拉致
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本編でも説明しますが、カードシステムについて簡単なご紹介を。
一番弱いのがカードの3で、最も強いのがJOKER
カードの数字が高ければ高いほどより強い武器や魔法などを出すことができるが、その分魔力や精神力諸々の消費が激しいため例え弱者が他の人から強いカードを受け取ったとしても、武器や魔法を出すことができない
※大富豪を知らない方へ。
最低限数字の強さだけ覚えてもらえれば、大丈夫だと思います!
←弱 3 4 5 6 7 8 9 10 J Q K A 2 JOKER 強→
以上です!!それでは本編へ!
「ちぃ…まじかよ」
俺は水晶玉に映る奴らを見て思わず舌打ちをした。
勇者達がすぐそこまで迫ってきている。ここに到達するまでにそう時間はかからないだろう。
迂闊だった。
本来なら、俺の城がこんなに早く陥落するはずじゃなかった。
だが、今日はとことん運が悪い。まさか俺の家臣達が留守にしているあいだを狙ってくるとは…。
水晶玉に映る勇者達は、俺の従僕達を次々に制圧していく。
王の間まではもう目と鼻の先の距離にまで近づいてきていた。外から次第に喧騒の音が聞こえてくる。
俺は玉座に座ったまま、ただその時を待っていた。
しかし、なぜ突然攻めてきたんだ?
それに、なぜここの場所がわかったんだ?。
俺の城に入るには迷いの森を抜けなくてはならないはずだ。あの森は一度でも道を間違えるともう出られないと言われ恐れられている森。魔族もうじゃうじゃいるはず。人間に迷いの森が抜けられるはずがない…。
では何故だ?
俺は頭を俯かせ思考を働かせようとするが、間もなくして魔王の間の扉が大きな音を立てて開いたため、それは叶わなかった。
扉の先には勇者とその仲間三人がいた。
「魔王ついに見つけたわ!!」
そう叫ぶのは勇者の仲間である戦士の女。華奢な見た目に似合わず巨大なハンマーを持っており、俺の従僕達を一瞬で制圧できただけのことはあった。
勇者達はゆっくりと俺の方へと近づいてくる。
全員いつでも攻撃できる状態だった。
俺は4人をぐるりと見たあと、ため息をついた。
「たったの4人で乗り込んだとは…流石だな」
「それはどうも」
勇者はそう言うとぺこりと頭を下げる。律儀なやつだった。
俺はその様子に少し苛だて、嫌味を言うようにしてこういった。
「しかし、最近の勇者はハーレムを形成するのが流行ってるのか?
お前以外全員女じゃないか。
それとも、ただ単に女だけでも俺に勝てるとでも思った?」
「そうかな? そういうつもりではなかったんだけど」
俺の嫌味にも全く表情を変えず、さらっと言う勇者。
勇者のそばに控えているのは僧侶、戦士、そして魔法使いの三人だ。
ふむ…。
まず倒すとしたら一番厄介なのは回復魔法を使える僧侶だからそいつから狙うか。いくら可愛いとはいえ、相手は敵だ。情けをかける必要はないだろう。
でも何か少し怯え気味なのが気になるな…。
「さあ、魔王! 今が年貢の納め時よ。さっさと私たちに倒されなさい!」
だが俺が僧侶を狙うよりも早く戦士の女が猛スピードで玉座まで走ってくる。
ちっ…。
血の気の荒い女だな。
俺は素早く振り下ろされるハンマーから避ける。
ハンマーがそのまま玉座ごと粉砕した。
「あっ…」
俺は粉々になった玉座を見て、ガックリうなだれる。
「今ので死んでいればよかったのに」
「お前な…代々伝わる玉座をよくも…」
「はぁ? 知らないわよそんなこと」
「…」
恐ろしいことを言いつつ、戦士の女はめり込んだハンマーを軽々と持ち上げると再び俺の方へと向かってくる。
「次は外さないんだからっ!」
さっきよりも更に素早いスピードで戦士の女が突っ込んでくる。今度はそれに避ける素振りすらせずに、俺はただ待ち構える。
「さあ、永遠に眠りなさい!!」
巨大なハンマーが俺に向けて振り降ろされる。その速さは凄まじく、俺を本気で殺しにかかろうとしていることがわかる。
だが…遅い。
俺はそれを片手で受け止めると逆に女の方へと押し返した。
「ふっ!」
「きゃああぁ!」
戦士の女はそのまま遥か後方へと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
これでしばらくは動けないだろう。
「雑魚は引っ込んでてくれ」
俺はニヤリと笑った後、今度は勇者と向き合う。
僧侶と魔法使いはじっとこちらの様子をうかがっている。
少しでも勇者に手を出そうものならすぐに攻撃してくる勢いだった。
「あのアリサさんを片手で押し返すなんて…」
「フェイリス、帰りたくなりました」
「ダメよ。リュートを信じなさい」
「うう…はい」
うーん…どうせなら帰って欲しい。
「ここを突き止めたことは賞賛に値する。
でも、敵の本拠地にこんな人数で乗り込んで来て俺に勝てると思ってるのか?」
そう言って勇者を睨みつけるが、勇者は少しも物怖じせずにこう言った。
「確かに正攻法じゃ君には勝てない。
だけど、君を倒すことじゃなくて封印することなら僕にだってできる。今日はそのことを証明しに来たんだ」
「封印?」
俺は勇者のその言葉に警戒を強める。
勇者が封印など…そんな話は聞いたことがないが…。
「ああ、そうだよ。僕は勇者でありながら、その力がない。だから君に勝つためには封印するしかないと思ったんだ。だから悪いけど君のその強大な力、封印させてもらうよ」
勇者はそう言うと、目にも止まらぬ速さで俺の懐にまでやってくる。
呆気にとられていた俺は、全く反応できなかった。
「速い!?」
魔力が減少しているとはいえ俺がこうも簡単に距離を詰められるなんて。
ワンテンポ反応が遅れた俺は、距離を取ろうと後ろに下がろうとするが既に遅かった。
「はぁっ!!」
「っ!?」
勇者が手をかざすと間もなく俺は淡い光に包まれる。
俺はその間に勇者から距離を取ると体制を整えた。
「くっ…何をした」
「何って封印だよ。
これでもう君は魔術を使えない一般人と変わらない」
「は? そんなわけが」
俺は慌てて懐から火の刃を取り出そうとするが、何も起こらなかった。
「は?ちょっと待て。
――火の精霊イフリートよ!」
精霊を呼び出そうとしても何も起きなかった。
意味もなく叫んだただの痛い奴だった。
「ど、どういうことだ」
「言った通りさ。君はもう魔法を使えなくなった。封印されたんだよ」
するとそこで戦士の女が戻ってきた。
「ぁいてて…女を容赦なく吹っ飛ばすなんてあんた最低ね!!」
「お前だって俺を粉々にしようとしただろうが」
暫くは動けないようにしたつもりだったが…やはり魔力が弱まっているのが原因か。
戦士の女は、ハンマーを持ち直す。
「さっきは油断したけどもうそうはいかないんだから!」
「ちょ、アリサ!待っ―――」
そう言うとまた猛スピードで突っ込んでくる。
こいつは攻撃パターンがひとつしかないな。まるで直進しかできない猪みたいだ。
今度も楽々と避けて―――
「なっ…」
避けようとして体が軽やかに動かないことに気づく。
まるで鉛のように動きが鈍い。
「はっ…?」
「そこ!」
「っ___」
なすすべもなく、俺はもろに攻撃を受けてしまいそのまま地面に叩きつけられた。
「ぐっ…」
信じられない衝撃が背中に伝わり、俺は口から少し吐血した。声にならない声を上げて呻く。
今ので骨が何本か折れたぞおい…。
「お前…なんて怪力だよ」
俺は立ち上がろうとするが、痛みで動けなかった。
くぅ…まさか魔王である俺が勇者ではなく、戦士に、それも女に負けるなんて恥さらしもいいところだ。
だが、俺はこれでもうおしまいだろう。
済まないネネコ。どうやら俺はここで朽ち果てる運命らしい。
死を覚悟したその時、
「アリサ!!僕の命令なしに勝手に動いちゃダメじゃないか!」
何故か勇者が戦士の女に対して怒り始めた。
突然怒った勇者に戦士は動揺を見せる。
「え? え? そ、そうだったの?てっきり私チャンスかと思って……」
「魔王を殺しちゃったらどうするんだよ!?それじゃ僕達の目的は果たせないじゃないか」
「ご、ごめんなさい…」
さっきまでの威勢のよさはどこにったのか、しゅんとうなだれる戦士の女。
勇者はこちらに向かってくる。
そして真上から俺を見下ろしてくるのを俺は睨みつける。
「へっ…まさか俺の魔力、体力、能力を全部封印する奴がいたとはな…。こいつは驚きだった…。俺としたことが、油断したわ」
「……」
「ふん。殺すならさっさと殺せよ。
それでお前達にとっての悪は征伐され、脅威はなくなるんだろ?」
俺は別に人間達をどうこうしようというつもりはなかったが、人間達にとって俺たち魔族は害悪としてみなされているらしいからな。
その王である俺が死ねば、魔族はバランスを失い崩壊し、脅威がなくなると信じている奴らはたくさんいるはずだ。
だが、その問に勇者は首を横に振った。
「いいや。僕は君を倒さないよ。君はこれから僕たちと一緒に来てもらう」
俺は目をまん丸に見開いて驚いた。
が、すぐに悟った。
「俺を人質にでもする気か?」
しかし、勇者は首を横に振った。
「違うよ。まあとにかく、魔王。
僕は、いや、僕たちは貴方を連行します」
「ちょっと待て…意味がわから__いててて!!!」
俺は抵抗しようとするものの、戦士に叩きつけられたダメージがよっぽど効いているのか、動くことができないでいた。
こうして俺は勇者達に拉致?されて、何処かに連れて行かれることになった。
しかしこの出来事が、後に俺の運命を大きく左右することになるとはこの時知る由もなかった。