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勇者パーティに拉致された魔王は辛い  作者: リザイン
第2章 怒涛の学園生活
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異変

 ロイ先生は手を払うと、こっちに向かってきた。


「君達がお互いを嫌っているのはね、別に構わないんだ。

 それで闘志が燃えるのなら尚更(ナオサラ)ね。

 けれど、ただ闇雲にお互いが衝突したところで、何も結果は得られないし強くもならない。

 だから、皆ちゃんとオレの指示に従ってね。

 わかった?」


 ロイ先生が柔和(ニュウワ)な笑みを崩さずそう言うと、両クラスの全員が頷く。

 まるで調教された犬みたいだ。

 どうやらこのロイ先生という人は、尊敬と同時に畏怖(イフ)もされているようだな。

 まぁ、たったいま学園でもかなりの実力者になるエリーゼ? とかいう奴を一発のパンチで行動不能にさせたのだから仕方ないのだろうけど。

 ロイ先生は、近くにいた講師に2人を治療室へ連れて行くよう言うと、再びこっちへ来る。


「よし、じゃあ始めようか。

 えーっとまずは…って、ん?」


 そこで俺はロイ先生と目があった。

 何か気になるのか、俺を上から下まで見てくる。

 まさか、魔王とバレたわけではないだろうな……。


「君が編入生のルイくんだね。

 フェルド王から話は聞いているよ。

 それにしても、随分と珍しい服装をしているんだね~…」


 どうやら俺の杞憂(キユウ)だったようだ。

 ロイ先生は俺の服装を見ていただけらしい。


「まぁ編入したてで君はよくわからないだろうから、簡単に模擬戦について説明しておこうか。

 まず、この模擬戦では大会と同じ形式で戦ってもらう」

「大会と同じ形式で?」


 ロイ先生は頷く。


「うん。

 大会はポイント制となっていてね、相手を倒すとポイントがもらえる。

 どうやってポイントを加算していくのかというと、戦う前に皆にはこれを付けてもらうんだ」


 そう言うと、ロイ先生はポケットから白いミサンガのようなものを取り出す。


「これは、持ち主の魔力と連携していてね。持ち主が戦闘不能になるか、または魔力がなくなった時点で赤く光るんだ。すると相手にポイントが入る。

 そして制限時間内で、貯まったポイントの多い順に順位が決まる。シンプルでしょ?

 それと、5つのクラスが一気に戦うことになるから毎回乱戦になることにも注意してね」


 乱戦か。

 つまり1対1になるとは限らないというわけだ。俺の得意分野だな。


「その大会で、大富豪は負けたら都落ちして大貧民になる。 

 けれどね、大富豪や富豪には有利になるように、貧民や大貧民には不利になるようになっている。

 その辺は普通のカードゲームの大富豪と似ているところだね」

「なるほど」


 確かにシンプルなルールだな。


「まあ今日のところはどんな感じか見学しておくといい。

 ただし、次からは君にも参加してもらうよ」


 俺は頷いた。

 要はただ相手をぶっ飛ばしてポイントを稼げばいい。実に単純で爽快そうなルールじゃないか。

 その後、ルイ先生は皆に注意事項をいくつか説明したあと、模擬戦を開始した。

 俺は、近くの椅子に座り、戦況を眺めることに。


「…」


 1クラスはおよそ40人。つまり約80人が一気に戦うことになる。

 80人が一度に魔法をぶっぱなせばどうなるか。このあたり一面消し炭になることは間違いないだろう。

 だが、ここの壁は何やら特殊な細工をしているらしく、ちょっとやそこらの攻撃魔法では傷一つつかないらしい。

 なので、お互い遠慮することなく魔法をぶつけあっている。それだけでなく、剣同士で交わっているものや、殴り合いをしている者までいる。

 ロイ先生はその様子を真剣な表情で観察していた。

 最初は俺のクラスが善戦しているようにも見えたが、徐々に押されはじめた。

 その時、フェイリスが俺の視界に入る。

 彼女1人に対し、4人が囲んでいる。4人が持っているカードは3。つまり、革命が起きているため、あの4人の魔力は大幅に上昇しているはずだ。

 フェイリスと相手との数字の差は6か。

 それがどのぐらい、相手に作用するのかはわからない。

 しかしそれでもフェイリスが善戦していた。果敢(カカン)に光の矢を相手に飛ばしては、攻撃を命中させている。

 そして、すぐに相手から距離を取る。

 攻撃が当たらないのか、相手は段々と苛立ってきているようだった。

 しかし、光の矢か。

 闇属性である魔族が当たればひとたまりもないな…。

 そしてフェイリスが1人倒し、2人倒し、徐々に追い詰めていく。

 この分なら、残りの2人を倒すのも時間の問題だろう。

 俺はフェイリスの勝ちを確信した。

 しかし、それは甘かった。

 フェイリスが矢を放ち、後ろに距離を取ろうとした先に敵が待ち受けていたからだ。


「その邪魔な杖、取らせてもらう!!」


 男はそのままフェイリスが持っている杖を取り上げようとする。

 後ろに敵がいることを気づいていなかったフェイリスは、直前で気づいたものの時すでに遅し。

 反射的に避けようとした結果、男の手はフェイリスの杖ではなく腕を掴んでしまった。


「っ!!」

「よし、このまま杖を取り上げて――」

「ひっ……いっ嫌ぁぁ!!」


 突然フェイリスが悲鳴を上げ、男に攻撃する。


「え、ちょっ待っ――うああぁぁ!!」


 フェイリスからの猛攻撃を喰らった男は、そのまま戦闘不能に。


「はぁ…はぁ…」


 フェイリスは胸を抑えながら、震えていた。

 彼女を攻めていた男達は、その隙を見て攻撃しようとする。

 が、その間をロイ先生が(サエギ)った。

 攻撃しようとしていた男達は、慌てて攻撃を取りやめる。


「ロ、ロイ先生!? なぜ邪魔を!」


 するとロイ先生は首を横に振った。


「フェイリスくんは今戦える状態ではない。そんな彼女を攻撃してはいけないよ」


 男達にそう(ウナガ)すロイ先生。

 俺はフェイリスの元に駆け寄った。


「フェイリス。大丈夫か?」

「………」


 だが、フェイリスは答えない。

 胸を抑え、ただ震えているだけだった。明らかに異常な状態であることがわかる。

 ロイ先生は俺に言った。


「ルイくん。悪いけど、フェイリスくんを治療室にまで連れて行ってくれるかい?

 ただし、“くれぐれも彼女に触れてはいけないよ”」

「あ、ああ…ってちょっと待ってくれ。

 触れずにどうやって治療室へ運べば?」


 俺は苦しそうなフェイリスに胸を痛めながら言う。

 すると、ロイ先生はフェイリスに話しかけた。


「フェイリスくん。

 1人で歩けそうかい? 歩けそうなら、今すぐに治療室へ行きなさい。

 もしダメそうなら、オレが瞬間移動の魔法を使います」

「……」


 ロイ先生がそう呼びかけるものの、フェイリスからの反応はない。


「フェイリスくん?」


 その時、フェイリスはその場に静かに倒れる。 


「フェイリス!?」

「ルイくん、状況が変わったよ。

 フェイリスくんを背負って、今すぐに治療室へと向かうんだ」

「え? しかし触れてはいけないとさっき言っていたのでは」


 すると、ロイ先生は視線で、フェイリスをもう一度見るように促す。

 フェイリスは気絶していた。 


「気づいたかい? どうやら気絶してしまったようだね。

 起きてしまう前に今のうちに早く彼女を運んであげてくれ」

「はい」


 俺はフェイリスを背負うと、足早に治療室へと向かった。

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