お出かけデート
2人で街に出ると、休日だからかたくさんの人であふれかえっていた。魔界では見かけない、人間界特有の特産品などが置いてあり、俺は思わず視線を送ってしまう。
それに気づいたのか、フェイリスがこんなことを言った。
「ルイさん、もしかしてこういうバザーは初めてですか?」
「バザー…? こんな所狭しに並んだ店は初めて見たな」
「ルイさんの世界にはこういう物は売ってないんですか?」
「あるかもしれないが、少なくとも俺は見たことがないな」
どれも見た事がないものばかりで、俺は1つ1つフェイリスに聞いていく。
「これは使い捨ての魔力銃ですね…。こっちがウェアウルフの爪で作った槍です」
「じゃあこの黒い珠はなんだ?」
俺の水晶玉によく似ているが、くすみ過ぎている。
「ええっと…それは魔力マガジンと言って、魔力の底が付いてしまった人が使うと少し回復するんです」
「へぇ…。それはすごいな」
魔力など、人から貰うか、もしくは休むかこの2つでしか回復しないと思っていたが、こんな便利なものがあったとは…。
俺は、裏に貼られた値札を見てみる。
「金貨…50枚!?」
なんだその高さは!
フェイリスが苦笑いする。
「まだ出来て間もないですから高いんです…。それにあまり出回っていないので…」
「な、なるほどな」
俺は珠を元の位置にそっと置く。
でも、魔力を回復できるのならその値段も納得か…。なにせそれさえたくさんあれば、無尽蔵に魔法を放てるんだからな。
その後も俺はフェイリスに色々と聞きながら店を回っていると、
食べ物の出店を発見した。
子供がなにやら変な物を舐めて食べている。
「なぁフェイリス。あれはなんだ?」
俺が指差してそう言うと、フェイリスは驚いたようにこう言った。
「あれはソフトクリームです。もしかして、ルイさん、ソフトクリームを食べたことありませんか?」
「ソフト…クリーム? なんだそれは」
「ええ…!? ルイさん、ソフトクリームを知らないなんて人生損しています!」
「フェイリスは好きなのか? その、ソフトクリームとやらが」
「勿論です! 1日1本は絶対食べてます!」
「どんだけ好きなんだよ…」
フェイリスは、ソフトクリームの美味しさについて色々話してくれた。
普段の少しおどおどした様子はどこへいったのか、意気揚々と語るフェイリス。
俺はそんなフェイリスを微笑ましく見ていたが、気付かれたのか少し顔が赤くなった。
「はっ…! あ…えと、すいません…なんかずっと喋ってばかりで」
「ああ、いいよいいよ。俺も少し興味がわいたからな。
フェイリスの話を聞いていたら、俺もちょっと食べたくなってみた。ちょっと寄ってみないか?」
俺がそう言うと、フェイリスは顔を輝かせた。
「いいんですか!?」
「おう」
そう言って、俺とフェイリスはソフトクリームとやらを購入することに。カップ、コーン、ワッフルコーンのどれがいいですかとか聞かれたが、俺はフェイリスと同じワッフルコーンのバニラ味というのを購入した。
俺は初めて見るソフトクリームに興味津々で、色々な角度から見てみる。
「ん~~!! 美味しいです…っ!」
フェイリスは先に美味しそうに舐めていた。
舐めて食べるものらしい。
俺も1口舐めてみる。
「……っ!?」
その時、俺の頭の中に衝撃が走った。
な、なんだこれは…。
冷たくて甘い…。そして口の中に入れた瞬間に消えてしまうまろやかさ…。
俺は思わず顔をほころばせる。
「フェ、フェイリス! なんだこれはっ! うまい、うますぎるぞ…!」
「ですよね! やっぱアイスは最高です~…!」
俺はうますぎて一気にかぶりつく。
すると、頭が痛くなった。
くっ…。冷たいものを一気に食べたからか。
俺とフェイリスは近くのベンチで座りながらソフトクリームの味を楽しんだ。
「はぁ…おいしかったです!」
「人間界にこんな美味しいものがあったとはなぁ。今度魔界でも作らせてみるか…」
きっと馬鹿売れするに違いないだろう。
魔界は基本的に暑いからな…。
「次はどこ行きますか?」
「ん~そうだな…。じゃあ今度はフェイリスが案内してくれ。
俺は全然この街のことを知らないから」
「確かにそうですよね…わかりました。
ご期待に添えるかどうかはわかりませんけど、頑張ります」
そう言って今度はフェイリスの誘導に従う。
最初にフェイリスが向かったのは、様々なものが売っている雑貨店だった。
「ここは私もよく来るんです。稀に掘り出し物が置いてあったりするので…」
「ほう…」
魔界でも見たことがあるものもちらほらとあるが、ほとんどが知らないものばかりで、俺は興味津々で商品を見ていく。
色々と見ていたが1つ、気になるものを見つけた。
「フェイリス~これはなんだ?」
すると、近くでぬいぐるみを見ていたフェイリスがトコトコやってくる。
「えと、これはガーゴイルの翼ですね。使い捨てなんですけど、1度だけ指定した相手の元に伝言を届けてくれるんです」
「へぇ…」
確かにガーゴイルはよく伝言係として使っていたが、翼にそんな効果があったなんてな。
しかし、ガーゴイルの翼ってこんな形してたかな…。
「…」
念話があれば必要ないんだろうが、あいにく今、念話が使えないので1つ買っておくか。
そうして俺はガーゴイルの翼を購入し、店を後にした。
続いてやってきたのは武具屋。
学園に直結している武具屋だからだろうか、一般人が使う武具から、それぞれのカードの数字に対応した武具まで様々だ。
その為か、学園の服を来た生徒が割合的には多い。
「しかし、こうしてみると結構な種類の武器があるんだな」
オーソドックスな両手剣を始めとし、片手剣、槍、斧、鎌、金槌、大太刀、レイピア、杖など様々だ。なかには鎖鎌やナックルと言った珍しいものまで置いてある。
俺は基本的には片手剣だが、ナックルを使って肉弾戦に持ち込む時もある。稀に短剣を2つ使うこともあるが、あまり好きではない。ネネコを指導していた時は、あいつが双剣士だから俺もそれに合わせていたが…。
「ふむ…」
色々と見ていると、やはりカードの数字が上がるにつれて武器は格段に変わるらしい。
スクリーンに、3と4でどのくらい力量差があるのか実験している動画があったが、その差は意外とわかるものだった。
例えば厚さ3センチの鉄を切るということについて、3のカードの場合2、3度強く振ってやっと切れたものの、4のカードの場合は1度軽く振っただけで切れてしまった。同じ人が実験をしているので、単にカードの能力に依存した場合だとこのぐらいの差がでるのか。
「持ち主が努力すれば相乗効果で更に能力アップできるのか」
よくこんなものを開発したな…。
人間も、魔族に対抗する手段をしっかり開発していたというわけか……。
「あれ、ルイ君!」
「ん…?」
振り返ると、そこには制服を着たアネットがいた。




