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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
29/52

不穏な気配

「………え?」


 何を言われたのかわからなかったらしい。フェイリスから困惑の表情がみてとれた。


「従僕…?」

「ああそうだ」


 こうでもしなければ、フェイリスは手伝わせてくれないだろう。だから名目上はそういうことにしておいた。

 俺は一度咳払いするとこう言った。


「フェイリス。

 前も言ったとおり、過激派が攻めてくる可能性は十分に高い。

 もしそうなった場合この国は戦火に晒されるのは必須だろう。そういう時になって気絶でもしてみろ。君はそのまま殺されるか、捕縛され陵辱される恐れすらある。俺は親父とは違って捕虜に対し陵辱や拷問の類は禁止しているが、奴らがそれを守る保証はどこにもない。

 だから君のその厄介な体質は後になって大変なネックになるだろう。

 そしてもう1つ。フェイリスのように回復や補助に回れ、更に遠距離からの攻撃もできる僧侶はかなり少ない。君が回復できなければ、それだけで死ぬ人達がたくさんでる」

「………」


 フェイリスは俺の話の腰を折ることなく、ただ静かに聞いていた。俺は続ける。


「だからフェイリス。

 俺と一緒にその症状を克服してみないか?」

 

 いつの間にか命令ではなくお願いになってしまったがまあいいだろう。

 フェイリスは俺から視線をそらすと自身の長い銀髪をいじっていたが、やがて決心したのか俺と再び目を合わせる。


「私も本当は前からずっと治したいと思っていました…。でもどうしていいかわからず、結局は見て見ぬふりをしていたんです。この苦痛からは一生逃れられないんだって。

 でも、もし本当に…本当に治せるのだとしたら、私はルイさんに頼りたい……! 」

「よく言った! それでこそ勇者パーティの一味だ。

 道のりは険しいだろうが、頑張ろうな」


 そう言って俺はフェイリスに微笑みかけると、立ち上がる。


「そうと決まれば、明日から俺の従僕としてしっかり働いてもらおうか。

 俺の従僕になれるなんてこれほど光栄なことはないぞ? 魔界の奴らなら皆泣いて喜ぶからな」


 ネネコに至っては失神してしまった。


「あ…はは…お手柔らかにお願いします」

 

 そう言うと、フェイリスはぺこりとお辞儀した。


「ですが、本当にそれでよかったのでしょうか?

 私、もっとすごいことを命令されると思って覚悟してました…」

「ほう、例えば?」

「その…えっちぃこととか…」


 顔を赤らめてもじもじしながらそう言うフェイリス。

 俺は満面の笑みをうかべつつ、


「なるほど。君が俺をどう思っているのか大体想像がついた」

「ル、ルイさん…? なんだか顔が怖いです」

「男に触れもしない奴が、えっちぃことなどとよく言えたものだな。もしかして、そういう願望でもあるのか?」

「な、ち…違います! 私そんな痴女じゃないです!!」

「ふふ…まあそういうことにしておこう」


 そう言うと、俺はフェイリスに背を向けて歩き出す。

 フェイリスが慌てて追いかけてきた。


「え、ちょっと待って下さい! ルイさん絶対なにか誤解してます―!!」

「心配するな。俺は口は固いほうだ」

「やっぱり!!」


 そうして俺はフェイリスをからかいながら寮へ向かっていく。

今日1日だけでフェイリスの焦る顔、拗ねる顔、驚く顔など、色々な表情を見れたので大変満足した。普通に話す分には人見知りをするものの、フェイリスもただの可愛い少女だ。


「じゃあまた明日」


 その後フェイリスと分かれ、寮へ向かっているとエリカを発見した。

 エリカは、俺に気付くとこちらへやってくる。


「あら、ルイ君。ちょうど良かった。リュートが貴方を呼んでいたわ」

「勇者が?」

「なんでも、封印の件について話があるんだそうよ」


 ほう…。もしかして、解く方法がわかったとかそんな感じか?

 もしそうなら早く行かねば。


「それで、勇者はどこにいるんだ?」

「寮に戻ってるから来てほしいって言っていたわね」

「了解。ありがとう」

 

 そうしてエリカと分かれ寮へ戻ると、勇者が随分と深刻そうな顔をして座っていた。

 こちらが帰ってきたことに気づくと、顔を上げる。


「あ、ルイ君おかえり。ちょっと話があるんだけどいいかい?」

「エリカからお前が俺を呼んでるって聞いたからな。それで、何の用だ」


 深刻そうな顔をしていたため、恐らく封印の解除がわかったとかそういう話ではないだろうな…。


「そのうちクラスでも言われると思うんだけどね、最近この辺りで住民が襲われるという事件が多発しているらしいんだ」

「そうなのか。しかし、それをどうして俺に言う?」

「まぁ、本来なら君にはあまり関係のない話なんだけどね…。けれど、そうも言っていられないかもしれないんだ。なにせ、小耳に挟んだ情報だと犯人は魔族らしい」

「…」


 なるほどな…。

 その魔族が俺の管轄内の魔族なのか、もしくは単独で動いている魔族なのかはっきりとはわからない。

 しかし本来、並の魔族なら簡単には人間界には来れないはず。となると、こっちにやってこれるだけの魔力を持つ魔族ということになる。少なくとも雑魚ではないということだ。

 少々厄介だな。


「確定情報かどうかまではわからない。けれど、既に3人が犠牲になっているんだ。

 今兵士達が街の警護にあたっているけれど、もしフェルド王が襲われでもしたら…」

「相手の目的は?」

「それがわからないんだ。金品が荒らされたという訳でもないし…。

 まだそこまで公にはなってないけど、既に街ではかなり噂されているよ。だから不安がる住民たちも多い」


 動機が不明か。

 一番対処方法に困るパターンだな。


「それで、お前は俺に何を求めるんだ? 言っておくが、討伐しろとかは勘弁してくれよ。

 今の俺はお前達より格段に弱いんだ」

「そんなことは言わない。でも、頭の片隅には入れておいて欲しいな」

 

 そう言うと、勇者は資料を見て調べてくると言って寮から出て行ってしまった。こんな時間なのにご苦労様なことだ。

 俺は部屋に備え付けられている風呂に入ったあと、寮の共有スペースでまったりとしていた。

 そこへ同じく風呂上りのコウヤがやってくる。首にはタオルがかかっており、パンツ1枚という、まぁ男子だらけの場所にありがちな格好になっていた。


「おールイも風呂上りか」

「まあな。お前、そんな格好で寒くないのか」

「いや、むしろ暑いぐらいだぜ。大浴場の風呂はじじいの風呂かって思うぐらい熱いからな」


 そうして俺はしばらくコウヤととりとめもない話をしていたが、やがて話はアネットのことになる。


「しっかし、今でも信じられねぇな。あの弱かったアネットが、フェイリスに勝っちまうなんてよ」

「だから言っただろう? 1週間で勝てると」

「へ…もし嘘だったらとっちめるところだったが、本当にやりやがってこの! 」


 そう言われて俺は肘で小突かれる。腕がかなりごついので、結構痛い。

 

「けれど、一体どんな鍛錬をしていたんだ? 少しだけ見たが、よくわからなかったぞ」

「それは企業秘密ってやつだ」

「なーんだよつまんねぇな。でもま、アネットが勝てたからいいとするか!

 ともかくルイ、アネットを勝たせてくれてサンキューな!」


 そう言うとコウヤは部屋へ戻っていった。

 

「さて、俺もそろそろ寝るか…」


 そう言うと俺は部屋へ戻って就寝した……。


 






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