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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
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魔王城にて

 離れていたアネットとの距離を縮めると、アネットの首めがけて剣を振る。

 アネットはすぐさま後方に避けると反撃してきた。

 本来なら避けられるはずの攻撃だが、弱体化している俺には避けられるすべはなく、剣で受け止める。

 重い一撃に思わず剣を持つ手が震えた。


「ぐっ…」


 アリサといい、この細い体のどこにこんな力があるんだよ。

 まるで魔獣を相手にしているようだ。

 こうして両手で大太刀を受け止めていなければ、弾き飛ばされていただろう。

 というか、本当にこれでカードが3とは信じがたい。

 俺が疑問に思ったのも束の間、すぐに次の攻撃が飛んでくる。


「(横に()ぐな)」


 手の動きからそう判断した俺は、後方に飛んでかわそうとする。

 だが、アネットは俺のその行動ににやりと微笑んだ。


「横に振ると思った? 甘いよルイくん!!」


 そう言うとアネットは大太刀を振らずに俺との距離をひとつ縮めてきた。

 そしてその状態から大太刀を縦に振ってきた。

 ほう…フェイントを仕掛けられるようになったか。 

 なかなかやるじゃないか。

 俺は、アネットの大太刀を無理に避けようとはせず剣で受け止める。

 再び重い一撃が手から伝わり、思わず落としそうになる。

 やはり、弱体化しているのは大きかった。


「ちぇ、今のはいけると思ったんだけどなぁ~…」

「ああ…今のは少し驚いたぞ。あと少し反応が遅れていればやばかった」


 そこで俺は息が切れていることに気づいた。

 これまではひたすら避けることに集中していただけだったからあまり体力を使わなかったものの、自身も攻撃に回り、更にアネットの攻撃を受け止めるだけでこんなに体力の消耗が激しいとは。

 恐らく、いや確実に体力という面ではアネットの方が確実に上なので、長期戦に持っていかれた場合俺は負けるかもしれない。

 少し前なら俺が負けることなんてありえないことだったのに、もうこんなにも追い詰められている。アネットの潜在能力はもしかしたら想像以上なのかもしれない。


「戦い中によそ見してたら危ないよっ!!」

「っ……!!」


 不意にアネットが攻撃を仕掛けてくる。

 俺は横にそれてかわすと攻撃を仕掛ける。


「はぁ!!」



 そうして俺とアネットの鍛錬は数時間にも及んだ。

 鍛錬が終わると、お互いに礼をして寮へと戻る。

 今日はかなり危なかったな。

 正直たった3日の鍛錬で彼女がここまで強くなっているとは驚きだ。

 この分だと4日後にはかなり強くなっているだろう…。

 

「はぁ…」


 俺は、ふと空を見上げた。

 特に理由はないのだが、なんとなくそうしたかったのだ。

 既に太陽は沈み、暗く静寂(セイジャク)な空が広がっている。

 そして俺は目を閉じ、部下達のことを思い浮かべた。


「魔界はどうなっているんだろうか」


 思わずそんなつぶやきが口から漏れ出る。

 俺が力を封印されたから数日が過ぎた。

 そろそろ部下達は帰ってくる頃だろう。そして、俺がいないことを知りすぐにでも行動を開始するはず…。 

 その時に過激派と穏便派でどう動くかが話し合われるだろうが、恐らく俺が力を封印されていることを知らない限り、過激派は動かない。

 だが、それを知ってしまったときいよいよ大変なことになる。

 それを理由にこっちに攻め入ってくるだろう。そして、もし俺が過激派に見つかれば殺されるかもしれない。

 過激派には俺を恨んでいる連中もたくさんいるからだ。

 そうならない事を祈るばかりだ。

 まあでも幸いにも魔界にはネネコがいる。

 少し…いや、かなり俺を慕ってくれている子で、戦闘能力は非常に高い。

 恐らく、アリサ、エリカ、フェイリス、勇者の4人が同時に襲いかかっても勝つんじゃないだろうか。

 ただ、他人に対しては容赦なく毒舌を吐くから過激派を変に怒らせなければいいんだけど。 

 俺は、そんなことを考えながら寮へと戻ったのだった。



 


 …しかしその頃魔界では予想もしない事態が起きていた。












「はぁ~、いやー久しぶりにゆっくりと休暇を過ごせたでござるよ」

「ほんとにな。俺も家族とのんびり話すことができてすごい楽しかったよ。

 ルイ様に感謝しないとな」

「でも、どうして突然私達幹部全員を帰省させたりなんかしたんだろうね」

「さあ? でも、おかげでたくさん羽を伸ばすこともできたし、俺は有意義だったと思ってるけどな」


 城で働いていた幹部の魔族達は、帰る日になって集合する形でルイの城へと向かう。

 だが、穏便派は穏便派だけで、過激派は過激派だけで城へと向かっていた。 

 穏便派達は、帰省した時の生活を語りながら楽しく歩いていた。

 中心を歩く、がたいの良い男はルシエル。堕天使でありその肩からは、特有の黒い翼が生えている。

 左を歩く、長身の女性はミリア。穏便派の頭脳とも言われ、過激派に対し、いつも舌を巻くような反論を言って抑圧している。

 右を歩く小柄な男性はオザルリオ。ござるという独特な語尾を持ちながらも、面倒見の良い魔族としてみんなから慕われている。

 そしてその後ろを歩くのはネネコ。

 ルイの1番の側近でもあり猫族最後の生き残り。

 ネネコは、不機嫌そうにしながら歩く。 

 

「なぁに辛気臭い顔してるんだよネネコ。

 そんなに皆が帰省している間、楽しくなかったのか?」

「うるさい」


 ネネコは男の質問にそう答えると、前へと進んでいく。その背中からは、話しかけるなというオーラが溢れ出ていた。

 その様子に、一同はため息をつく。


「うーん…。帰省してからというもの、ネネコ殿はいささか機嫌が悪いように見えるでござるな」

「そりゃあな。

 大好きなルイ様に、命令とはいえ俺たちについていけと言われたんだ。

 けど、あの時のネネコの焦りっぷりは初めて見たぞ」

「私達が帰省する日数は3日。

 だけど、その間ルイ様に会えないってだけでこうも不機嫌になるとは…」


 前を進むネネコについていきながら、一同はそんなことを話し合う。

 その後、男が何度かネネコに話しかけたものの、まともな答えが返ってくることはなかった。












 


「やっとルイ様と会える…」


 城に着くと、私は思わず胸を躍らせた。

 たった3日と皆は言うけれど、私にはそれがひどく長く感じられた。

 命令だから仕方なくついていったものの、ずっとルイ様のことが気がかりでならなかった。

 ルイ様は、私達を休ませようとして命令してくれたのはわかる。

 けれども私がついていったその日は、ルイ様が1年で1日だけ弱体化すると言われている忌まわしき日。

 だから心配だった。

 何もなければいいんだけれど…。


「…」


 そして、私達は城に着いたところでふと異変を感じた。

 他の幹部達もそれを感じ取ったようで、首をかしげている。


「なあ、なんかやけに静かじゃないでござるか?」

「確かに言われてみれば。まぁとりあえず入ってみようぜ」


 そう言って幹部の一人が城内へと足を踏み入れる。

 それに続いて私達も中に入った。


「ルイ様?」


 そう呼びかけるものの、返事はない。

 それに、入口付近にいるはずの兵士も何故かいなかった。

 私は、何か嫌な予感がして奥へと進んでいき、ルイ様の玉座の部屋にまで行く。


「あ、おいネネコ待てよ!」

「なんか、変な空気でござるな…」


 幹部達も一緒についてきたようだ。

 別にこなくてもいいのに。

 だが、そんな考えも玉座に着いたところで全て吹き飛んだ。


「え…?」


 ルイ様の玉座は、破壊されていた。

 それどころか、地面のあちこちに穴のようなものが見える。 

 どう考えても、戦闘が行われた痕だ。


「これは…」

「ああ。どうやら悪い予感は的中したようだぜ」


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