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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
35/52

決着。そして予想外の訪問者(第2章終了)

「っ!?」

「んっ……ちゅっ……」


 突然押し付けられた柔らかな感触。

 フェイリスは目を潤わせながら、まるでゆっくりと味わうかのようなキスをした。

 それと同時に、俺はフェイリスに魔力を供給していくのがわかった。

 そしてしばらくしてからフェイリスはキスをやめると、顔を赤らめ俺から顔をそらす。


「まだ説明してる途中…だったんだが」

「えへ…すいません。

 けれど、早くしないとっていう気持ちが急いてしまって……んぅっ!?」


 言い終える前に、突然フェイリスの体が強く脈打った。

 そして次に、フェイリスの体が黒く輝き始めた。


「ル、ルイさん……?」

「心配するな。成功だ」


 人間でも成功するかわからなかったが、成功したようなのでほっとする。


「痛っ……! ルイさん、なんだか腕が熱くて痛いですっ」

「ああ…。紋章が彫られたからだな」

「紋…章…?」


 フェイリスの腕には俺の眷属である証の紋章が彫られていた。


「ええっ!? なんですかこれは…!」

「フェイリス、驚いてるところすまないが前を見てみろ」


 俺が視線を促す。

 フェイリスが俺の目線の先を追うと、仮面の男はもう直前にまで迫っていた。


「もうこんなところまで…」

「フェイリス、もう我慢する必要はない。いつものように、光の矢を飛ばしてみろ」

「はい」


 俺がそういうとフェイリスは詠唱を開始する。

 すると、フェイリスの体から出ている黒い輝きが一層強さを増した。

 そして、杖を男に向けると、光の矢を放つ。


「はぁっ…!!」

『またその矢か。今度も投げ返してあげるよっ』


 男は余裕しゃくしゃくと言った様子で、光の矢を待ち構える。

 俺は、黙ってその様子を見守っていた。

 フェイリスは、男に当たる直前で杖をくいっと動かす。

 すると光の矢がなんと5本に分裂した。


『っ――――』


 流石にこれには対処できなかったのか、男に光の矢が刺さる。

 そして刺さった箇所から、黒い霧のようなものが噴出した。


『ちぃ…僕の体が…』

「フェイリス、今のうちにもっと放つんだ!!」


 俺の声に言われるまでもなく、フェイリスは次々と光の矢を作っては男に向かって発射する。


『こんなモノッ!!!』


 そう言って男は矢を払いのけようとするが、かすっただけでも傷がつくその矢は男を着実に追い込んでいく。

 今までのフェイリスならば、一度に5本以上光の矢を放つことは難しかった。だが、それが今は10本以上も放つことができている。

 フェイリス自身も驚いているようだった。


「この力……すごいですルイさんっ! これが、ルイさんの力の一部………。

 まるで湧水のように体に魔力が流れてきてきます!!」

「ふふ…驚いただろう」


 魔王である俺の力をほんの少しとはいえ、授けたのだからな。

 それで強くならない方がおかしいというものだ。

 男は、フェイリスに矢のダメージで、完全に動けなくなっていた。


『この……僧侶め!!!』


 そう言うと男は苦し紛れに黒い影をこちらに伸ばしてきた。

 先程ヴァルの腹を貫いた恐ろしい技だ。

 だが、フェイリスは冷静に影の動きを見極めると何かを唱える。それは、俺も聞いたことのない詠唱だった。

 そして、俺とフェイリスの周りに球状の防御結界ができる。


「これは、魔力の消費が大きいのであまり使えないんです。ですが、ルイさんの魔力をいただいた今なら十分使用できますっ」


 フェイリスの防御結界のおかげで、黒い影は結界にぶち当たると、粉々に割れて無くなる。


『なっ……』


 驚愕して後ずさる男。

 そしてフェイリスが止めの一撃と言わんばかりに、無数の光の矢を放った。


「これでおしまいです……さよならっ!」


 矢は男めがけて一直線に飛んでいき、身動きの取れない男を貫いた。


『ぐあああああっ!? こ、この…許さなっ―――ギャアッ!』


 たくさんの光の矢に貫かれて、男は断末魔をあげると体が粉々に崩れ落ちた。

 そこで、幻惑の魔法の効果も切れ、辺りが元の景色へと様変わりする。

 俺は足を引きずりながら、粉々に崩れ落ちた男のもとへ。

 仮面だけが残されており、後は全て黒い砂のようになっていた。

 俺は仮面を拾ってみる。

 全く見覚えのない形状だった。

 あの仮面の下にはどんな顔があったのだろうか。できれば確認しておきたかったが、今は助かっただけでもよしとしよう。

 俺はフェイリスにお礼を言うべく振り返ると、フェイリスは急にその場に尻餅を付いた。 

 俺は慌ててフェイリスの元へ。


「大丈夫か?」

「ル、ルイさん…。すいません、安心したら腰が抜けちゃって……。それと、なんだか体の力も急に抜けてきて…」

「俺の魔力を受け取った後すぐに大量の魔力を放出した反動だ。しばらくは安静にしていたほうがいい」

「そ、そうですか……。わかりました」


 間もなくして、騒ぎに気づいた人達がやってきた。

 恐らく、フェイリスが光の矢を無数に放ったおかげだろう。音と光がすごかったからな…。


「フェイリス、人が集まってきた。

 騒ぎになる前にここを脱出しておきたい。立てそうか?」

「は、はい…頑張ってみます」


 そう言って立とうとするも力が入らないようだった。

 俺はくすくす笑った。


「どうやら難しそうだな……」


 俺も足を怪我しているので、流石にフェイリスをおぶって歩くことは無理だ。

 足は服をちぎってそれをくくりつけることでなんとか止血しているが、ちゃんとした治療が欲しいところ。

 俺はそこで、昼間買ったガーゴイルの翼があったのを思い出す。


「これがあれば……」


 俺は早速ガーゴイルの翼に、俺とフェイリスが負傷したこととここの場所を伝えると、空高く翼を投げた。

 翼はしばらく重力に身を任せていたがやがて光り輝くと、ものすごい速度で飛んでいく。

 これで後は勇者達が来れば……。

 そして俺とフェイリスは勇者が来る少しの間、先程の男について話をしていた。


「ルイさん、あの人に心当たりはあるんですか?」

「いや、あの仮面男については全くだ」

「そう…ですか」


 新手の魔族かとも思ったが、光の矢が貫いても血しぶきをあげなかったところや、最後に粉々になったあたり魔族というせんも薄いだろう。

 となると、ゴーレムか?

 いや、それもないか。自由意思をもつゴーレムなど聞いたこともない。それにゴーレムなら、どこかに操っている魔術師がいるはずだ。

 じゃあこいつは一体何なんだ……?

 俺は答えを出せないまま、考え込んでいると間もなくして勇者がやってきた。


「ルイ君!! フェイリス!」


 勇者は、息を切らしながら俺とフェイリスの元へ駆け寄ってくる。

 全力で走ってきたのか、その額には大粒の汗が浮き出ていた。


「良かった、2人も無事だったか…はぁ…」

「随分早かったな」


 翼を送ってから5分と経ってないぞ。

 流石勇者……で済ませていいのだろうか。


「エリカに…速度強化の魔法を…かけてもらった…からね…はぁ…はぁ…」

「とりあえず一旦呼吸を整えろ」

「あ、ああそうさせてもらうよ…………って、そうじゃないんだ!!」


 突然声を張り上げた勇者に、俺とフェイリスは思わず面食らう。

 勇者がこんな風に大声をあげるなんて滅多にないことだ。


「ルイ君、今すぐ僕と一緒に来てくれないかっ!?

 このままだとアリサとエリカがまずいんだ!」

「何だと……?」


 勇者の切羽詰った様子に、冗談ではないと悟る。


「何があった?」

「それは走りながら説明する。とにかく今は僕と一緒に来てくれないかっ?」

「そうしてやりたいのはやまやまだが、あいにく俺は今足を負傷中でな」

「何だって!?」


 そこで初めて勇者は俺の足の傷に気がついた。

 血だらけの足を見て、思わず顔を青ざめる。


「ル、ルイ君その傷は……」

「ああ。さっき変な男とドンパチやったおかげでやられた」

「それで、その男はどうしたんだい?」

「フェイリスが倒した」


 その言葉に胸を撫で下ろす勇者。


「そうか…。じゃあルイ君は僕が背負っていこう。フェイリス、すまない。君も落ち着いたら僕と合流してくれ!」

「 わ、わかりました。ここの後処理は私に任せて、2人は行ってあげてください!」


 勇者は頷くと、俺の前でしゃがんだ。

 まさか、勇者におぶってもらう日が来るとはな……。こんなに屈辱なことはない。

 だが、今はそれを甘んじてうけよう。

 俺は勇者の背に乗る。

 それを確認すると、勇者はものすごい速度で市街地を駆け抜けていった。

 だが、スピードは出ていても揺れて俺に負担をかけないようにしてくれているのがわかる。

 ったく、変なところに気を回すやつだ…。俺にそんなものは必要ないというのに。

 俺は勇者にしがみついているが、そこであることに気づく。


(こいつ、前から思っていたが妙に体の線が細いよな)


 それに、なんだかいい匂いもする。


「ちょっと近道するからしっかり捕まっててね…はっ!!」


 そこで勇者が急転換したため俺はしがみついた位置がずれ、胸の方に手がいってしまう。


「ひゃぁっ!? ル、ルイ君? どこに手を当ててるんだい」

「ん? ああ悪い…ってお前、気持ち悪い声出すなよ……」


 まるで女みたいな……。


「ルイ君が急に変なところ触ってくるからじゃないかっ」

「いや、あのな……まぁいい」


 こいつが実はオネエキャラかもしれないという疑惑は放っておくことに。

 こんなどうでもいい話をしている場合じゃない。


「それで? 一体何をそんなに慌てていたんだ?」

「あ、ああそうだった」


 そこで勇者は我に返る。


「実は今、エリカとアリサがある人物に襲われているんだ」

「ある人物?」

「ああ。恐らく君もよく知っている人物だよ……」


 俺がよく知っている人物……?

 俺がよく知っている……。

 やがて俺は1つの結論にたどり着いた。


「なぁ……それはもしかして」

「うん。多分今君が想像した人物で間違いないと思う」


 そう言うと、勇者は速度を緩める。

 間もなくして魔法の音だろうか、爆音が俺に耳に響いてきた。


「くっどうやら今のはエリカの魔法だね…。

 ということはまだ無事なようだ」


 そして俺と勇者は、森の茂みから脱出した。

 だが、そこにはありえない光景が広がっていた。


「な、なによこいつっ! 怪我してるくせになんて速さなの!?」

「このままだと防御結界が壊されるのも時間の問題だわっ」

「フェイリス、アリサ!!」


 勇者の声に、2人がこちらを振り返った。


「リュート、あんた遅いのよ! もう少しで手遅れになるところだったわ!」

「ちゃんとルイ君は連れてきたの?」

「ああ、連れてきたよ。

 ルイ君、後はもう僕達じゃどうにもできない。君がなんとかしてほしい。僕達も、君の仲間をできるだけ傷つけたくはないんだ」


 そう言うと勇者は俺を背中から下ろした。


「………」


 俺はゆっくりと、アリサとエリカを襲っている人物の元へと行く。

 その人物は、まるで仇でも討つかと言わんばかりの気迫ある表情でエリカの防御結界に攻撃していた。よほど集中しているのか、こちらに気づく気配はない。

 エリカの防御結界に、段々とヒビが入る。あと数秒もすればエリカの防御結界も粉々に砕かれるだろう。

 だが、数秒もあれば十分だ。


「この…こんなもの……っ!!」


 尚も防御結界に攻撃を加えるそいつの背後に回ると、俺は、


「ネネコ」

「―――っ!?」


 その声に、ネネコの耳がびくんと震え攻撃の手がやめられる。

 そしてゆっくりと俺の方を振り返ると、信じられないといった表情で俺を見た。

 そして持っていた2つの短剣をその場に落とす。


「ル……ルイ……様…?」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

これにて第2章は終了です。

次章、ついにルイの側近であるネネコも加わります。


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