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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第3章 フェイリス
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回想、闇後編


『い、いや……お父さんやめてぇ!』


 私の悲痛な懇願が家の中にこだましました。

 それも虚しく私は頬を殴られそのままその場に崩れ落ちます。

 初めて父に殴られたという悲しみと、恐怖で私は思わず目に涙を浮かべました。

 父はそんな私を見て我に返ったのかすぐに駆け寄ってきて、


『す、すまないっ……。許してくれ……』


 そう言って私の事を抱きしめると謝ってくれました。

 大好きだった父から受けた暴力に、私は大きなショックを受けました……。

 けれど、父は離婚してストレスが溜まっていたことに加え、高い学園の費用を出しているにも関わらず結果を出せなかった私にも責任があったので、その時はどうにかこらえました。

 それに私を殴ったあと、父はすぐに私に謝ってくれたので……。

 でも、父の暴力は次第にエスカレートする一方でした……。

 次第に体には殴られた痣が出来始め、私の声も小さくか細いものになっていきました。

 そんなある日のことです。


『お、お父さん……お酒また飲むようになったの……?』


 その頃には私はお父さんに話しかけるのが怖くて、できるだけ家の中では近くにいないようにしていました。

 けれど、酒癖が悪いからと言って断固としてやめていたお酒を、また飲み始めたので私は思い切って夕食の時に聞いたんです。

 しかし、その時既に出来上がっていた父は焦点の合っていない目で私を睨むと、


『うるせぇっ! 俺が酒飲んで悪いんかぁ!? あぁっ?』


 と言ってテーブルを思い切り叩きました。その音に私は肩を震わせます。

 置いていたグラスの中の酒が飛び散り、皿の上にあったものが溢れました。


『ご、ごめんなさいっ……、だから怒らないで…』

『ちっ……お前を見てるとむしゃくしゃする……、ああそうか。あいつに似ているからだな…!!』


 あいつ、とは母の事です。

 母と離婚してからというもの、父は母の事をすごく憎らしく思っていました。

 ですから、母の顔に似ている私に矛先が来るのはそう遠くありませんでした。

 次第に父は朝から飲み歩き、泥酔状態になって帰ってくることも少なくありませんでした……。

 そして泥酔した父は、私を見るなり、母に顔が似ているという理由で殴るようになりました。

 その頃にはもう、優しかった父の面影はなりを潜め、私はただ父のご機嫌を伺い、殴られないようにするので精一杯でした。 

 けれど、1つだけ嬉しいことがありました。

 それは、私が少しずつ結果を出せるようになってきたことです。辛い日々ではありましたが、徐々に力を使いこなせるようになってきて、これで私もお父さんに殴られることはなくなる……。

 そう信じていました。

 しかし……。


『な……にこれ…』


 ある日、私の家に送りつけられた封筒には大量の請求書が入っていました。

 父は賭博にまではまってしまい、大量の借金を作ったんです。

 そのおかげで、私は学園に通えなくなりました。


『くっ……』


 その時初めて私は父に激情という感情を覚えました。

 しかし、そんな私に父は、


『お前が無能だからこんなことになった……! お前がもっと早くに結果を出せていれば俺はこんな借金も作ることなかったんだ!!!』


 と言って全ての責任を私に押し付け、そこでまた私を殴りました。

 その日は賭博にも負けて相当鬱憤が溜まっていたのか、かなりの癇癪(カンシャク)ぶりで、私はこのままでは殺されると思い、命からがら家から飛び出しました。


『はぁっはぁっ……!』


 周りの人達は裸足で髪が乱れている私を怪訝そうに見ながらも、手を差し伸べることはありません。

 私はとにかく父から離れることだけを考え、逃げました。

 しかし、あろうことか父は私を追ってきました。


『フェイリスっ! 逃げようとしてもそうはいかねぇぞ……』


 父の恐ろしい形相に思わず私は腰が抜けそうになります。

 気が動転して、どこに逃げていいかわからなかった私は、適当に逃げているうち路地裏の行き止まりにまできてしまいました。

 近づいてくる父の気配に、私は恐怖で思わず歯がカタカタと震えました。胸の動悸はおさまらず、冷や汗が頬を伝います。

 私は息を殺し、父が通りすぎるのをじっと待っていました。

 少しでも声を出せば、父にバレてしまう。その恐怖から、手で口をおさえ、必死に心を落ち着かせようとします。

 やがて、父の気配がしなくなったので私はその場にヘタリ込むようにして座ると、胸をなでおろしました。  


(よ、よかった……)


 このまま、夜が明けるまでここで過ごそう。

 父も、朝になればまだ会話できるぐらいまでには落ち着くだろう……。そう思い、私は路地裏で過ごすことにしたんです。

 しかし、それは間違いでした。

 父は、最初から私が隠れている場所に気がついていたんです。

 しばらくしてから、複数の足音と共に、誰かがこちらに近づいてきたんです。

 そしてその人は私が隠れている場所に、まるでお化けのようにヌゥッと現れると、私の腕を掴みました。

 硬くてゴツゴツした手で握られ、腕に痛みを感じました。


『い、痛いっ!! 離して……!』

『で、こいつで間違いないんだな?』


 私の言葉を無視し、その大男は誰かの方に視線を向けます。視線の先にはなんと父がいました。


『あ、ああ。そうだ』

『お、お父さん……? な、何の話をしているの?』


 私は目の前で起きている光景が理解できず、父に問いかけます。

 しかし、父は何も答えません。


『お前この娘の父親だったのか? 娘を売るなんて鬼畜な親父だな』

『御託はいい! そ、それで金は!?』


 父が懇願するようにして大男にすがりつきます。

 大男は、不気味な笑みを浮かべると、


『ああ、金な……。オラ、くれてやるよっ!』


 と言って父を殴り飛ばすと、次いで地面に金をばら撒きました。

 そして私は抵抗できないまま手を縛られ、担ぎ挙げられると、馬車の荷台に乗せ、そのまま走り出します。


『へ、へへ。今日は超大当たりだぜ。こんな可愛い子だったら旦那もきっと喜ぶだろうな』


 大男はだらしなく口元を歪ませながら、そんなことを言います。

 私は恐怖で声も出ません。尋常じゃないほどの体の震えと、胸の動悸ドウキでとにかく逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。


『いいか。抵抗しようとは思わないことだ。俺はともかく、旦那はキレたら何すっかわからないからなぁ?』


 そう言うと大男は私の髪を触ろうとしてきます。大男の醜悪さと気持ち悪さに吐き気を催しながらも、私は拒絶しました。


『こ、来ないで……ください』


 すると大男は眉をつり上げ、


『ちぃっ。生意気だな。これはちょっとお灸を据えないとなぁ!』


 と言って私の服を脱がしにかかろうとした時でした。

 突如、馬車が大きく揺れたかと思うと、私は外に放り出されました。


『うぅっ……!』


 硬い地面に叩きつけられ、口の中が少し切れます。

 私は血の味を感じながらもなんとか立ち上がると、状況の確認に努めました。

 どうやら大きな石に車輪が引っかかってしまい、動かなくなったみたいです。

 幸いにもここは市街地。すぐに助けを呼べば……。

 私は意を決して走り出しました。

 しかし、父に殴られボロボロだった上に裸足だった私はそんなに速く逃げることができず、すぐに追いつかれてしまいます。


『こいつぅ……!! 逃げるなっつってるだろうがっ!』


 そう言うと大男は私の頬を思い切り叩きました。ヒリヒリと痛む私の頬。

 気がつかないうちに、ボロボロと大粒の涙がこぼれ出ます。


『うっうぅ……』


 私はこんな時でも何もできない自分の無力さに腹が立ちました。

 所詮、潜在能力を秘めたと言っても有事には何もできない無力な女……。

 大男は私の長い髪を乱暴につかみあげると、思いきり顔を近付け、


『逆らうとどうなるか、教えてやろう。旦那には悪いがもう我慢できねえ』

『ひっ……』


 そう言うと男はもう片方の手でズボンのベルトを緩めようとします。

 私は顔を青ざめました。

 これからこの大男が何をしようとするのか、想像がついたからです。

 恐怖で気が動転した私は、必死に助けを求めました。

 しかし、声が出ません。

 私は必死でなにかないかと、考えているうち、自身の内ポケットにカードを忍ばせてあった杖に気がつきました。

 大男に気づかれないよう、そっとカードから杖を取り出します。

 そして、大男が私に触れようとした瞬間、私は力を振り絞ってこう叫びました。


『―――――光の(ホーリーアロー)ー――!』


 学園では一度も成功したことのない、けれど私が唯一持てる攻撃魔法。

 私は、最後の望みをかけて、そう叫びました。

 すると――――


『な、なんだその光はっ!? あ、ああああああっ!?』


 1本の光の矢が現れ、大男の腹部に命中しました。

 お腹からおびただしい量の血が流れ出て、その返り血が私にも少しかかります。

 男は口から吐血し、その場に倒れ込みました。それと同時に、私の髪を掴んでいた大男の手の力が弱まり、私は逃げ出すことに成功します。

 その後、その大男がどうなったかはわかりません。

 とにかく、必死に逃げました。裸足だったため、足の裏は既に傷だらけです。しかしそれでも後で回復魔法をかければいいので、私は逃げ続けました。


『はぁっはぁ……!』


 無我夢中で逃げているうち、後ろから大男から追いかけてきていないか不安になり後ろを振り返った瞬間、前にいた人にぶつかってしまいました。


『あぅっ……!』


 私はそのまま跳ね返されて尻餅をつきます。

 恐る恐る顔を上げると、


『貴方……大丈夫?』


 そうして手を差し伸べてくれたのは、エリカでした―――。



  


 


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