勇者の栄光
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「ここが王の間か」
俺は思わずその広さに感嘆してしまった。
俺の王の間より数倍は広い。それに壁にかけられたたくさんの装飾品は、どれも高価そうだ。まあ俺はこういったインテリアにはあまり興味がないので、正直どうでもいいが。
玉座には王様がふんぞり返るようにして座っていた。その周囲を側近や兵士たちが護衛している。
随分と偉そうな王様だ。王様だから仕方ないのだろうけど。
王様の真隣には、恐らく息子なのだろう、王子が立っていた。だが、正直王子とは思えない体型をしていた。端的に言うと、太りすぎだ。
こんな奴が王子をやっている国に俺は負けたのかと思うと、無性に腹が立ってくる。
今日狙われてさえいなければな…。
だが、今となっては後の祭り。俺はこの現実を受け止めなければならない。
「フェルド陛下。勇者達が戻ってまいりました」
大臣が言うと、王様はそうかと言って手招きしてきた。
俺は勇者達と共に王様の傍へ。
勇者達が膝をついて礼をするので、俺もそれに従う。
流石にそのあたりは空気を読む。
「随分と早い帰りだったのだな。まさか諦めてきたのではあるまいな?」
王様の鋭い視線にも動じず勇者はこう言った。
「いえ、滅相もございません。
それどころか陛下。私達は先程魔王を討伐することに成功いたしました」
「なぬ、それは誠か?」
勇者が頷くと、フェルド王は先ほどの鋭い視線とは打って変わって柔和な笑みを見せた。
…がすぐに笑みをやめるとこう言った。
「しかし、流石にちと早すぎやしないか?
魔王を討伐に出かけてまだ半日も経っていないぞ」
「陛下。私達のパーティには優秀な魔法使いがいることをお忘れではありませんか?」
「む? …。
ああ!なるほど、ミスティックドアを使える者がいたのを忘れておったわ。すまぬ。
この年になると少し物忘れがひどくてな。
まぁよい。
そうか。ついに魔王を倒してくれたか…」
フェルド王はしみじみと何度も頷くと、続けてこう言った。
「そち達は、人類にとって脅威となる魔族の王をたおしてくれた。まだ魔族の残党はたくさん残っているじゃろうが、魔王がいない魔族など何も怖くなどないから捨て置いて構わないじゃろう。
だから、魔王を討伐した褒美を取らせねばな。
何が良い? 地位か、名誉か金か? それとも女か?
そち達のパーティには美男美女が揃っているから異性の相手に困ることはないじゃろう。じゃが、もし求めるのであればそれでも構わないぞ。
さあ、何が良い。私に申してみるがよい」
王様は、魔王討伐の報告にたいそう機嫌をよくしている。
アリサを見ると褒美を想像しているのか、口元がだらしなくにやけていた。
エリカは目を閉じたまま、何かを考え込んでいる。
フェイリスは、居心地が悪いのか、しきりに周囲を見渡してずっとそわそわしていた。
皆王様の前なのに割とマイペースなのな…。
俺は、勇者が何を王様に求めるのか少し興味があった。
だが、勇者の口から飛びだしてきた言葉は、俺の想像とはかけ離れたものだった。
「そのことについてなのですが、陛下。少しよろしいでしょうか」
「ん?」
勇者は一旦息を整えると、こちらを見た。
「ルイくん。ちょっとこっちに来て」
「え、ああ」
言われるがままに、俺は勇者の元へ寄る。
フェルド王は、俺を見て首をかしげた。
「この青年は?」
「はい。この者は、私達が魔王を討伐する際に手助けをしてもらったものです。
魔王の城に幽閉されていたところを私たちが助け出しました。
この者がいなければ、私達は魔王を倒せなかったといっては過言ではないでしょう」
はい?
こいつはいきなり何を言っているんだ。
「ほう。それで?」
王様は興味深そうに俺を眺める。俺は目をそらした。
「ですから、私達だけが褒美をもらうのは申し訳ないと思うのです。
この者にも褒美をもらう権利を分けてもらえないでしょうか?」
「ふむぅ…」
王様は黙り込んでしまう。
俺は、勇者に耳打ちして言った。
「(なにデタラメなこと言ってるんだ!嘘ってバレた時にはお前らもどうなるかわからないぞ?)」
「(大丈夫さ。それに、君をあの学園に通わせるためにはこうするしか方法がないんだよ)」
「(あの学園?どういうことだ)」
「(それはすぐにわかるよ。ほら、ずっと話してたら怪しまれるから前を向いて)」
俺は勇者の言った言葉が気になったものの、これ以上会話していると怪しまれるとふんだため再び前を向く。
タイミング同じくして、王様の結論が出たようだった。
「よかろう。じゃが、どんな褒美を求めてくるかにもよる」
「はい。では私はこの者を“王立魔王討伐学園”に編入させることを希望します」
「は?」
王立魔王討伐学園――――?
魔王討伐学園さん魔王…討伐…。
「くっ……くくく」
俺は思わず笑ってしまった。
この勇者は、あろうことか魔王である俺を討伐する学園に入れさせたいのだという。
なんという皮肉なことだろう。
フェルド王は、勇者の頼みに対してこう言った。
「ふむ。あの学園か。
構わないが、そんな褒美で本当に構わないのか? もう少し何か言っても構わないぞ?」
「父上。こいつがその褒美で良いと言っているのです。それで良いではありませんか」
そこで初めて、肥えた王子が口をはさんだ。
だが、王子の言葉にフェルド王は静かに怒りを見せる。
「ボンタ。お前には聞いておらぬ。それに魔王を討伐してくれた勇者に対してこいつ呼ばわりとはどういうことだ。無礼を弁えよ」
「……」
「いえ、陛下。私はその褒美さえ聞いていただければ他には何もいりません」
勇者のその言葉に、アリサが残念そうにする。
王様は、勇者の言葉に感銘を受けたようだった。
「その謙虚さ。お主は誠に勇者にふさわしい。ますます気に入ったぞ。
よかろう、ではその者を我が学園に入学させることを約束しよう」
「ありがとうございます」
勇者が礼を言うと、王様が手を叩く。
「では、堅苦しいことはこれくらいにして、今日はそち達の栄光を称えて宴じゃ! 皆の者、すぐに準備するように!」
「はっ!」
フェルド王が家臣達に命令すると、忙しなく動き始める。
「改めて、魔王討伐、誠にご苦労じゃった。
今日は我が城で好きなだけゆっくりしていくが良い。
ではな」
そう言うとフェルド王は、王の間から去っていく。その後を側近たちが追いかけていった。
後に残されたのは、俺と勇者達、そしてボンタ王子だけだ。
「じゃあ僕達はとりあえず部屋に――」
「おい、お前」
勇者に対してそう呼びかけたのは、王子だった。心なしか、イライラしているように見える。
「ボンタ王子。どうなされましたか」
勇者は愛想よく笑顔で答える。
王子は勇者を睨みつけるとこう言った。
「お前、父上に褒められたからっていい気になるなよ」
それだけ言うと、王子は出ていった。