしかするとこれは……」


 いつの間にか隣にいたネネコ。

 俺は頷いた。

 すると、ネネコは忌々しく舌打ちをする。


「こんな時に……」

「だが、いずれはこうなることだった。今は、そのことを受け止めて行動するしかない」


 そう。

 こうなることは前々から予測していたのだ。それが今になってきたというだけ。

 コウヤを見れば、驚いた様子で俺を見ていた。


「お、お前どうしてエリカさんまで……それにその人は? 確か、転入してきたネネコっていう人だよな? というか、ルイ様って……」


 ああ、そうか。コウヤは俺達の関係を知らないんだった。

 驚くのも無理はないだろう。

 

「まあそれは時期にわかる。今は、目の前のことにだけ集中しろ」

「あ、ああ」


 ちっ……しかしいきなりこんな大掛かりなことをしてくるとは奴め。

 よっぽど俺を怒らせたいらしいな。

 

「……」


 暫くして、空から巨大なスクリーンが映し出されたかと思うと、俺の魔王の間が映し出された。

 反映(アウトスクリーン)の魔法にしても規模が大きすぎる。

 一体どこにそんな魔力が眠っていたのかと疑問に思ったものの、その思考は奴の声によって遮断された。



『こんにちは諸君。 我はヴァルグレイドという者だ……』

「やっぱりヴァルグレイドですか……あの男め」


 憎々しくヴァルグレイドを見つめるネネコ。

 恐らく、今ヴァルグレイドが目の前に現れれば、すぐにでも斬りかかっていただろう。

 

『諸君らは、どうして我がいきなりこのような形で現れたと、疑問に思ったであろう。

 その答えは単純明快。我がこの魔界の王であるからだ』


 その言葉に、周囲は騒然となる。


「は、はあ!?」


 あいつはいきなり何を言っているんだ……。

 まさかのし上がってくるとは言ったがそれがいきなり自分のことを魔王と言い出すなど……。


『どうやらそちらの世界では魔王は倒されたというふうになっているらしいが、それは真っ赤な嘘だ。実際は、人間界に逃げてきたに過ぎないのだからな』


 ちっ……あいつやはりそんな情報まで知っていやがったのか……。

 ヴァルグレイドは続ける。


『くくっ。皆の驚きに満ちた顔は実に面白い。

 だがな、もっと面白い話を教えてやろう』

「…………っ!」


 俺は、何か猛烈な胸騒ぎがした。

 そして、それは現実のものとなる。


『その逃げてきた魔王というのはな、どうやら学園に通っているらしい……!!

 く、くくく、ハッハッハッハ!! 実に面白い話とは思わないか……?

 なぁ? ル・イ・さ・ま――――?』



「……」


次の瞬間、スクリーンが粉々に割れると、俺の方に向かって黒い何かが突っ込んできた―――!!


「ルイ様!!」


 ネネコが反応するも、そのあまりの速さにもはやなすすべがない。 

 それどころか、俺だけでなく、他の皆も巻き添えになるだろう。

 もはや、どうしようもなかった。


「……」


 俺はこんなところで退場するのか?

 否、それでいいはずがない。

 しかし、魔法も何も使えない俺はちっぽけな存在だ。

 どうあがいたところで、あれから避けることは不可能――――。


「くっ……」


 元はと言えば、俺はあの時勇者に殺されるはずだったのだ。それがこうして今まで長らえただけでも奇跡に等しい。

 最後がヴァルグレイドの手の者によって死ぬというのは、癪に触るものの、それも魔族の王である俺が甘いばかりに招いた事故……。

 

(じゃあな)


 そう思い、俺は覚悟を決めた―――――! 

 だが……。


「はあああああっ!!!」


 突如、何者かが俺の目の前に現れたかと思うと、その黒いものを叩き斬った。

 その速度はもはや視認できるものではない。


「な……」

「大丈夫ですか、ルイ様?」

  

 そう言って振り返ったそいつの耳には猫耳があり、尻尾も2本生えていた。

 ネネコとは違い、髪の毛は赤ではなく雪のように白い。

 しかし、その顔はあまりにもネネコにそっくりだった――――。



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