弱点補強開始
「は…? 1週間?」
コウヤは俺の言った言葉が信じられないのか、思わず声が上ずった。
「たった1週間でアネットが立派な戦士になれるわけが…」
「ちょっと~?
それはどう言う意味かな?」
アネットが笑顔のままコウヤに詰め寄る。
するとコウヤはたじろいだ。
「え、あ、いや、そのアネットが弱いとかそんなんじゃなくって!
単に時間が少なすぎだろってことだ。
でもまぁ、ルイがアネットにどんなことを教えるのか、俺も少し興味がある。
だから放課後、その鍛錬に俺も見学させてもらうぞ」
「ああ、構わないぞ」
俺が頷くと、コウヤはその答えに満足したのか何も言わなくなった。
そうしてその後俺達はどうでもいい話をしながら、食事を終える。
食器を返してクラスに戻ろうとした時、ふとアリサと目があった。
俺は無視して通り過ぎようとする。
「って、ちょっと何無視しようとしてるのよ!!」
いつの間にか背後にいたアリサに俺は肩を掴まれる。
俺はため息をつくと、振り向いた。
「なんだようるさいな」
「何か言った?」
「いいや。それで、何か用か? 告白ならここじゃなくて屋上にしてくれないか」
「はぁ!? バカじゃないの。なんで私があんたに告白しないといけないのよ!しかもなんで屋上!」
「俺の憧れの告白スポットだからだ」
「すっごくどうでもいいわ!
って、そんな話をしている場合じゃないの。
フェイリスが倒れたらしいじゃない。それで少し心配になったのよ」
「ああ、そのことね。それならそうと最初に言ってくれ」
「あんたが話をそらしたんじゃない…」
俺は、フェイリスが模擬戦中に倒れたこと、ただ気絶しているだけだったので問題はないことを伝える。
アリサは話の腰を折ることなく静かに聞いていた。
「なるほどね。とにかく何ともないようでよかった。
じゃあ今は、治療室にいるのね?」
俺は頷く。
「それなら今からちょっと見に行ってくるわ」
そう言うと、アリサは食堂から去って行った。
俺はそれを見届けると、アネットたちの元へ。
「ル、ルイくん。今話していたのって?」
「え? アリサだけど」
なにやらコウヤとアネットの様子がおかしかった。
ただアリサと話していただけだよな。
「アリサだけど? じゃねえよ!
どうして、まだ転校して間もないルイが、アリサさんの事を知ってる上に普通に話してるんだ!?」
「え? 何かまずいことなの?」
「まずいも何も、アリサさんといえば富豪クラスのエースで、勇者パーティの一人だよ!?
私なんて話しかけるのが恐れ多いくらいなのにぃ~…」
「フェイリスもそうじゃないか」
「フェイリスさんは、なんというか小動物っぽくて可愛い感じがあるから話しかけやすいの」
なんだそりゃ。
さしずめ、フェイリスはマスコット的存在ってわけね。
「でもフェイリスさんは男子と話すことがあまり好きではないみたいでな。
できれば、彼女の強さの秘訣を少しでも教えていただければとずっと思っているんだが…」
いや、コウヤとフェイリスは魔法の系統が違うからあまり参考にならんとは思うが…。
「それに魔王を倒したことでアリサさん達勇者パーティの評判は更に上がりっぱなしで、ついにファンクラブが出来てしまったとか」
「はぁ…ファンクラブね」
あの強気で生意気なアリサにファンクラブができるとか。人間達は面白い趣向をしているな。
そんなことを本人に言ったら、確実にハンマーを振り回してきそうだけど。
「とにかく、アリサさんとどうやって知り合ったんだよ!?」
肩を掴んで詰め寄ってくるコウヤ。少し痛い。
俺は毅然とした態度で言った。
「さぁな。俺にもわからん」
「いやわからんって…。そう言わずにさ!」
「そう言われてもな……」
そもそも知り合いというかどちらかといえば敵だし。
「……」
思えば俺自身は別にアリサ達勇者パーティのことは特に気にとめていなかった。
しかし、昨日。
あの勇者がとんでもないことをしてくれた上にこっちの世界にまで拉致してきた。
本来なら、俺の命は昨日で終わっていたはずなのにわざわざ俺を生かしてこんな学園にまで連れてきて…。
しかもその学園が俺を討伐するために建てられたなどと…。
俺には勇者が何を考えているのかさっぱりわからない。
だがこの学園に来て思ったこと…それは、この学園の連中らは、戦いを舐めているということだ。
あのロイ先生とやら。あれは除くとして、他の連中……勇者パーティも含め、俺から見れば皆赤子だ。
そう言う意味では、部下達が留守にしている間に攻めてきてくれて良かったと思う。
もし、あの程度の力量で俺達に挑んできていればどうなるか。
この前も言ったが、みんな瞬殺されるだろう…。それぐらい、力量の差がある。
その時、不意に過激派の連中のことが頭によぎった。
「ルイくん?」
「…」
過激派の連中はどう動くだろうか。
まあこっちに攻めてくるのはまず間違いないとして。
俺が力を出せない以上、今までのように俺が一人で抑えつけることは不可能だ。
いくら幹部たちが優秀といえど、限度がある。
それに、過激派組織のリーダーはかなり信頼も厚く、時期魔王候補とも言われるぐらいに勢力を上げつつある。頭も回るようなので、そのまま丸め込まれる可能性は非常に高い。
思えば、俺がおさえつけないと崩壊するなんて、本当に一時しのぎでしかない。俺が死んだあと、その後継者が誰になるかは知らないが、必ずしも抑えつけられるとは限らない。
だから、本当は俺がいなくとも機能する魔界を作るべきだったのだ。
しかしそんなことを言っても後の祭り。
それなら、どうするか。
「おーい、ルイくん?」
「突然考え込み始めて、どうしたんだ?」
「……っ!」
そうか…。その手があった。
どうしてそのことに気づかなかったのか。
俺は顔を上げると、2人に注目されていることに気づく。
「え、何?」
「いや、突然うつむいて何か考えごとしているみたいだったから、どうしたのかなって。
もうすぐ昼休みも終わるし、教室に戻ろう?」
「あ、ああ。そうか、それは悪いな」
俺は3人で再びクラスへと戻り、午後の授業を受けた。
だがその内容は俺からしてみればほとんど常識といった内容だったため、退屈だった。
フェイリスは、昼休みが終わる直前には戻ってきていた。
もう怖がっていた様子はどこにもなく、意識もはっきりしている。。
しかし、皆に心配されぺこぺこと謝るフェイリスは、どこか距離をとっているようにも見えた。
「……」
俺は、そのことについて何も言及することはしなかった。
そして、放課後となった。
クラスの連中が、ぞろぞろと帰っていく。
俺は、約束通りアネットとコウヤと共に外の広場へとやってきた。
俺達のように自主的に鍛錬をしている者や、談笑している者がいる中で俺達は早速はじめることにした。
アネットは戦闘服に着替えると、カードから剣を取り出す。少し長めの、大太刀だった。
「大太刀か。珍しいものを使っているな」
「そうかな? でも、この大太刀結構使いやすいの!」
そう言うとアネットはぶんぶんと大太刀を振り出した。
俺はその動きを観察する。
だが、それだけではアネットの弱点を見定めることはできない。
少し、アネットと斬り合ってみることにするか。
俺は3のカードを取り出す。
「えっと…確か念じるだけでいいんだよな」
俺は以前使っていた剣を思い浮かべ、強く念じた。
すると間もなくして、カードからするするーっと、思っていた通りの剣が出てくる。
黒く輝いた、禍々(マガマガ)しい剣だ。
ネネコには悪趣味だと言われたが、俺はこれが一番気に入っている。
そして戦闘服に着替えると、振り心地を確認する。
「ふぅ…。はっ!!」
何度か振ってみるものの、やはり封印されているおかげか、力強さを感じることができない。
うーん…。
こりゃダメだな。
「ルイくん、随分と怖そうな剣を使ってるんだね!
でも、私負けないよ。
ルイくんに勝って、フェイリスさんに教えてもらうんだから!」
笑みを浮かべながらそういうアネット。
その近くではコウヤが俺達の経緯を見守っていた。
「アネット~!大丈夫だ、お前なら必ず勝てるさ!
なにせ俺が教えてやったんだからな!」
「ありがとう。私頑張るね!
じゃあルイくん。準備はいい?」
「ああ。どこからでも来ていいぞ」
俺は、そう答えると静かに構えを取る。
さぁアネット。
お前の力、どのぐらいなのか見せてもらおうか。




