ネネコと勇者達
「久しぶりだな。
だが、その前にその傷……」
ネネコの服はボロボロで、ところどころ破けている。
更に左腕からは出血が確認できた。
ネネコがここまでやられるなんてそうとうの手練じゃないと不可能だ。
アリサとエリカではネネコをここまで追い詰めることは無理だろう。
ならば一体誰が?
俺は再度ネネコに質問する。
「ネネコ、その傷は一体誰に――――」
「ルイ様ぁっ!!」
「おわっ!」
ネネコは突然俺に抱きついてくる。
俺はネネコの突進に耐え切れず、そのまま後ろに押し倒されてしまった。
「ああ、よかった…ルイ様です……」
俺の心臓の音を耳で感じながらそう言うネネコ。
「わかった、わかったからとりあえず離れろ。な?」
勇者達の目もあるので気恥ずかしくなった俺はネネコを引き剥がそうとするが、俺にぴったりとくっついて離れない。
「嫌です、絶対に離れません」
「あのな……いっ!?」
無理に動こうとした結果、怪我をしている俺の足が悲鳴をあげた。
俺が辛そうな顔をしたためか、ネネコが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ルイ様? どうしました…」
あと少しで、キス出来るんじゃないかと思うほどの至近距離。
だが、俺は痛みに顔を少し歪める。
「くっ……」
「ルイ様……」
そうして、俺が向けている目線にネネコも吸い寄せられるようにして見ると、驚愕に目を見張る。
「ルイ様……その足は!?」
「あ、ああちょっとな……」
「もしかして、この者達がやったのですか?」
そう言うとネネコは勇者達がいる方向に顔を向ける。
そして、アリサ達に鋭い殺気を向けた。
「……な、何よ。まだやるって言うの?」
「アリサ。やめておきなさい、次襲われたら勝ち目がないわ」
口では強気なアリサだったがビビっているのがバレバレだった。。
流石にエリカは動じなかったものの、その顔には疲れが見える。
もしかして、ずっと戦っていたのだろうか。
「いや、違う。こうなったのは俺の責任だ」
「ルイ様が怪我されるなんてよほどのことです…。待っててください。
今、私の魔力を授けますから」
そう言って、足に手をかざそうとしたネネコを俺は制止する。
「待て。お前もひどい怪我をしているじゃないか。
そんな状態で俺に魔力を供給したら倒れるぞ。だから、する必要はない」
だがネネコは首を横に振った。
「私は倒れても構いません。ルイ様が苦痛を感じる方が、私にとっては耐え難い痛みです。
ですからどうか、私の魔力を受け取ってください」
「いや、しかし……」
そう言われては、断るに断れない。
「大丈夫です。倒れない程度に調整しますから」
そう言うと、ネネコは俺に魔力を供給し始める。
聖属性で受けたダメージは普通に回復魔法を使っても治らない。誰かから直接魔力を受け取るか、自然治癒するか。俺が知る限りではこの2つの方法しかない。だからこそ、聖属性は魔族にとっては弱点なのだ。それは俺も例外ではない。
だが、人間の血も入っている俺は少しだけダメージが弱まるらしいが…。
「……くっ…」
ネネコは一瞬顔を辛そうにしたが、すぐに表情を戻す。
間もなくして俺の足に手をかざすのをやめると、その場に立ち上がった。
流石に怪我をしている俺に抱きつくのはまずいと思ったのか、もう抱きついてくることはなかった。
しかし、依然として距離が近いことに変わりはない。
「終わりました」
「ありがとう」
俺は、怪我をしている左足を動かしてみる。ほんの少しだけまだ痛むものの、歩くには十分問題ないぐらいにまで回復していた。そして傷口もいつの間にか塞がっている。
俺の傷を魔力だけで治そうと思えば相当の量がいるはずだ。なのに、これだけ傷が治ったということは……。
(ネネコ、お前は無茶しすぎだ……)
本当は今すぐにでも倒れたい気分だろうに、それをおくびにも見せないネネコには感動すら覚える。だが、同時に心配にもなった。
そこへ、勇者達がやってきた。
「やっぱりルイ君を連れてきて正解だったようだね」
「……」
ネネコは勇者達に警戒を解くことはせず、いつでも襲いかかれるようにしていた。
それを、勇者は手をあげて戦いの意図はないことを示す。
だが、それでも警戒を解くことはしなかった。
「ま、まあネネコさん? でいいのかな。僕達は君の敵じゃない。
だからどうか、その殺気を引っ込めてくれないかな」
「…黙れ、この腐れ勇者。お前のせいでルイ様の力は封印されたというのに、敵じゃない? そんな言葉が信じられるか。
ふざけるのもいい加減にして」
ネネコの言葉に、勇者はバツが悪そうな表情を見せる。
「うーん、それを言われると僕も言い返せないんだけど。それでも僕達は君の敵じゃないということだけは信じて欲しい…」
腐れ勇者とか言われたことには触れないんだな。
「今すぐルイ様を元に戻せ。でなければ、殺す」
そう言うと、ネネコは落としていた2つの短剣を手に取る。
まずい、このままだと本気で殺りかねん……。
俺は、勇者達を守るようにして前に立つとこう言った。
「待て、ネネコ。こいつらは敵じゃない。だからその短剣をおろすんだ」
「ルイ様? この者達の味方をするというのですか……?」
「ああ。少なくとも、今殺していい相手ではない」
「ルイ様……。
……。
そうですか、ルイ様がそういうのでしたら」
そういうとネネコは腰にある元鞘に短剣をしまった。
「一瞬とは言え、ルイ様に刃を向けたことお許し下さい」
「いや、いい。むしろ、俺の無茶な要求を我慢して受け入れてくれてありがとうな」
そう言うと、俺はネネコの頭を撫でた。
耳がピョコッと反応し、尻尾も揺れる。
ネネコは顔を少し赤らめながらも、嬉しそうにしてくれているのがわかった。
俺はネネコの頭を撫でながら、アリサ達の方へと顔を向けた。
「それで? 一体どういう経緯でお前達がネネコと戦っていたんだ?」
「その前に、どうしてあんたがそんな怪我をしているの…? それにフェイリスはどこに行ったのよ」
「私も気になっていたわ」
「僕は一応伝言を見たけれど、ほぼ簡潔にしか聞いていないからね」
「どうやら、一度全員で集まって話をする必要がありそうだな」
しかし今日は一度に色々な事が起きるな…。
一個ずつ整理していかないと頭がパンクしそうだ。
勇者は周囲を見渡しながらこう言った。
「じゃあエリカ。フェイリスを連れてきてくれるかい? 場所は、例の所で」
「わかったわ。例の所ね。……ミスティックドア!!」
そう言うとエリカの目の前に光り輝く扉が現れる。
そしてエリカはその中へと入っていった。
それを見届けると勇者はこう言った。
「じゃあ皆は僕についてきて」
 




