大富豪システム
「まず、大富豪ってカードゲームぐらいは知ってるわよね?」
「3が弱くてJOKERが強い。そしてそれに加えて様々なルールがあるんだよな」
「ええ。機械がね、その人の魔力に応じたカードを出してくれるのよ。まぁそれがいわば自身の実力にもなるから至ってシンプルね。
まず大会でのルールについて説明しておくわね。
私たちの学園では主に5つのクラスに分かれているの。
で大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民と分かれていてね、大会での順位によって変動するわ」
「カードのルールと一緒みたいだけど…その5つのクラスによって何か変わるのか」
「勿論よ。その階級によってそれぞれ受けるサービスの質がかなり異なるのよ。
大富豪、富豪の階級になるとかなり質のいい授業を受けられるし、食事もとても豪華だわ。
それに加えてあのロイ先生からもご指導を頂けるしね。
けれど、貧民、大貧民のクラスになるとね~…」
すると、アリサはげんなりとした表情になる。
その表情で俺は大体察してしまった。
しかし、階級ごとに受けられるサービスの質が変わるのか。
なるほど。
そういうことなら確かに皆の士気もあがるはずだ。うまいこと考えたなー。
話の続きを、今度はエリカが解説してくれる。
「でも、例え貧民はや大貧民のクラスになったとしても、そこまで自身を卑下することないのよ。
3ヶ月に1度は大会があるし、そこで挽回できるからね。
私自身、この間まで貧民のクラスだったけれど今は富豪の位置にいるもの」
「本当にね。
貧民なんてもうこりごりよ。勇者は大して気にもしていなかったみたいだけど」
ふーん。
アリサやエリカのクラスでも貧民になったりするのか。昨日勇者が言っていた、カードの数字関係なくランダムに配置されるようになっているというのは本当みたいだな。
「フェイリスはどのクラスにいるんだ?」
多分同じクラスなのだろう。そう思って聞いたが、何故かアリサは俺から目をそらすようにして頬をかく。
フェイリスがおずおずと口を開けた。
「私は…大貧民のクラスです」
「えっ」
これは驚いた。フェイリスが一番階級の低いクラスにいただなんて。
「その、私達のクラスはここ1年の間一度も階級が上がったことがありません。なので、3人が羨ましいです」
「大丈夫よフェイリス! この前の大会ではあともう少しで平民に勝てそうだったんだから!
それに次の大会では絶対に私達が大富豪を倒して都落ちさせてみせるから!」
そうアリサが元気づけるものの、フェイリスの表情は暗い。
大貧民クラスというものはそんなにひどいものなのか?
「そんな感じで、大会は行われるの。
そして、次はカードの性質について説明するわ。
これについては私よりエリカの方が詳しいからエリカに任せるわ」
エリカは頷くと、説明を始めた。
「さっき3が弱くてJOKERが一番強いって言ったわよね?まあ、今のところロイ先生のKが一番強いことになるんだけれど。
けれどね、何度も言うけれど3が弱いからってそこまで卑屈になることもないのよ。
ルイくん。大富豪って、階段とJOKERを使うことを除けば最大何枚まで出せると思う?」
「4枚だな。それが何か関係が…あっ」
そういうことか。
その後エリカから詳しく説明されたが、だいたい俺が勘づいたものと同じものだった。
3というカードは確かに弱いものの、それが2人集まれば特殊な力が発生し、お互いの魔力を底上げするという。それは3人集まっても同様らしい。
ただ、4人になると話はかなり変わってくるという。俗に言う革命ってやつだ。
それ以外にも色々と聞いた話を総合すると以下のようになる。
・同じ数字を持つ者同士のカードを合わせると魔力が増加。具体的にどのぐらい強くなるかは不明。同じ数字でも持つ魔力や精神力は人により異なるので、それに応じて変わる。
・革命……4人が同じ数字の場合、全員の攻撃力、防御力、魔力、精神力が数字に応じて大幅に上昇。自分が相手より低い数字の場合、差が大きい方が大幅に力が上がる。自分と相手が同じ数字の場合、上昇しない。
・8切り…… もし負けそうになっても相手が8より小さい数字なら自分も死ぬとき道連れにできる。ただし道連れにするためにはその人が半径3メートル以内にいなければ無効。
・4止め……上記の道連れに対し、4を持っている相手が近くにいた場合阻止が可能。
・Jバック……パーティにJを持つ人がいる場合、Jより小さい数字の人の速度が数字に応じてUPする(最大4人まで)。数字が小さいほど上昇率が高い。
・階段……同じマークで数字が3枚以上続いている場合、枚数、数字の合計によって攻撃力、防御力が上昇。ただし4枚以上続いても革命状態にはならない。
・エンペラー……違うマークで4人が連続した数字の場合、大幅に全てのステータスが上昇。
「なるほどな。大体は把握した」
「わかってくれたようでなによりだわ。
このJバックのお陰で、私達がルイくんと戦った時にリュートの魔力が底上げされたのよ。
ほら、急にリュートの動きが早くなった時があったでしょう?」
ああ。あの突然姿が消えたかのように見えたあの動きね。
Jバックで魔力が底上げされたというわけか。
ん、いやちょっと待て。
「その話、どうにもよくわからないな。
同じ数字同士が集まって強くなったりJバックはともかく、革命などは相手の数字がどうたらという話じゃないか。それでどうやって魔族に対抗したんだ」
以前、魔界での何かの書物で、『人間達は突如見違えるように強くなり、我々は後退せざるをえなくなった』と書かれていたが、もしかしてそのことと何か関係があるのだろうか?
「そ、それは……」
痛いところを疲れたのか、エリカが困ったように頬を掻いた。
「ごめん、今はそれについて説明することはできないの。ただ、必ず後で説明すると約束するわ」
「あ、ああ。まあいいが……」
その後もエリカから補足説明を受けているうちに、船はいつの間にか目的地へと到着した。
勇者がエンジンを切ると、扉を開けて出てくる。
「よし、到着だよ。ここから大体15分程歩けば学園だから、急ごう」
時刻を見れば、8時を少し過ぎたところだった。この分なら間に合うだろう。
そうして俺たちは学園へと向かう。
通学路なのか、ちらほらと学園生の姿が見える。皆制服姿なので、少し違和感を覚えた。
道中、勇者やエリカ達は学園生に挨拶をされたりしていた。それに対し、皆は愛想よく笑顔で答える。
俺はその様子を少し後ろで見ていた。
学園に着くと、俺はその大きさに思わずたじろいでしまった。
少なくとも俺の城よりは大きい。こんな大きい物が人間界にあったとは。まだまだ俺も知識不足だと知る。
勇者達は門番に自身の学生証を見せると、中へと通される。俺については既に話がいっているので、不審に思われることはなかった。
学園長の部屋まで案内されると、勇者達は自分のクラスへと行った。後に残された俺は、学園長に会うと、早速機械で測定するために、外へと向かう。
学園長はとても厳しそうな人だった。
だが、それぐらいでちょうどいい。
この戦乱の世の中で、戦いばかりする学園の長が甘い人では強くなることはできないだろう。
外に着くと、とても大きな機械が俺の目に入った。誰が作ったのかは知らないが、こんなものをよく作れたと褒めてやりたい。
学園長は腕を組みながらこう言った。
「じゃあ、機械に手を触れてみなさい」
学園長自らが見てくれるのか。
そう思って聞いてみたが、どうやらいつもは先生が見てくれるとのこと。今回は、編入ということで特別に見てくれるということだった。
遠くから、学園生たちの話し声かいくつか聞こえながらも、俺は機械にそっと手を触れた。
機械は薄く輝きを放ち、点滅する。
学園長はただじっとそれを見つめていた。
「……………」
どれぐらい経っただろうか、やがて機械から輝きが失われ、1枚のカードが出てきた。
そこから出てきたカードは……3だった。
まあ予想通りといったところか。
学園長がため息をついたのがわかる。いや、そんなあからさまにしなくとも…。
「ではそのカードを持って、私に付いて来なさい。クラスに案内します」
そう言って学園長は先へと進む。
俺はカードを取ると、後ろに続いた。
カードを見ると、確かにトランプのカードにしか見えなかった。本当にこのカードから武器や魔法を出せるのか?と一瞬疑問にも思ったが、アリサのをこの目ではっきりと見たので信じざるを得ない。
「ん?」
カードを見ていると、俺は少し底が厚いことに気付く。
少なくとも1枚の厚さではない。そう思っていると、底が剥がれてもう1枚のカードが現れた。
地面に落ちてしまったそのカードを俺は拾い上げる。
「なんで2枚?」
勇者達の話によると、機械から1度に出てくるカードは1枚と聞いていたが…故障か?
俺はそんなことを思いながら、トランプのカードを裏返す。
「――!」
俺は思わず絶句してしまった。
何故ならトランプのカードに書かれていたその数字は……JOKERだったからだ。