話し合い
「こいつは俺の部下のネネコだ。驚くのも無理はないだろうが、詳しいことは後で話そう」
フェイリスにそう言うと、俺は勇者の方へと視線を向ける。
話を開始しろという合図だ。
勇者は俺の視線に頷くと、こう切り出した。
「じゃあ皆も集まったところで話し合いをしようか。
まずルイ君とフェイリスから話してくれるかな」
「俺からか…まぁいいが」
フェイリスに任せようかとも思ったが、あまり主張することが好きではない彼女に任すのは酷だと思った俺は、代わりに言うことに。
そして俺は今日1日フェイリスと一緒に出かけたこと、帰る直前で幻惑の魔法をかけられヴァルと戦闘したこと、そしてあの仮面の男が現れたこと…。
ヴァルがと仮面の男という言葉に、ネネコが反応した。
「ヴァル…? どうして奴がここに…それに、仮面の男がいたということにも驚きです」
「ああ。俺も目を疑った。だが、もっと驚いたのは仮面の男が突然ヴァルを殺したことだ」
「え……」
ネネコが驚きに目を見張る。
「追い詰められたものの、なんとか撃破してここに至るというわけだな」
俺がそう言うと、皆なるほどね、と相槌をうった。
そこで、アリサが口を挟む。
「でも、あんたとフェイリスでよく倒せたわね。だってその仮面の男ってあんたの部下よりも強いんでしょ?」
「それは私も思いました。ルイ様、一体どのようにして倒したのですか?」
「え? そうだな……」
俺は正直に言うか悩んでいた。
このことは、できるだけ秘密にしておいたほうがいいからだ。
しかしそこで、フェイリスがとんでもないことを言った。
「私がルイさんから魔力をいただいて、それで倒したんです」
「ルイ君から魔力を? 一体どうやって…?」
「それは―――むぐぅ!?」
俺はフェイリスの口をおさえる。
「それは企業秘密だ」
「はぁ? なによそれ」
明らかに不審そうにするアリサ。
しかし、ネネコは意味を悟ったのか俺の方を見る。
「ル、ルイ様…まさか」
するとネネコは不意にフェイリスの唇に当たる寸前にまで鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
そして次の瞬間、フェイリスの服の袖をまくり上げる。
そこには、俺とフェイリスがキスをしたことによる契約の紋章が彫られていた。
「あ、ああ…うそよ…」
ネネコはそのまま崩れ落ちるようにして倒れる。
俺は慌てて抱きとめた。
「ネネコ?」
「ルイ様が………私のルイ様が汚れて……」
ぶつぶつと何かをつぶやきながら落ち込んでしまうネネコ。
「ル、ルイ君? その子は大丈夫なのかい」
「いや、まぁ……多分大丈夫だ」
後でフォローしておかないと大変なことになりそうだけど。
「でも、フェイリスのその紋章は一体何なのよ。まさか、タトゥー入れたとかじゃないでしょうね!? ルイ、ちゃんと説明して頂戴」
「……」
ここまでされてしまった以上、教えないわけにはいかないか…。
俺は渋々、この紋章の意味について教えることに。
俺とフェイリスがキスをしたことを知ると、一同は騒然となる。
フェイリスは恥ずかしいのか頬を赤らめる。
「ルイ君とフェイリスがキスかぁ…ルイ君もやるわね」
何故か感心しているエリカ。
「あんた、そんな状況下でフェイリスとキ、キスなんかしたの!? ばっかじゃないの?」
対照的に怒るアリサ。
勇者は、まさかこの場でそんな言葉が出てくるとは思わなかったのか、唖然としている。
「しょうがないだろ…そうしなければ俺とフェイリスは死んでいたんだぞ」
「うっ…でも……!!」
言葉では理解していても、頭では理解できないのか不満げなアリサ。フェイリスが怒るならまだしも、何故アリサがそこまで怒るのか疑問だ……。
「まあまあ。なにはともあれ、2人が無事だったからいいじゃないか」
「というかフェイリスはよかったの? ルイにキスされて!」
勇者が間に入って話をまとめようとするも、再度話を戻してしまうアリサ。
「わ、私ですかっ!? いや、あの…えっと……」
突然質問をふられて戸惑うフェイリス。
「べ、別に私は……その…」
「アリサ。そんな皆の前で答えづらい質問するんじゃないの。
フェイリスも困ってるでしょ?」
「う……言われてみれば」
エリカのフォローでなんとか事なきを得たフェイリス。
後でフェイリスにも紋章のことについて、説明しておかないとな……。さっき一応軽く言ったけど、改めてちゃんと説明したほうがいいだろう。
そこで話は戻り、今度は勇者達からどうしてネネコと戦っていたのか経緯をうかがった。ネネコは若干すねながらも、一応答えてくれる。
それによれば、どうもアリサが原因なんだという。
ネネコは人間界に飛ばされたあと、わずかに残っていた俺の匂いを足がかりに周囲を探っていた。
そして学園から少し離れたところでアリサと遭遇。そこで猫族を見たアリサが敵と認識し、問答無用で斬りかかったという。まるで通り魔のような攻撃だったがネネコはなんなくかわし、またアリサから俺の匂いを感じたネネコは、俺の居場所を教えるように伝える。しかし、ネネコを敵だと思っているアリサがそれに耳を貸さずそのまま戦闘が始まってしまったらしい。
そして後で合流した勇者達も、アリサがかなり劣勢なのを見て手助けしていたという。それでもネネコを抑えることはできずもう少しで負けるとなった時、勇者がネネコの手首に俺と同じブレスレットをしていることを見つけ、俺を連れてくればなんとかなるかもしれない、というわけで俺を探していたらしい。
「お風呂の時以外、肌身離さず付けているブレスレットだったからね。ちょっと気になっていたんだ。そしたらネネコさんも同じのを付けていたから、ルイ君を連れてくれば解決できるかもしれないと賭けに出たんだよ」
「ふん、まさかそんな短時間でブレスレットが同じということを見抜くとはな…」
勇者の洞察力に、思わず感心する。
しかしこれでお互いの事情がわかったものの、問題は残ったままだ。
それはやはり仮面の男について。これはまたネネコに聞いて対策を練る必要がある。やはり、俺とフェイリスではネネコが戦っていたと思われる仮面の男を倒せるとは到底思えない。となるならば、別人と考えるしかないだろう。
つまり、その仮面の男はまだ魔界にいる可能性がある。
もしそうだとすれば、ネネコと共に魔界に戻ったところで2人まとめて殺される可能性がある。力がもどるまでは、魔界には戻らない方がいい。
となると、ネネコを人間界…つまりここにとどめておく必要があるが…。
そこで俺はネネコを見る。
ネネコは俺とフェイリスがキスをしたことがよっぽどショックだったのか、まだいじけていた。




