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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
22/52

鍛錬3日目

 そして、放課後になると再びアネットともに外の広場へと行く。

 今日は、コウヤは見学しには来なかった。

 体操をして、体をほぐしたところでお互い戦闘服に着替える。


「じゃあ今日も俺にひたすら本気で斬りかかってこい」


 俺がそう言うとアネットはわかった、と微笑んで、戦闘をはじめる体制に入る。

 そうしてアネットがひたすら俺を斬りかかり、俺がそれを避けるだけという単純な鍛錬が始まった…。



 そしてはじめること数時間。

 俺はついに彼女の弱点を全て把握することができた。

 一度休憩をとると、俺はさっそくメモに書き留めていく。

 アネットの弱点。

 ひとつ。前にも言った通り、彼女の太刀には迷いが生じている。

 その迷いを克服し、相手を殺すぐらいの勢いで太刀を振るうことができればよし。

 ふたつ。攻撃が単直ということ。

 直球なのは良いが、それだとすぐに相手に行動を読まれてしまう。実際俺も少し戦っただけでアネットの行動パターンを把握(ハアク)してしまった。

 確かアリサも攻撃が単調だったな。

 ただあいつの場合は、それをスピードとパワーでゴリ押ししているからタチが悪い。あいつがもしちゃんとした戦い方を身につければもっと強くなるだろう。

 他にもいくつか改善するべきところはあるものの、とりあえずこの2つさえ改善できればかなり強くなるだろう。

 今日をいれてあと6日。

 フェイリスとの戦いまでにアネットには必ずこれを克服してもらわなければならない。


 

 休憩を終えると再び鍛錬を再開する。

 お互い疲れているものの、それを口にすることはなく真剣に戦う。

 アネットは何度か俺に攻撃を当てたものの、感触は薄い。

 だが、昨日に比べ彼女の動きは少しマシになっていた。

 それもそのはず。

 俺が教えているのだからな。強くなってもらわなければ困る。

 それに、あれを舐めた効果も出てきているようだしな。

 しかし、俺はただ闇雲にアネットの攻撃を避けているわけではない。

 ちゃんとアネットが強くなれるように動いている。

 つまり、俺は彼女の攻撃に合わせ、相手が避けるであろう行動パターンをランダムにこなしている。

 俺は、今まで敵味方含めたくさんの手練と戦ってきた。

 そして、俺が攻撃を仕掛けてもまるで読まれているかのように軽々と避けられ、悔しい思いもしてきた。

 だが、ある日俺は気づいた。

 避けるという行動にもパターンがあるということを。

 それを知った俺は、即座に相手の避けるパターンを研究した。

 その結果、俺は攻撃すれば相手がどのように動いて避けるかということを見切れるようになった。

 特に斬り合いとなれば、避けるパターンなどあまりないので読みやすい。



 例えば、相手の胴めがけて斬りかかろうとする。

 すると、相手が受け止めるのではなく避けるという行動を取った場合、後ずさってかわすか、横にそれてかわすか、あるいはしゃがんでかわすかの3パターンしかない。

 上に飛んでかわす、魔法を使って瞬間移動するという手もあるが、少なくとも常人はよけられる高さまでジャンプすることなどできないし、魔法についてもそんな短時間に詠唱することなどほぼ不可能なのでから省く。

 しかしその場合でも、縦に剣を()いだ場合、横に交わすことはできるもののしゃがんで避けることはできない。逆に横に剣を()いだ場合、今度は横にそれてかわすことは難しい。

 つまり、自分がどのように攻撃するかによって、相手がどういう避け方をするかはかなり絞られるのだ。

 それを読んで不意をつくという戦術が俺のスタイル。これを俺は常時反射と呼んでいる。

 難しいものの、会得すればこれ以上強いものはない。

 だから、フェイリスとの戦いまでにアネットには最低限この常時反射だけは覚えてもらいたい。

 その為に、俺はアネットの攻撃を受け止めるのではなくひたすら避けに(ジュン)じている。

 けれどそのことを俺はアネットには言っていない。

 これは自身で気付かないと意味はないからな。


「……」


 しばらくしたところでアネットの動きが少し変わり始めた。


「はっ!」


 アネットの太刀が横に()いだため、俺はしゃがんで回避する。

 すると、アネットは待ってましたと言わんばかりににやりと微笑んだ。

 瞬間、俺は身の危険を感じすぐさま横にそれる。

 さっきまでしゃがんでいた位置に、太刀が突き刺さっていた。

 

「あともう少しだったのに…」


 アネットは残念そうにしていたものの、俺は冷や汗をかいていた。 

 あと少し反応が遅れていればどうなっていたことか。

 戦闘服が頑丈に作られているとはいえ、かなり痛かっただろう。


「4の字斬りだな?」

「うん…。もう少しで成功しそうだったんだけどなー」

「いや、今のは俺もかなりひやっとしたぞ」


 横に振ったあとそのまま上に持ち上げて真っ直ぐに縦に振る4の字斬り。

 簡単そうでわりと隙を作らずに斬るのは難しいとされている。

 まあ上に剣を持ち上げた際に胴体ががら空きになってしまうからな。



 その後も戦い続けていると何度もひやっとされる局面に立たされたものの、アネットが俺に攻撃を当てることはなかった。

 だが、この分だとアネットが常時反射を身につけるまでそう時間はかからないだろう。

 事実、何度かアネットは俺の避ける方向を読んでそこに攻撃を仕掛けてきたりもしていた。

 アネットの持つもともとの身体能力に加え、あの液体が効いてきたようだ。

 

「(明日もう1日だけ今日と同じ鍛錬をしたら次の段階に移行するか…)」  

 

 俺はそう決めると、その後もアネットととの鍛錬に時間を注いだ…。

 そして鍛錬を終えるとアネットと分かれ、寮へと向かう。


「疲れた…」


 俺はため息をつくと、額の汗を拭った。

 アネットのやる気の高さは目を見張るものがある。 

 魔界でもあんなにやる気の満ち溢れた者はそうそういないだろう。

 これは、かなり期待できるかもしれない。

 6日後が楽しみだな……。

 そうして寮が見えてきたというところで、俺はふと誰かの視線を感じたような気がして振り返った。


「…」


 俺は周囲を見渡すが、特に不審な者はいない。

 ただ木々が風で揺れているだけだった。

 気のせいか…?

 その後、誰かからの視線を感じることはなく、寮についた。




 そしてアネットととの鍛錬3日目。

 早くも彼女は常時反射を身につけてしまった。

 あまりにも早い彼女の成長ぶりに俺も思わず驚いたが、一番驚いたのはアネット本人だった。


「ついにルイくんから1本とった…?」


 俺から1本取れたのがアネット自身にも信じられないようだった。

 なにせつい3日前は俺に圧倒的大差で負けたのだからな。そう思うのも仕方ない。

 例え俺が攻撃していないとしても…だ。

 

「驚くのはまだ早い。

 アネットはまだ、避けにひたすら(ジュン)じた俺を倒したに過ぎないからな」

「じゃあもしかして今からは…」

「ああ。 今から俺も攻撃をすることにする」


 そう。

 これまでの鍛錬で、相手を攻める時は大丈夫だ。

 だから今度は相手から守る為の鍛錬をしなければならない。その為には俺も本気になってアネットを攻撃する必要がある。


「いいか。相手からの攻撃を対処する方法は2つ。

 1つ目は直接受け止めること。

 そして2つ目は避けることだ。

 どちらを選択するかは相手を見て決めたほうがいい。

 例えば相手が明らかに自分よりも腕力や魔力を持っていたとしたら、直接受け止めると自身にかなりの負荷がかかり、より体力も消耗してしまう。このような場合には避ける場合を選択するのが無難だろう。

 逆の場合、力で押せそうならそのまま押し返しても構わないがそれでもやはり自身にかなりの負担がかかってしまう」

「じゃあどうすればいいの?」


 首をかしげるアネットに俺はこう言った。


「対処方法は2つと言ったが、実質は1つと言ってもいい。

 避けるということを極めさえすれば、問題ないだろう。

 そして避けれないと判断した時にだけ受け止める…というスタンスが俺のやり方だ。言っていることは簡単だが、実際にやろうと思っても難しいだろう。

 避けることで余分な体力を減らすことを防げるし、なにより相手に対して焦りを生み出し、(スキ)を作りやすくするというメリットもある。

 それに、避ける場合は自身ではなく相手に対して負荷がかかるからな。

 それで相手の体力の消耗(ショウモウ)を狙い、疲れたところで仕留める…というのも1つの手だ。長期戦にはもってこいの戦略だな」

「なるほど…参考になるねっ!!」


 アネットは嬉々としてメモしていく。

 まあメモなんか取らなくても、こんなのは意識してやっていたら次第に無意識にできるようになるから気にしなくてもいいけどな。

 

「そういうわけだから、今から俺もアネットに攻撃していくからな」


 そうして俺は剣を構える。

 アネットはメモを終え、ポケットにしまうと大太刀を構える。

 

「うん。ルイくん、来て!!」


 1度俺を倒しているからか、その表情には自信のようなものが見えていた。

 俺は無表情のまま、アネットを見据える。


「……」


 お互い、しばらく無言の状態が続いたものの……やがて俺はアネットに対して攻撃を仕掛けた――!

 



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