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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
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鍛錬

「はぁ~…」


 俺は思わず頭を抱える。 

 ここ、本当に俺を討伐するための学園なのか?

 しかも1番強い学園とか言っていたな。

 だがこれじゃただの烏合の衆と変わらないじゃないか。


「おっ。ルイくん、頭なんか抱えちゃってどうしたの?

 さっきフェイリスさんを運んでくれてたよね。 もしかしてそのことで何かあった?」


 頭を上げると、そこにはアネットがいた。

 首筋にほんのり汗をかいている。


「いや、フェイリスについては何も問題はない」


 少なくとも戦闘能力においてはな。


「じゃあ、何か別のこと…?」


 首をかしげるアネット。

 その仕草は可愛らしいものがあるが、俺は厳しく言うことにした。


「まぁな。

 気を悪くしたら済まないが、このクラスの人達は、戦いに慣れていないのか?

 あまりにも戦い方がおざなりだと思ったから」

「え、ええ!? そうかな…」


 自分では気づいていなかったのか、アネットは驚く。

 俺は、さっきの戦いを見て思ったことを詳細に伝える。

 その間アネットは話の腰をおることなく聞いていた。


「戦い方かぁ…。

 確かにルイくんの言うとおりかも。

 でも、1回見ただけのルイくんにもわかってしまうぐらいに私達って弱いんだね。

 私も、大富豪の人達に手も足もでなかったし」


 俺の言葉を深く捉えすぎたのか、あからさまにアネットは落ち込む。  

 ふむ…。


「アネットが戦った相手の数字は?」

「えっと確か5だったと思う」


 アネットの数字は確か3だと言っていたな。

 ということはその差は2。

 この2という差でどれぐらい魔力が変わるのか俺に測ることはできないが、もしアネットが戦いの素人で、手も足も出ないと言ったのならまだ道はあるかもしれない。

 それに3という数字を持つ人が、どれぐらい上の人にまでなら通用するのかということに、少し興味があった。

 決して、人間達に味方しようとかそういうわけではない。 

 俺はアネットにこう言った。


「放課後、俺と一緒に鍛錬してみないか?」

「え、ルイくんと?」

「俺がアネットを鍛えてやろう」


 目の前にいる人は本来なら敵なはずなのに、どうしてそう思ったのか。

 単純な俺の知的好奇心? それとも…。

 この時の俺にはまだ気づくことができなかった。

 アネットは俺の言葉が面白かったのかくすくすと微笑んだ。


「いいけど、ルイくんのカードの数字って3なんでしょ?

 あまり変わらないと思うんだけど…」

「まぁそう言うな。

 じゃあそうだな…、俺に勝てたらフェイリスにアネットを鍛えてもらうことにしようか」

「え、フェイリスさんと!?」


 お、さっきとはうってかわって反応が変わったな。

 フェイリスをひきあいに出すのはどうかと思ったが、やっぱり勇者パーティとだけあって、特別視してるのがわかる。


「ああ。俺とフェイリスは少し知り合いでな。

 もし、勝つことができたら俺からフェイリスに頼んであげよう」

「本当に!? それは願ってもないことだよ!

 是非是非!」


 アネットは嬉しいのかその場でくるくると回った。

 こいつ、もう既にフェイリスから教えてもらえると有頂天になっているな。

 でも仕方ない。皆には俺の数字は3で通っているのだ。

 そして、今の俺はアネットたち一般人となんら変わりはない。

 だが、魔力がなくなろうとも俺の技術が衰えるわけではない。肉体的動きは、魔力があるときには遠く及ばないものの、ある程度は顕在しているはず。それに、例え俺が弱体化していようとも教えるぐらいならできる。

 思うに、このクラスが弱いのは優秀な先生がいなかったからなのではと思った。

 アリサが言っていたが、あのロイ先生とか言う人の指導の仕方はかなり的確だった。そりゃ慕われるわけだ。怒らせると少し凶暴になっていたけどな。

 俺は、魔王であると同時に魔族の指揮をとる者でもある。

 敵が攻めてきた時にはすぐに状況を判断し、幹部に知らせ、次の作戦を練ったりもしなければならない。

 戦闘においてもそうだ。

 鍛錬を指揮する軍団長にも俺は厳しく指導している。鍛錬の前にその週の鍛錬内容を軍団長から提出してもらい、不備があれば俺が訂正(テイセイ)しているぐらいだ。

 そしてある程度力のついた魔族には、俺が直々に力を見極め、どこが弱点なのかを教え、長所を伸ばすというよりは短所を改善するような教えに徹底している。弱点や隙がなければ相手はいずれ焦れがきて攻撃を仕掛けてくるだろう。その時がチャンスだからな。


「わかった。じゃあ放課後に、外に来てくれ」


 アネットは頷くと、席に戻っていった。

 落ち込んでいたのはどこにいったのか、その足取りは軽そうだった。

 間もなくして講師が来たため、俺も席に着く。

 そして、淡々と授業は進んでいき…

 昼休みになった。

 クラスが騒がしくなり、部屋から出て何処かへと行く者、クラスにとどまってお弁当を出しはじめる者などそれぞれだ。

 見て察するにどうやら昼食の時間みたいだな。

 だが、どうすればいいかわからない俺は、その場で座っていた。

 すると、アネットとコウヤ(授業中に戻ってきていた)が俺のところへと来た。


「ルイくん。ご飯食べないの?」

「ん、あぁ。食べたいのはやまやまだけど、どうしたらいいのかわからなくてな」

「そっか。ルイくん転校してきたばかりだもんね。

 じゃあ私達、今から食堂に行くけれど一緒に行く?」

「いいのか?」

「勿論だ。それに、お前とは話をしたいと思っていたからな」


 そうして俺は、3人で食堂へ行くことに。

 フェイリスがまだ治療室にいるのが少し気になるものの、とりあえずはおいておくことに。

 食堂に着くと、そこは人の山だった。

 コウヤが周囲を見渡す。


「うぉ…今日はいつに増して多いな。何かあったっけ?」


 コウヤの質問にアネットが周囲の人にぶつからないよう気をつけながら言った。


「何か、勇者達が食堂で食べてるらしくて、それで皆一目見ようと集まってきてるらしいよ!

 勇者は昨日ついに魔王を倒してくれたからね!

 更に注目度も上がってるってとこかな?」

「あーなるほど。それでか。

 確かに諸悪の根源を潰してくれた勇者は今や英雄扱いだもんなぁ~」

「……」


 

 残念だけど諸悪の根源は実はここに生きているんだ。

 そんなこと言ったとしても、どうせ信じてはくれないだろうけどな。少なくとも、封印が解けるまでは。

 しかし、勇者が来ているのか。

 まぁでも別にわざわざ一緒になる必要もないだろう。

 それに、勇者達の周りにはファン? だろうか。女の子がいっぱいいて(カシマ)しくてかなわんからな。男は遠巻きに見ている者がほとんどだが…。

 別に羨ましいとかそういうわけではない。

 俺は勇者達に特に声をかけることはせず、アネットとコウヤと共にメニューを頼んだ後、席に着いた。

 メニューはすべて無料なのだが、どうやらクラスによって選べるメニューが違うらしく、その為大貧民の俺達はけっこうメニューが絞られていた。

 食べながら、俺達は話の続きをすることに。

 コウヤは一度咳払いすると、こう言った。 


「改めて、俺の名前はコウヤだ。

 カードの数字は7。

 この筋肉を見てもらえるとわかるだろうが、主に強化魔法を使って肉弾戦か、斧を使う戦闘スタイルをとっている。

 パワーだけなら誰にも負けないぜ」


 そう言うとコウヤはパスタを口いっぱい詰めながら、力こぶを作ってみせた。触れてみると、まるで鋼のように堅い。

 強化魔法を使って肉弾戦か。俺と戦い方が似ているな。


「けどコウヤ君は真っ向勝負で突っ込むから、トリッキーな相手だと途端にダメになるの」

「う、うむ…。自分でもそれは薄々気付いてはいたんだがな」


 なるほどな。

 よく言えば純粋、悪く言えば単直ってところか。

 コウヤは(ナオ)もパスタをほおばった状態で言った。 


「アネットから聞いたが、放課後何やらやるらしいじゃないか」

「ん? ああ。アネットが大富豪の連中に手も足も出ないって言うんでな。少し鍛えてあげようかと思って」


 すると、コウヤが盛大に吹き出した。

 パスタの一部が少し俺の顔にかかる。


「うわっ汚いな!」

「ブハハハ!! 3の数字の奴が、鍛えてあげるだと!?

 こりゃ傑作(ケッサク)だ。

 お前、面白い冗談をいうやつだな」


 そう言うとコウヤは馴れ馴れしく肩を叩いてくる。少し痛い。

 俺は、顔についたパスタをハンカチで(ヌグ)うと、表情を変えず言った。


「いや、冗談じゃない。

 確約はできないが、俺が教えればそうだな。

 大富豪の連中に勝てないとはいかないまでも、互角に戦えるまでは成長できる“かも”な」

「ハハハ。そりゃすごい。

 だけどよ、アネットは前からずっと俺が鍛えてやっていたんだ。

 そのおかげで最近は、ほとんど扱えなかった魔法も使えるようにもなった。

 だから――」

「前からとは、具体的にはいつぐらいだ?」


 俺は目を細めて言った。

 別に追求するわけではないが、気になったのだ。


「具体的に? ま、まあ去年からだから約1年か?」

「1年? なるほど」


 俺は口に入れていた食べ物を飲み込むと、顎に手を当てるようにしてこう宣言した。


「2週間…いや、1週間だ。

 この期間中に、アネットが立派な戦士になれるよう俺が鍛えてあげよう」


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