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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
30/52

フェイリスとの特訓

 次の日。

 今日からフェイリスを従僕として働かせると言ったものの、休日なので部屋でのんびりしていた。

 本来ならば、この時間帯は雑務におわれているはずなのだが、それもない。毎日かかさずおこなっていた魔力の調整も、封印された今となってはする必要もない。

 読書でもするか…と思い、ベッドから腰をあげたところで朝食を終えた勇者がやってきた。


「ああルイ君起きてたのか、ちょうどよかった。 

 フェイリスが寮の前で君のことをずっと待ってたよ」

「なに…?」


 フェイリスが? 何かあったのだろうか。

 俺はすぐに服を着替えると、寮の前へ。

 勇者の言うとおり、フェイリスが待っていた。

 男子寮の前に女子が来ることなんて珍しいため、近くにいた男達はちらちらと気にしていた。

 フェイリスは、俺に気付くと駆け寄ってくる。


「ルイさん、おはようございます」

「おはよう。どうした? こんな時間から」


 俺がそう言うと、逆にフェイリスが首をかしげた。


「どうした…って、あの…今日から私しばらくルイさんの従僕なんですよね? だから、何をすればいいのか聞きに来ました」


 なるほど、そういうことか。

 こんな朝から律儀な奴だ…。

 しかし、命令通りちゃんと自分のことを従僕として認識しているあたり評価は高い。

 

「そうだな…。これから図書館に行こうと思ってたところだ。

 この世界の字は読めないが、図書館にならもしかしたら読めるものがあるかと思ってな。

 だから、俺が読めることのできる本を一緒に探してくれないか?」

「はい、わかりました」


 そう言って、俺とフェイリスは寮から少し離れた図書館へと向かう。

 歩きながら、俺はフェイリスにある疑問を投げかけた。


「そういえば、男に触れられるとダメなのはわかったが、近付いたり話す分には大丈夫なんだな」

「はい。緊張はしますけど、体が震えたりするとかはないです」

「そうか…。自分から触るのもダメなのか?」

「……わかりません。 試したことがないので…」


 なるほど…。

 これはいいことを聞いたかもしれないな。


「もし自分から触って気絶したら、相手に失礼じゃないですか。だから、やったことないです」

「そうか。じゃあ今、試してみるか?」


 俺の提案に、フェイリスは渋るような表情を見せる。


「ですが…」

「やっぱり怖いか?」

「いえ、そうじゃなくて……」


 じゃあ一体なんなんだろうか。

 俺に遠慮でもしてるのか…?

 

「その、ルイさんに触るのはなんか恐れ多くて…」

「……」


 その答えは予想していなかった。

 そうか、一瞬忘れかけていたが俺は魔王だったんだ。

 対等に話せているつもりでも、フェイリスからはそうじゃなかったのかもしれない。

 恐れ多い…か。

 ならば、こう言うしかない。


「そうだな…、じゃあフェイリス。命令だ。

 俺の手を握ってみろ」


 命令とならば、いくら恐れ多いといえど逆らうわけにはいかない。俺は、立ち止まるとフェイリスに片手を差し出した。


「うぅっ…本当にやるんですか…」

 

 男を触れないという体質を治すと意気込んではいたものの、やはり実際にやろうとすると気が引けるようだ。

 だが、これ以上甘やかすわけにはいかない。

 いつまでも、辛い現実から逃げていては克服することはできないしな。

 少し荒療治になるが、フェイリスには頑張ってもらうしかない。


「……」


 フェイリスは俺の手を何度か触ろうとしては手を引っ込めていた。


「君は虫を触ろうとする女子かっ!」

「うぅ、だって……」


 怖いのはわかるものの、ここまで来ると何故か一周回っておもしろさすら感じてしまう。

 フェイリスは、意を決して俺の手を触った。


「っ……」


 目を瞑りながらだが、なんとか触ることに成功したフェイリス。

 その肩は少し震えている。

 俺は、触れているフェイリスの手を少し握ってみる。

 すると、さっきとはうってかわって体が飛び上がる。


「きゃああっ!!」

「おぉ、悪い悪い」

「はぁ…びっくりしました……。心臓に悪いです」


 フェイリスは肩で息をしながら、俺から少し離れる。

 ふむ…。こりゃだいぶ重症だな。

 だが、目をつぶりながらならなんとか触ることは可能みたいだ。

 これがわかっただけでも十分だろう。


「今日はここまでにしておこう。次はまた後でな」

「はい…」


 そうしているうちに、俺達は図書館へとたどり着いた。

 フェイリスと共に俺が読める本がなにかないか探したものの、それらしきものは見つかることはなかった。

 俺はどこかモヤモヤした状態のまま図書館から出ると、フェイリスの特訓に力を注いだ。

 が、初日からそううまくいくはずもなく。

 最後にはフェイリスが失神してしまい、今日の特訓は強制的に終わざるをえなかった。。

 たまたま買い物から帰ってきていたアリサを見つけたからよかったものの、彼女がいなければ俺が背負う羽目になっていた。もしその間に目が覚めたら大変なことになっていただろう。

 フェイリスは、あの模擬戦の時俺が背負ったことを覚えていない。あの時も、もし目が覚めていたら最悪フェイリスの魔力が暴走して光の矢が刺さっていたかもしれないな。


「悪いな。助かった」

「ほんとよ。朝から2人がいないからどうしたのかと思ったらいつの間にかそういう話になっていたとはね」

「フェイリスのこの体質は後で絶対ネックになる。今のうちに治しておいたほうがいいだろう」

「そうだけど…。あまりこの子に無理させないであげて」

「気を付けよう」

「ほんとにそう思ってるかしら…」


 アリサは最後まで俺に対する疑念を拭わなかったものの、俺とフェイリスが治す特訓をしていることについては何も言わなかった。

 こいつも、フェイリスのことは心配していたらしい。

 ただの暴力女だと思っていたが、他人を思いやる気持ちは持っていたようだ…。

 俺はアリサと分かれると、寮へ戻っていく。

 その後は特にこれといって特筆することはなにもなく、1日を終えた…。

 次の日からも、俺とフェイリスの主人と従僕という関係は継続していた。とは言っても、俺が基本的に命令することは特訓関連のことがほとんどだ。

 だが、あまり特訓だけをしていたらフェイリスに怪しまれる可能性がある。だから俺は何度かフェイリスにパシリのようなこともさせたりすることもあった。

 嫌な顔1つせずに命令を聞くフェイリスには少し申し訳ない気持ちになった。

 そうして数日間特訓を続けたことにより、なんとかフェイリスは目を瞑りながらなら俺の手に触れても体が震えることはなくなっていた。


「よし、目をつむって触ることはだいぶ慣れたな。

 じゃあ次は目を開けたままに挑戦だ」

 

 しかしここからがフェイリスにとって本当の地獄だった。

 今までは、視覚として俺を認識しない分大丈夫だったのが、今度は視覚も認識してしまう。頭に入る情報が更に追加されてしまい、結果それは彼女の体に震えとして現れた。 


「ふむ…。今日はここまでにしておこう」

「はぁ…はぁ…。わか…りました…」


 肩で息をしながら必死に心を落ち着けようとするフェイリス。

 これ以上続けたらまた気絶してしまうだろう。アリサに運ばれて以来、まだも1度も気絶していないが、強引に推し進めようとすれば絶対に気絶してしまう。

 だいたい予想はしていたが、本当に厄介な体質だ。

 次の日も、その次の日も、果ては休日までも、俺とフェイリスはほとんど行動を共にし、特訓に明け暮れた。

 あまりにも2人で行動することが多かったからか、勇者達も俺達の行動をいぶかしげに思っていたようだったが、忙しいのかそれについて言及されることはなかった。

 そんな生活が2週間程続いた頃。

 この日は休日だったため、俺は朝からフェイリスと特訓していた。 


「ふっ――くぅ………はぁ…はぁ…」


 傍から見れば誤解されそうな声を出すフェイリス。

 だが実際には俺のことを触ろうと必死になっているだけという…。

 涙目で手をぷるぷる震わせながら俺に触れている様子は可愛らしいが、彼女にとっては笑い事ではない。

 俺と対面して目を開けながら、数秒触れることに成功したものの、まだまだ克服には程遠い。

 その後も頑張っては見たものの、大した成果は得られなかった。

 そこで俺は気分転換に街に出てみないかと誘ってみたところ、少し考えた後フェイリスは首を縦にふった。

 だが、この気分転換が後に大きな事件になるとはこの時考えてもいなかった――







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