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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
33/52

過激派ヴァルとの戦闘

 なんでコイツがこんなところに…。

 俺は警戒心を強めながら言った。 


「ヴァル。お前こんなところで何をしている。人間界に勝手に赴くことは俺が禁じているはずだ」


 すると、ヴァルは口元を吊り上げなからこう言った。


「ふふ、魔王様こそ。こんな街中で敵の僧侶とデートだなんて…、何をしているんでしょうかねぇ」


 そう言うとヴァルはフェイリスに視線を向けた。

 フェイリスはヴァルが怖いのか、俺の背に隠れる。

 見た目は完全な化物だからな。無理もないだろう。


「お前には関係のないことだ。

 とりあえず、幻惑(イリュージョン)の魔法をさっさと解除しろ。鬱陶しくてかなわん」

「くくく…。鬱陶しいならご自分で消し去ったらどうでしょうか?

 それとも、まさか魔王様ともあろうお方がこの程度の魔法も消せないと?」


 こいつまさか、俺の封印のことを知って…。

 いや、まだ確定したわけじゃないはずだ


「何が言いたいのかはわからんが、俺を怒らせる前にさっさと消せ」


 そう言って俺は思い切りヴァルを威圧した。

 ヴァルは俺が睨むと一瞬怯んだが、すぐにまた余裕そうな表情を見せる。 


「そう言って私を脅そうとしてもだめですよ。私にはもうわかっているんですからねぇ。

 今の魔王様に、以前の力はもう残っていないということに」

「何のことだ?」


 そういうも、俺は心の中で舌打ちをした。

 なぜかは知らんが、封印のことがバレていた。

 いずれバレるだろうとは思っていたが、まさかこのタイミング…それも過激派の連中に知られてしまうとは。


「とぼけても無駄ですよ。

 力を失った魔王など、もはや私にとって恐れる存在じゃない。

 今日は魔王様をこの手で葬りに来ました」


 そう言うと、不気味な笑顔を浮かべるヴァル。


「俺を殺す……。ははっ!!!

 過激派の中でも雑魚に分類されるお前が、俺を殺す?

 笑わせるな」


 そう強がったものの、俺は心の中でどうやってこの場を切り抜くかだけを考えていた。

 以前の俺ならばこんな奴一発で倒せる。だが、今の俺にはこいつを倒せる保証はどこにもない。

 だが、それを認めてしまえば奴はもっとつけあがるだろう。

 俺は魔王である以上、この姿勢を崩す訳にはいかない。


「雑魚……だと?」


 俺の雑魚という言葉が怒りに触れたのか、ヴァルはいきなり斬りかかってきた。

 くっ…避ければフェイリスにあたってしまう。

 ならば……!!

 俺はカードから瞬時に剣を取り出すと、ヴァルの爪を剣で受け止める。

 金属同士がカチあったような音が鳴り、火花が散った。

 俺は歯を食いしばりながらフェイリスに、


「フェイリス。俺が合図したら一斉に走るぞっ!!!」

「は、はい…!!」


 俺はそれに頷くと、ヴァルを押し返す。


「ぐぐぐ……、力を失ってもこの力……流石は魔王様」

「当たり前だ……俺は魔王だから………なっ!!」


 そう言うと俺は一瞬の隙をついてヴァルを蹴り飛ばすと、フェイリスと共に走る。


「ルイさん、どこに逃げるんですかっ」

「ああ。幻惑の魔法もずっと続くわけじゃない。個人差があるが、30分もすればほぼ完治するはずだ。だから、それまで逃げ続ければ……」


 これさえ切り抜ければ、後は誰かの元へ逃げられるはず。

 だが、そんな甘い考えは、目の前にヴァルが現れたことにより無理だと悟る。


「おおっと、逃がさないですよ。

 魔王様ともあろうお方が、敵に背を向けるなんて……ハハハ!」


 俺はそれを無視して、違う道へと向かう。

 だが、すぐに回り道されてしまった。


「ちっ、このストーカーめ……」


 やはり、倒すしかないのか?


「フェイリス。君の光の矢で奴を貫くことはできるか?

 光の矢は魔族にとっては弱点だ。当たれば大ダメージを与えられるだろう」

「はい! やってみます」


 そう言うと、フェイリスはカードから杖を取り出し詠唱を始める。


「ちぃ、まずはその僧侶から倒したほうがよさそうですね!!」


 ヴァルはフェイリスの詠唱を邪魔しようと襲いかかった。

 が、直前で俺が受け止める。


「お前は俺が相手だ…」

「ぐぐぐ……!!」


 まもなくして、ヴァルに向かってものすごい速度で光の矢が飛んでくる。


「ちっ…」


 さすがに当たればまずいと思ったのか、ヴァルは俺から距離をとった。

 俺達は再び走り出す。

 こうして俺がヴァルの攻撃を受け止め、フェイリスが後方から矢を飛ばして牽制すればなんとか切り抜けれるはず……。


「だーから逃げるなと言っているんですよ!」


 再び目の前にヴァルが現れると、今度はフェイリスに襲いかかった。 

 俺はフェイリスの前に出ると、ヴァルの攻撃を受け止める。

 そして、ポケットに隠していた短剣を取り出すと、ヴァルに向けて投げつけた。

 俺の素早い行動に対処できなかったのか、ヴァルの目に短剣が直撃する。


「ンギャアアア!!」


 化物のような咆哮を上げ目をおさえるヴァル。

 俺はその隙を見逃さず、果敢に攻め込んだ。


「はあっ!!」


 だが、直前のところでかわされてしまい、俺はヴァルの蹴りをくらってしまう。

 そのまま後方の木に叩きつけられる。


「ぐぅっ……!」

「ルイさん!! 大丈夫ですか?」


 心配そうに、フェイリスが駆け寄ってくる。

 問題ない、といい俺は立ち上がった。

 少しあざが出来てしまったが、この程度なら後でフェイリスに回復してもらえば大丈夫だ。


「ぐ……き、貴様……よくも私の目を…」


 血が流れる目をおさえながら、俺をものすごい形相で睨んでくるヴァル。

 俺はそれを涼しげな表情で受け流すとこう言った。


「ほう、主君に向かって貴様とは身の程知らずめ。今度はこっちのターンだ」


 あんな負傷した状態のヴァルなど、負けるはずがない。

 だが、ヴァルは不敵に微笑むとこう言った。


「ふっ……それはどうでしょうか?」

「……?」


 目をやられ、明らかに不利な状況にもかかわらずこの表情……。

 こいつ、一体何を隠している?

 だが、その答えはすぐに判明した。


「本当は私がこの手で殺したかったのですが、仕方ありません。

 別の方にお任せすることにしましょう」

「な……に…?」


 別の方……?

 まさか、他に誰かいるというのか?


「くく。あの人は私のように甘くはありませんよ…。

 おい、こっちに来てくれ!!」


 ヴァルがそう言うと、草むらから1人の仮面の男が姿を現した。

 背丈は俺よりも少し高いといったところか。

 全身が鎧で覆われており、顔も仮面で隠されているため、誰なのか判別することはできない。

 だが、背後から放つ殺気は凄まじい。今すぐにでも襲いかかってきそうな勢いだ。


「さあ、バイラス。こいつを八つ裂きにするんだ」

『……』


 鎧の男は、答えない。


「おい、バイラス。聞いているのか? さっさとこいつを――――」


 次の瞬間、俺は信じられないものを見た。

 バイラスと呼ばれた男の手から黒い影のようなものがヴァルに忍び寄ると、ヴァルの腹を貫いた。


「あがっ――――!? バイ……ラス? お前何を…」

『あぁ……うまい、うまいなぁ……』


 ヴァルは影から必死で逃れようとするも、影はがっちり挟んで離さない。

 今、ヴァルには尋常じゃない痛みが走っているだろう。


「敵はあっち……だ! 私じゃない離…せっ」

『うるさい。好きにしていいといったのは君だよ。だから僕が何をしようと勝手だろ?

 僕は血が吸いたくなった。そしたらたまたま君が近くにいた。運が悪いねー君も』

「なっ――――やめっ―――」


 ヴァルが懇願するのを無視して、バイラスと呼ばれた仮面の男はそのままヴァルの血を全て吸い、殺害した。

 後に残ったのは骨と皮だけだった。

 フェイリスは一連の流れを見て顔を真っ青にしている。


「ひっ………」


 敵とは言え、恐らく初めて見るだろう殺害現場に、フェイリスは震えていた。

 そして、すがりつくような目で俺を見る。


「ル、ルイさん……逃げましょう」

「ああ。そうした方が良さそうだな……」


 あれはもう人じゃない。

 殺すことを快楽とする化物だ。

 俺が苦戦したヴァルをああも一瞬で仕留めたのだ。今の俺では太刀打ちすら不可能だろう。

 だからここは逃げるしかない。

 幸いにも、ヴァルが死んだおかげで幻惑の魔法が解けた。

 学園に逃げ込めば、後はなんとかしてくれるはず……。

 俺とフェイリスは、一目散に逃げ出した。


『あっ、どこに行くの? 逃がさないよ』


 ちぃっ、追いかけてきたか。

 だが、鎧が重いのかその動きは俺達よりは遅い。


「フェイリス!! 光の矢を放って牽制するんだ!」

「はい! わかりましたっ」


 そう言うと、フェイリスは詠唱して光の矢をバイラスに放った。

 これでもっと距離を稼げるはず。

 だが、次の瞬間俺は信じられないものをみた。

 ほぼ目視することすら不可能な光の矢を、バイラスはいとも簡単に受け止めたのだ。

 その手からジュッ…という音が聞こえてくることからかなり痛みを伴うはずなのに…。

 そして、こちらの方めがけて光の矢を投げつけてきた。


「ええっ!? あの人、私の矢を!」

「避けるぞっ」


 俺は投げ返してきた光の矢をかわすと、男を睨みつける。


「おいお前!! なんのつもりかは知らないが俺達を―――」


 そう言おうとした時だった。


「ルイさん、前に矢がっ!」

「な……に?」


 俺は振り返ると、すぐ目の前に光の矢が迫ってきていた。

 なぜだ…矢はかわしたはず……。

 それなのに……。


「……」


 ダメだ。もうかわせる距離じゃない。

 それに、かわせば後ろにいるフェイリスにあたってしまう。

 受けるしかなかった。 

 そしてどうすることもできず、光の矢は俺の足に深々と刺さった。

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