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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
18/52

普通

「それで…具体的にはどんなことをするのかな?」


 そう言って首をかしげるアネット。


「ああ。これは俺の部下にもよくやらせていたことだが…」

「部下?」

「あ゛…」


 しまった。

 つい、口を滑らせてしまった。

 俺は、表面に出すことなくごまかす。


「いや、なんでもない。

 とにかく、俺がどうしてアネットと戦って圧倒的な差をつけて勝つことができたか。

 それは、実戦経験の有無ということもあるが、さっきも言った通り太刀に迷いが生じているからだ。

 ならば、どうすればアネットを強くするかなんて簡単なことだ。

 迷いをなくせばいい」

「うん…。けれど、迷いをなくすって言っても具体的にどうすればいいの?」

「ふむ…そうだな。

 じゃあとりあえず、俺を殺しに来るつもりで1回攻撃してみろ」

「ええっ!?

 そ、そんなこと出来ないよ!!

 もしルイくんが怪我しちゃったら…」


 はぁ~…。

 まあそんなことだろうと思ったが。

 あの勇者といい、アネットといい…。お人好しが多すぎる。

 お人好しも、度が過ぎれば仲間を危険に導くこともあることも教えたほうがいいのだろうか…。

 戦いをする以上、怪我はついてくるものだ。

 むしろ、それを恐れずして戦いなどすることなんて不可能だ。


「今更何を言ってるんだ。

 君は魔王を倒すためにこの魔王討伐学園に入学したんだろうが。

 つまり、敵に対して怪我どころか、殺すつもりで戦うってことだ。

 それなのに、相手が怪我するってぐらいで怖気づいてどうする。

 どうしても無理なら俺を魔王にでも見立てて攻撃してきたらどうだ」


 そう言うと、俺は剣を構える。


「それともなんだ、その大太刀はただの飾りなのか?」


 俺の言葉にアネットはムッと来たのか、大太刀を構える。


「か、飾りじゃないよ!

 …わかった。

 ルイくんがそこまで言うなら…。でも、怪我しても怒らないでねっ!!」

「ふっ。

 残念だが、今の君では俺に傷一つ付けることはできないから安心しろ」

「そんなのやってみなきゃわからないもん!」


 そう言うと、アネットは再び大太刀を振り下ろしてくる。

 さっきよりも少し素早くなったものの、やはりどうしても迷いが生じているようだ。

 しかし案ずることはない。

 なにせ、俺が直々に稽古(ケイコ)をつけてやっているんだ。こんなに(ホマ)れなことはないぞ。

 本当なら金を取るぐらいだが、アネットには特別だ。

 それに、人間があれを舐めて一体どのぐらい成長できるのかというのも興味があるしな。 

 俺は、その後真剣にアネットとの稽古に精を出したのだった…。

 …。



「はぁ…はぁ…」



 暫く練習した後。

 アネットはへばったのか、ついに地面に仰向けになって倒れてしまった。

 俺も少し息切れを起こしていた。

 何度かアネットから攻撃をもらったものの、こうしてなんとか立っている。

 やはり、弱体化しているのが大きかったか…。

 この数時間、アネットはひたすら俺に攻撃を仕掛けてきていた。

 そして俺はそれをうまく見切り、避けていただけ。

 ただそれだけの稽古だ。

 最初はキレの良かったアネットの攻撃も、振れば振るほどその攻撃が弱々しくなっていた。



「よし、今日はここまでにしておこう」

「ふぁい…あり…がとうございますぅ…」


 息も絶え絶えに、そういうアネット。

 その顔からは玉のような汗がふきだしていた。

 俺は、懐からハンカチを取り出すと、アネットの汗を拭いてやる。


「あ、ありがとうルイくん…」

「もう日も落ち始めている。

 そのままいると風邪ひくからさっさと帰ったほうがいいぞ」

「うん…そうしたいんだけど、もう体が動かなくて…」

「はぁ~だらしないな。ったく、ほら」


 そう言うと俺はアネットを抱きかかえるようにして起こす。


「ル、ルイくん!?

 そんなことしたらルイくんにも汗がついちゃう!」

「ん? 俺は別に気にしないけど」

「私が気にするのーっ!!」


 顔を真っ赤にして怒るアネット。

 さっきまでのへばりっぷりが嘘のようだ。

 しかし動けないというのは本当のようで、俺にされるがままにしていた。


「ほら、動けないんじゃないか。

 このまま連れてってやるから。

 で、確かアネットは女子寮…とやらに住んでいるんだったっけ」


 勇者たちからそのあたりの説明は一通り受けている。

 俺はどうやら男子寮で勇者と同部屋らしく、学園から数百メートル離れた先にあるらしい。

 女子寮の真横なので、ついでに連れて行くか。

 俺は、尚も恥ずかしがるアネットを連れて女子寮へと向かう。

 そして女子寮が見えてきたあたりで、めんどくさい奴と対面してしまった。

 そいつは、こちらに気づくなり目を丸くして驚いた。


「あ、あんた…何で女子を抱えているのよ」

「あ? 別にお前には関係ないだろ。じゃあな」


 アリサだった。

 俺は、そのままアリサを横切って女子寮内へと入ろうとするが、アリサに止められる。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!

 どうして女子寮に入ろうとしているのよ!」

「いや、アネットが疲れて動けないらしいから、部屋に入れようかと思ったんだよ」

「あんたね、女子寮は男子の出入り禁止なのよ。勝手に入ったら罰として反省文よ」

「はぁ…?

 なんだよその意味わからん制度は。俺はそんなの知らないぞ」


 それじゃ連絡事項とかがある場合どうしたらいいんだよ。

 それと、緊急事態の時も。


「まぁいい…。じゃあアリス。アネットを頼んだ」

「アリスって誰よっ」

「え、お前の名前。違ったか?」

「アリサよアリサ!!

 人の名前ぐらいちゃんと覚えておきなさいよ」

「悪い、俺自分の記憶から無駄だと思ったことは勝手に消してしまうみたいでな。 悪いな」


 からかうつもりで言ったつもりだったが、アリサの頬はひくひくと動いていた。

 あ、やべ…ちょっと言いすぎたか…?


「つまりそれは私の名前を覚えることが無駄な記憶だと…?」


 笑顔で指をパキパキ鳴らしながら近づいてくるアリサ。

 そこへ、アネットが慌てて口を挟む。


「ル、ルイくんもう大丈夫だから!もうだいぶ疲れも回復したし、ここからは歩けるから…」

「そうか? じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ」

「うん! じゃあルイくん、明日も頼みます!」


 そう言ってアネットは女子寮内へと入っていってしまった。


「明日も頼む…って何を?」


 不審そうにきいてくるアリサ。

 俺は簡単に説明した。

 大貧民クラスの連中らは弱すぎるから、俺が鍛えようと思ったこと。

 その手始めにアネットを一週間で立派な戦士にしてみせること。


「い、1週間で…? あんた、正気?

 というか、あんたにとってはこの学園の人達は皆敵なんでしょ?

 どうしてそんなこと言い出したのよ」



 俺は頷く。

 確かにそれもっともな理由だ。


「まぁ、理由っていうほど大したものではないが…。

 単純な好奇心だ。

 俺は今まで、魔族に対しては何十回、いや何百回と稽古をつけてきた。

 そしてほとんどの魔族はそれでかなりの力を身につけてきていた。

 それが人間にも通用するかどうか試してみたいというのもあるだけだ」


 それに、これは個人的な理由だが、大富豪の連中の鼻をへし折ってやりたいというのもあった。

 なーんか、ああいうプライドだけは無駄に高そうな連中は嫌いなんだよな。


「それに、全力の俺ならこの学園のやつらが束でかかってこようが負けるはずがないからな」

「あんたねぇ…。

 ふーん…。

 でも、人間にもあんたと同じ魔族の稽古が通用するとも限らないじゃない。

 もしそれで、アネットさん? が強くならなかったらどうするのよ」

「さあな。その時はその時だ」


 ただ俺への信頼がなくなるの話だ。

 あれだけ大口叩いておいて、何も成果が得られなかったら俺もそれまでということだ。


「はぁ…。 まああんたが何をしようと勝手だけど。

 だって今のあんたには何にもできないし」

「まあな。あの勇者がやってくれたおかげで、俺は今大変だよ」

「その…過激派だっけ。

 そいつらの動きはわからないの?」

「そうだな。ただ、もうそろそろあいつらも留守から戻ってくるはずだ。

 その時に俺がいない城をみてどういう行動を起こすか…」


 ネネコがいるから、しばらくは大丈夫だろうが…それでも心配だ。

 なんともなければいいが。

 俺が少し沈んだ表情をしているとわかったのか、アリサは俺の肩をたたいてこう言った。


「そんなに心配することもないんじゃない?

 それにもし過激派が攻めてきても、あらかじめくるってわかってるならこっちでも策を練られるし」

「…確かに」


 早い話、俺の封印が解かれればこのような心配をすることもない。

 とりあえず、独自で方法を探ってみるしかないか。

 だが、とりあえず今日はもう夜遅い。

 それに、今後1週間はアネットの鍛錬でつきっきりになる。

 とりあえずは、頭の片隅にいれておけばいいか…。

 俺はアリサとわかれると、男子寮へと戻っていった。

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