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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第3章 フェイリス
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肝っ玉

「なっ…」


 目をまん丸にして、唇をわなわな震わせるフェイリス。


「な、何やってるんですかネネコさん…!」

「何って…寝ていただけですが」


 何がおかしいの?と言った様子で質問に答えるネネコ。

 

「どうしてルイさんと一緒に寝てるんですかっ」

「その方が、何かあった時に守りやすいからです。魔界では警備がある程度備わっていましたが、こちらではいつ何時ルイ様が襲われるとも限りませんから」


 そう即答するネネコ。その言葉には一点の曇りもなかった。



「だからって、ルイさんに抱きつくことないんじゃないですか…?」

「どうしてですか?」

「どうしてってそれは…その……。

 ………。

 と、とにかく離れてくださいーーーっ!!」


 そう言ってフェイリスは無理やり俺からネネコを剥がそうとする。

 それに対して抵抗し、俺の腕に更にきつく抱きつくネネコ。

 む、胸が……また押し付けられて…。


 

「やめてください。寒いです」

「寒いなら、毛布を被ればいいと思いますっ」

「ルイ様の方が暖かいので」

「う、うぅ……。じゃ、じゃあ私も――――」


 そう言ってフェイリスが俺に近づこうとした時、俺達が騒いでいたためか勇者が起きてきた。

まだ寝ぼけ眼でこちらを見ると、フェイリスがいることに気づいて目を瞬きする。


「おはよう…フェイリスどうしたんだい?」   

「リュートさん!? い、いえっなんでもないです!」


 そう言うと、慌てて俺から距離を取る。

 フェイリスの慌てぶりに俺は思わず苦笑してしまうものの、勇者も起きてきたことだし、俺もそろそろ起きねば……。

 

「ネネコ、俺達も起きるぞ」

「え? あっはい」


 そう言って俺達は起き上がると、ようやくネネコは俺の腕から離れる。

 その様子を見てフェイリスは安堵すると、こう切り出した。


「ルイさん、おはようございます。今日から精一杯頑張るのでよろしくお願いします」


 そう丁寧に頭を下げられるが全く何のことかわからなかった。

 それを見かねたフェイリスが、


「あ、その……護衛です」


 護衛……あっそういうことか。

 こんな朝早くから来るとは……フェイリスはすごい真面目なんだな。

 フェイリスの言葉に驚く勇者。


「え、フェイリス。護衛ってどういうこと?」


 そう訝しげに聞く勇者。

 そうか、勇者はまだ知らないんだったな。

 俺は乱れた服を正すと、勇者と真剣に向き合う。


「ルイ君、一体どういうことなのかな」

「ああ、実は……」


 そして勇者にフェイリスが俺と眷属の誓いを結んだことで、主人である俺が死ねばフェイリスも死ぬこと、フェイリスも俺を守ると言った事を説明した。


「ルイ君が死ねば、フェイリスも……?」

「ああ。俺も本当はそんなことはしたくなかった。だが、あの場ではそうしなければ俺達は殺されていた。許して欲しい」


 そう言って俺は勇者に頭を下げる。


「ルイ様っ!? どうしてそのようなこと……」

「いいんだネネコ。これは俺のけじめだ」


 まさかあの勇者に頭を下げることになるとは夢にも思わなかったが、俺の私情と、この話はまた別だ。

 ネネコはともかく、フェイリスは勇者のパーティの1人なのだ。その1人を傷物……と言ってしまっては語弊(ゴヘイ)があるが、変えてしまった。

 昨日の説明では、俺がキスをすることで魔力を供給し、眷属となることで腕に紋章が焼き付けられるということまでしか話していない。つまり、俺が死ねば眷属も死ぬことまでは話していない。

 だから勇者が驚くのも無理はない。それどころか殴られてもおかしくないことをしたのだから。


「殴ってくれても構わない。それでお前の気が済むのなら」

「……」


 勇者は何も言わない。その表情はまるで読めなかった。

 俺と勇者の間に緊張感が走る。

 その間に割り込んできたのは、フェイリスだった。

 俺をかばうようにして前に立つと、こう言った。


「リュートさん! ルイさんは、私を庇って怪我をしました。本来敵である私なんて放って逃げ出すこともできたはずなのにそれをせずに怪我したんです

! そしてあのままもし眷属の誓いをしていなかったらだと私とルイさんは殺されていました……。だからむしろルイさんは私の命の恩人なんです! だからルイさんを殴らないでくださいっ」 

「フェイリス……」


 そう言って手を広げるフェイリス。

 体は小さいのに、その背中はとても頼もしかった。

 俺のけじめと言ったためか、ネネコは横から口を挟むことはなかったものの、勇者の動向次第ではいつでも動ける状態で警戒している。

 

「……」


 勇者は黙ったまま、下を向いていたがやがて、


「ぷっ、あはははは!」


 と、吹き出した。 

 思わず俺達はあっけにとられる。

 勇者は笑いながら、


「別に僕は怒ってないよ。ルイ君が、(オトシ)めるためにそんなことをするなんて思ってないからね。

 むしろフェイリスの言う通り、ルイ君はフェイリスを救ってくれた。感謝こそすれ、殴るなんてとんでもないよ」


 そう言って破顔した。

 フェイリスは胸を撫で下ろす。

 

「でも、ここ最近でルイ君とフェイリスは本当に仲が良くなったんだね。まさかフェイリスがルイ君を庇うなんて思ってなかったからそっちに驚いたよ」

「そ、それは……」


 フェイリスは顔を赤らめる。

 それを見た勇者は、


「へぇ……」


 何やら1人で納得したようだった。

 そのままこちらにやってくると、耳元で、


「ルイ君にフェイリスを頼んで良かった」

 

 そう囁くと、横に置いてある私物を取った。

 そして、ネネコの方に視線を向けるとこう言った。


「ネネコさん。今から僕と一緒に来てくれるかな。今日編入するにあたって色々と手続きがあるからね」


 そう言うと、ネネコは俺に視線を向けてくる。

 俺は頷いた。


「わかりました、同行します。じゃあルイ様、また後ほど。

 ……貴女はくれぐれも、ルイ様に色目を使わないように」


 そう言ってネネコはフェイリスに釘を刺すと、勇者と共に部屋から出ていった。

 後に残された俺とフェイリス。

 

「とりあえず、シャワーを浴びてくる。少し待っててくれないか?」

「あ、はい!」


 フェイリスは頷く。

 俺は着替えを持って風呂場に備えられているシャワーで体を洗い、着替えたあと再び部屋に戻る。

 フェイリスは、椅子にちょこんと腰掛けながら、俺のベッドの上にあるブレスレッドを見ていた。


「そのブレスレッドがどうかしたか?」

「あ……いえ。ネネコさんも同じものを付けていたなぁと思って……」


 鋭いな。


「気になるか?」

「い、いえ……別に……」


 そうは言うものの、その表情から気にしているのは丸分かりだった。

 ふふ、素直じゃないやつめ。気になるなら最初からそういえばいいものを。

 俺は苦笑すると、こう説明した。


「まあそんな大層なものではない。単純に、ネネコが俺にプレゼントしてくれたものだ」

「へぇ…ネネコさんが?」

「ああ。魔界の色々な雑貨屋を回って、俺が好きそうなものを自身で考えて選んでくれたんだ。ペアルックのブレスレッドをな」

「ルイさんとペアルック……いいなぁ」


 羨ましそうに、ブレスレッドを見つめるフェイリス。


「なんだ、ヤキモチか?」


 俺がからかうようにして言うと、その瞬間フェイリスの頬はみるみる紅潮していく。


「す、すいません。ご迷惑でしたよね……」


 俺から目をそらすようにしていうフェイリス。


「いいや、そんなことはない。

 フェイリスには助けられた恩もある。今度、何か買うよ」

「え……いいんですか?」


 俺は頷く。

 その言葉に、フェイリスは破顔した。


「や、やったぁ……!」


 思わずその顔に見とれてしまうのを、俺は目をそらした。

 それを誤魔化すようにして、俺は、


「ごほん…それで、話は戻るが……今日わざわざ朝にここまで来たのは昨日のことがあるからか?」

「はい。ルイさんを守るなら、やっぱり朝からいないとダメかなと思いまして!」


 そう言って張り切っているフェイリス。

 俺を守る―――。

 そう言ったフェイリス。それを如実に実行しようとするフェイリスの真面目さには感心する。

 だが……。


「そこまで気負う必要もない。フェイリスはいつも通りにしてくれていいんだ」

「ですけど、それじゃ護衛の意味が……」

「大丈夫だ。少なくとも学園の中ではな。

 もし護衛が必要な時は、俺から声を掛けるから心配しなくていい」

「そうですか……わかりました」


 フェイリスとの特訓もまだ続いている。だから必然的にフェイリスといる時間は長くなるだろう。

 ただ、これからはネネコもいるので中々そうはいかないが。

 あと、フェイリスはアネットに戦いの指導も受け持っているからな。俺よりも忙しいはずだ。

 だからできるだけ護衛というものに縛られて欲しくはない。


「よし、じゃあそろそろ準備をして学園に行こうか」


 そうして俺が出る準備をしているとフェイリスがこう切り出した。


「あの……ルイさん」

「どうした?」


 背中越しに声を掛けてくるフェイリスに、俺は軽く返事をした。

 フェイリスは一瞬黙った後、こう言った。

 

「昨日は、ネネコさんがいて伝えられなかったんですけど……。

 私がどうして男の人に触れなくなったのか……。

 ルイさんに知ってもらいたくて」

「っ!!」


 俺は思わず手を止めてフェイリスの方に振り返る。

 見れば、フェイリスは何やら真剣な表情で俺を見ていた。いや、むしろ思いつめた表情と言ったほうが正しいかもしれない。


「……いいのか?」

「はい…。私はもうルイさんの眷属ですから。それに特訓にも付き合ってもらってますし……お教えしたほうがいいかと思って」

 

 俺は準備をやめて立ち上がると、フェイリスの方へと向き直る。


「ああ……聞かせてくれ。君がどうして男を触れなくなったのかを」


 

 

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