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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第1章 学園入学まで
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穏便派と過激派

「なによあいつ。感じ悪いわね」

「アリサ。王子にそんなこと言ったらダメよ」

「でも…」


 アリサが王子に対して悪態をつく。

 勇者は特に気にすることもなく続けて言った。


「じゃあとりあえずみんな、夜までゆっくりしていて構わないよ」


 そう言って、勇者が立ち去ろうとするのをアリサが引き止めた。


「リュート、そっちは部屋じゃないわよ」

「あ…いや、ちょっと用事があってね。

 皆は先に部屋に行っていてくれ」

「そう、わかったわ。じゃあ私たちも行きましょ」


 そうして俺は勇者と分かれ、アリサ達と共に別室へ。

控えていた兵士によって、俺たちは各々の部屋へ案内される。

 俺は、剣を棚の横に立てかけると、ベッドに座り込む。


「あー疲れた」


 ロープで縛られていた手は、王様と謁見(エッケン)する際に切られている。だが、あのアリサとかいう女がきつく縛ってくれたおかげで手首にくっきりと痕が残っており、若干痛い。

 俺は背伸びをすると、窓から外を眺めた。

 鍛錬だろうか、兵士達が剣で斬り合っている。楽しそうだった。

 が、どこか真剣さが足りない。

 俺はしばらくそれを眺めたあと、本当に自分の能力が封印されたのか再度確認するため、いくつか呪文を唱えてみる。

 しかし、やはり何も起こらなかった。


「はぁ……なんてこった」


 これでは本当に人間と変わらない。

 今なら、あの勇者パーティどころか、兵士にすら襲われたらやばいかもしれないな。

 俺は剣術も一応たしなんではいるものの、そこまで得意じゃない。

 大体は自身に強化魔法を唱えてごまかすか、剣を使わず拳で勝負するか。むしろそっちの方が俺にあっている気がする。

 だが、それすらもできないとなると……。

 俺が悩んでいると、ふいに部屋がノックされた。


「僕だよ。入っていいかな」

「勇者か、ちょうどいい。俺も聞きたいことがある」


 そうして俺は勇者を部屋の中へと入れる。

 相変わらず何を考えているのかさっぱりわからん表情で、俺を見た。

 勇者は椅子に座ると、こう切り出した。


「それで、聞きたいことって何かな。

 もしかしたらそれによっては僕が言いたいことと合致している可能性があるからね」

「ふむ。じゃあ遠慮なく。

 どうして俺を学園になど入学させる」

「やはりそう来ると思っていたよ。

 でもね、僕が何故君を学園に入学させたか、それを説明することは今はできない」

「何?」


 理由を説明できない?。


「じゃああれか、俺はお前に理由を知らされずもやもやしたまま、とにかく学園で生活しろと。そう言うんだな?」


 少し嫌な言い方をしてみたが、勇者ははっきりと頷いた。


「すまないね。

 でも僕も実ははっきりとよくわかっていなくてね。

 どうして彼女は……」


 後半がよく聞き取れなかったものの、勇者は俺に対して謝罪をする。

 だが、俺は別に謝罪が欲しいわけではない。

 本当ならこんな面倒なことはさっさと逃げ出してやればいいんだが、逃げたところですぐに捕まるのは目に見えているし。

 せめてネネコがいればまだ何か打開策はあったのにな。


「まあでも、ちょっとプライドが高い人が多いけれど楽しい所だから。それは僕が保証する。

 それで、話は変わるんだけど、今夜の宴は君にも参加してもらうよ」

「はぁ、そうか」


 また面倒な……。


「それだけ言いに来たんだ。じゃ、僕はこれで」

「ちょっと待て」


 俺は部屋から出ようとする勇者を止める。

 大事なことを聞くのを忘れていた。


「この封印。いつになったら解いてくれるんだ。

 俺はな、別に人間達と争いたいわけじゃない。

 この魔王としての力も、守るために使っているのであって、何も殺そうだとか、そんなことを考えて使っているわけじゃないんだ。

 だから、俺の力を封印したままにしていると正直まずいことになるかもしれないぞ?」

「まずいこと?」


 勇者は聞く耳を持ってくれたようで、立ち止まる。

 俺は続けて言った。


「魔族の中にも、俺のように争いを好まない穏便派と、人間達を襲ったり争いを率先して起こそうとする過激派に分かれている。

 俺は、過激派が絶対に変なことをしないように圧力をかけていた。魔族達は俺の圧倒的な強さを知っているからな。逆らえるものはいない。

 中には無視して人間を襲いに行く不当な奴もいたが。

 そんなわけで、今までお前達人間は、そんなに被害を受けずに生きてこられたのだ。

 だが…」

「君が倒されたと分かったら、過激派が暴れるかもしれないと?」


 俺は頷く。


「かもしれない…じゃない。必ずだ。

 奴らは、魔王を倒された恨みだのなんだのと言って無理やり穏便派を黙らせ、必ずお前達の元に復讐しにくるぞ。

 そんなことになれば街で大量の虐殺が始まる。まさに地獄絵図になるのは間違いないな」

「けれどいくら魔族とはいえ、僕たち人間も無策ではないよ。

 そんな簡単に倒されるはずが」

「はぁ~あのなぁ」


 俺は、勇者のその楽観的な考えに思わずため息をつく。 

 俺は勇者が頭が良さそうだと勝手に勘違いしていたが、こいつは戦いに関しては全くダメだな。甘すぎる。

 俺自身も詰めの甘さでこうして勇者に封印されてしまったので、人のことは言えないのだが……。

 


「じゃあ聞くが、その人間達のうち、人を殺したり斬ったりしたことのある者は一体何人いる?」

「何人って…。具体的な人数までわからないけど、多分ほとんどいないんじゃないかな」

「そうか。ならお前達人間は魔族に勝つことは絶対に無理だろう。

 魔族はな、お前達人間の数倍の力と精神力、そして魔力を兼ね揃えている。

 その上、過激派の連中は殺しに長けている。

 一度でも誰かを殺したことのある者とない者とで勝負をしたら、どっちが勝つと思う?

 そんなの当たり前だ。誰かを殺したことがある者に決まっている。

 どんなに戦闘に長けているものでも誰かを殺していなかったら魔族には勝てないだろう。

 戦う時に、どうしても斬るということに躊躇(チュウチョ)してしまうだろうからな。

 その隙を狙われたら一発だ」

「なるほどね……」


 言い返せないのか、勇者は黙り込む。


「さっき窓の外から兵士達の鍛錬を少し拝見させてもらった。

 正直言って、俺から見るとあんなのはお遊びだ。

 確かに力だけはつくだろうが、実践では何もできずに散っていくぞ」


 鍛錬中なのに笑っていられる余裕があるぐらいだ。そんなのではいつまでたっても兵士達は本当の意味で強くなることはできない。



「痛いところをつくね。

 僕もそれについては少し気になっていたんだよ。

 でも、どうすればいいかわからなくてね。

 うーん、そうか。ルイ君を封印するとそんなことが起きてしまうのか。

 でもね、ルイ君。

 申し訳ないんだけど、実は封印の解除方法。僕、知らないんだ」

「……………………………はい?」


 俺は思わず目が点になる。

 封印の解除方法を知らない?

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