フェイリスとの賭け
「皆さん何の話をしているんですか?」
「あ、フェイリスさんおはよう。
実はね、今ルイくんに私、鍛えてもらってるんだ~。1週間だけだけどねっ!」
「鍛える…? 1週間…?」
頭にはてなマークを浮かべ、首をかしげるフェイリス。
「あーフェイリス。ちょっとこっちに来てくれ」
「え…? あ、はい」
俺はフェイリスを端の方まで連れて行くと事情を簡単に説明した。
そして、アネットが俺に勝ったら次はフェイリスに鍛えてもらうということも伝える。
「え、ええ!? 私がアネットさんをですか?」
「ああ」
悩んでいるのか、顔を少ししかめるフェイリス。
まあ俺が独断でやったことだから困るのも無理はない。
だが、9の数字をもつフェイリスが相手なら、アネットにとっても十分な鍛錬相手となれるだろう。
しかしここで断られると、俺は別の手段を取らなければならなくなる。
なぜそんなにアネットを強くするのにこだわるのか。
それには俺のある思惑があった。
「構わないですけど…どうして突然そんなことを?」
「ん? まあ、ちょっと俺に考えがあってな。
協力してくれるか?」
俺は、真剣な表情で真っ直ぐフェイリスを見つめる。
すると、フェイリスは突如顔を赤く染めてうつむいてしまった。
「どうした?」
「えっ!? あ、いや、そのなんでもないですっ!!」
そしてあたふたとし始めるフェイリス。どう考えてもなんでもないようには見えない。
何でそんなに慌て…あ。
そこで俺は昨日のことを思い出す。
もしかして、昨日のことを引きずっているのか?
フェイリスは、息を整えるとこう言った。
「その…ルイさんがどんな考えがあるのかは知りませんが、私なんかでよければ協力します」
「そうか、それは助かる」
「でも、私なんかで本当に努まるのでしょうか?」
不安げなフェイリスに俺はきっぱりと言った。
「心配するな。君は、鍛錬の時アネットにひたすら本気で攻撃すればいいだけだ。手加減などしないようにな」
「え、ええ…? でもそれだとアネットさんが…」
「ああ。確かに今のアネットなら、君が本気で攻撃すればあっという間に倒される。
だから、あと6日間でアネットを君と同等のレベルにまで引き上げればいいだけの話だ」
「たった6日間で…? そ、そんなの無理ですよ!」
「本当にそう思うか?」
俺は不敵に微笑む。
フェイリスはこくこくと頷いた。
「そんなこと絶対にできっこないです!!
いくらルイさんが魔…戦闘の達人だとしても、たった6日で、3のカードを持つ人が9と同等に戦うことなんてできません!」
さっきまで恥ずかしがっていたのはどこにやら、強気な態度でそう言うフェイリス。
その表情には少し怒りのようなものが見えていた。
いや……これは怒っているのか? だとしたら可愛いものだが。
しかしなるほどな。
恐らく血のにじむような鍛錬を踏んでやっと(かどうかはしらないが)9という数字のカードにありつけたフェイリスにとって、俺の言葉はいわば、今までの自分の努力が無駄だったと言っているように聞こえたのかもしれない。だから気に入らないのかもしれない。
そこで、俺はある提案をすることに。
「じゃあ、そうだな。賭けをしようか?」
「賭け?」
「ああ。今から6日後に、君とアネットで勝負をしてもらう。
もしそこでアネットが勝てば、俺の言うことを。
君が勝てば、俺が君の言うことをなんでも1つ聞くことにしよう。
どうだ?」
「…」
悩むフェイリスに、俺はそっと耳を近づけ、
「俺は魔王だ。大概のことは叶えられるぞ」
「……!!」
囁くようにして言うと、フェイリスの顔が紅潮した。
こいつはすぐに顔を赤くするな。面白い奴だ。
フェイリスは、しばらく考えていたものの、やがて首を縦にふった。
俺は心の中でほくそ笑む。
彼女は、自身が長い時間をかかってたどりついた境地に6日でたどりつけるはずがない。
だから勝てる。
そう思っているからこの賭けを受けたはず。
だが、残念だが彼女には負けてもらわなければならない。
そして、ある事を頼みたいと思っている。
だからこの賭けにのってもらった以上、俺が勝たせてもらう。
「よし。じゃあ、6日後の放課後に、外の広場にな」
それだけ言うと、俺は席に戻る。
間もなくして、講師が来たため俺は淡々と授業を受けていった。




