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アリス

 ばっちり少女と目が合ってしまった私は少女が窓に近づいて来ても動くことができなかった。

窓に近づいて来た事で月明かりに照らされ彼女の姿がはっきりと見えるようになる。年齢は私の見た目と同じくらいで金色の髪は肩口でそろえられ青い大きな瞳で私を見つめていた。

 彼女はそっと窓を開けてた。


「あの…大丈夫?」


 勝手に部屋を覗いた事への叱声、最悪悲鳴を上げられることも覚悟していたのだが予想外の言葉をかけられた。しかし、大丈夫かと聞くとはどういう事なのだろう。何が危ないのだろか?私の今の状況を客観に考えて見ましょう。


 二階の窓の外にぶら下がって覗きをする人。あっ………


 そんな奇行している人を見たらそれは大丈夫かと言いたくもなりますよ。…うう、頭のおかしい変人だと思われてしまいました。


「そこは危ないから早く部屋の中に入って。」

「あ、はい。」


 彼女が開けた窓から部屋の中に入り彼女に方に向く。…あれ。なんで私部屋の中に入ってるんだ…?逃げるタイミングを失ってしまった。ああっ窓閉めないで!


「あなたは誰?こんな時間にどうしてあんな所にいたの?」


 こうなっては仕方ありません。開き直りましょう。私がホムンクルスだという事は当然伏せておきます。


「私は旅をしていてたまたま立ち寄ったこの街の宿屋に泊まっていたのですが、中途半端な時間に起きてしまい寝付けなかったので街を散歩していました。そしたらこの部屋から魔力を感じて…何の魔法を使っているのか気になってしまい部屋を覗きました。…ごめんなさい!」

「魔法…?」

「??…はい。今も魔力をずっと出してますよね?」


 なぜ彼女は心当たりがないような態度をとるのだろうか。確かに目の前の彼女から魔力を感じるのだが。


「…もしかして秘密にしたい魔法だったりしますか?」

「わたしは魔法なんて使ってないわ。」


 どういう事なのだろうか?彼女は嘘をついているように見えない。けど魔法を使わないのに魔力を出し続けているのはなぜなのでしょう。


「…もしかして…わたしの呪いの事をいってる?」

「呪い?」


 彼女は俯いて、どこか表情も暗いものになりました。確か相手に継続的な害を与える魔法が呪いと言われていましたね。私は知りませんが相手の魔力を強制的に放出させるといったような効果を持った術式を彼女はかけられているということでしょうか?そうだとすると大変です。魔力の少ない人だと最悪死に至る可能性だってあります。早く解いてあげましょう。

 私は手を伸ばし彼女の手を取ろうとしました。


「だめっ!」


 バチッー


 彼女の手に触れようかという所で私の手は大きく弾かれてしましました。私の手を見ると指先が火傷のようになり指先から肩のあたりまで痺れているような感覚があります。


「あなた大丈夫!」

「大丈夫ですよ。少し驚いただけです。」


 私は直ぐに治癒魔法で火傷のような傷を治しまだ少しだけ痺れている手を振って応える。


「ごめんなさい!」

「何故謝るのですか?むしろ謝らなくてはいけないのは勝手な事をしようとした私の方ですよ。」


 彼女は少し離れた後勢いよく頭を下げ心配そうにこちらを見ている。おそらく彼女に触れると先ほどのようになってしまうのだろう。


「その呪いの事について先に聞いておくべきでしたね。私はその呪いをどうにかしたいと思っています。なのでもし話たくはないと思っていても話て下さい。」


 もしかすると死に至る呪いかもしれないのです。悠長に話してくれるのを待つつもりはありません。彼女とは出会ったばかりですが知ってしまった以上無視できません。私の頭の中に死んでしまったマスターの影が見え隠れしますが頭を振ってその影を追い出します。今度こそ私がどうにかしてみせます。


「………私の呪いは私が直接触れる生き物を傷つけるものよ。触ると…今のようになるわ。いつからこのような状態なのかはわからない。わたしは憶えていないけれど両親に捨てられたのもたぶんこの呪いのせいね。」

「捨てられたのですか?」

「ここ…孤児院よ。それに気持ちは嬉しいけれどわたしの呪いは普通じゃないから無理だと思うわ。この孤児院で世話をしてくれているマザーもわたしの呪いを解こうとしてくれてね、魔術を無力化する術式を書いた札を貰ってきてわたしに持たせてくれたりしたのだけど効果なかったわ。」

「その御札偽者だったのでは?」

「いいえ。その札でマザーの魔法が無力化されたのを確認したから本物よ。」


 彼女はすでに諦めているのか自嘲的な笑みを浮かべています。しかし、今の話はどういう事でしょうか?呪いを完全に消すには対応する術式で解呪するしかないですが、魔術を無力化する術式は他の術式に干渉して妨害するので少なくとも札を持っている間はたとえ呪いだろうと魔術の効果は現れないはずなのですが。


 ん~


 と、そこで私はある可能性に思い至りました。可能性というかそうとしか思えないですね。ならば後は実際に試して確認するのみです。幸い失敗しても彼女が怪我をすることはなさそうです。私は…まあさっきも大丈夫でしたし死にはしないでしょう。今からすることはそれなりに自信もありますからね。

 私はおもむろに彼女に近づきます。そのことに彼女は気づき。


「ちょっと!さっきの話をちゃんと聞いてたの。近づかないで!」

「大丈夫ですよ~。」


 私が前進するのに合わせるように彼女は後退していきます。


「何が大丈夫なの!危ないからこれ以上…あっ。」

 

 彼女は部屋の壁まで後退してしまいこれ以上私と距離を離せなくなりました。

私はかまわずにそのまま近づき壁に張り付いて硬直している彼女の手を今度こそしっかり両手で握りました。


「ほら、大丈夫でしたよ。」


 よし!思ったとおり上手くいきました。至近距離にある彼女の顔を覗き込みながら答えると彼女は顔を逸らしてしまいました。顔も赤くなってます。…あれ?成功しましたよね。何か副作用でもありましたか?でも苦しそうでもありませんしどうしたのでしょう?不思議に思っていると彼女が口を開きました。


「なんで…?」

「これは呪いではなく固有魔法ですよ。」


 そう固有魔法なら術式が必要ないので魔術を無効化する術式の影響を受けません。固有魔法は強力なぶん制御が難しくちゃんと訓練しないと暴走することがあるのだとマスターが話していました。彼女は固有魔法を上手く切ることができないのでしょう。それを確かめるために私は魔力の波長を彼女の波長に合わせました。他の人には出来ませんよ。魂ごとに違う魔力の波長を持っていて普通はこの波長を変えることは出来ません。私の魂は人工物ですし、それもいろいろ混ぜて一つにしたからか波長を変えることができるのです。基本的に自分の魔法は自分に効かないので呪いではなく彼女自身の固有魔法だとすると私が波長を合わせて彼女の魔力と同じにすれば影響を受けずに触れるのではないかと考えたのです。

 確認は取れましたがこれは彼女が固有魔法の制御を覚えるしかないですね。


「私は触ることが出来ましたが、固有魔法制御できるようにならないと他の人は触れることができず危ないままです。」

「制御なんてどうやるのかわからないわ。」

「私も固有魔法の制御の仕方は分かりませんが、ただの魔術なら少しは教えてあげることができます。」


 彼女は逸らしていた顔を真っ直ぐこちらに向けました。


「どうしてあなたはそこまで親切にしてくれるの?」

「知ってしまったら放っておけないですよ。」


 彼女はしばらくそのまま真剣に私を見つめた後、顔をほころばせて。


「ありがとう。」


 真っ直ぐお礼を言われるのは気恥ずかしいですね。そういえば確認も終わりましたしそろそろ手を離しましょうか。あれ…?いつの間にか私の手は彼女に両手で握り返されていました。


「あ、あの…。」

「きれいね。」


 声をかけようとした所で彼女の声がかぶさってきた。


「さっきは気づかなかったけどあなた左右で違う瞳の色だったのね。」


 そして絶句。

な、なんでばれたの…!

 いつも顔を隠しているローブ…宿屋の部屋の壁に吊ってある。

 魔法で瞳の色を変えてあるはず…波長を合わせて魔力を同じにしたから彼女に効いてない。

私が固まっている事に気づいてないのか彼女はそのまま喋り続ける。


「そういえばまだお互いに名前を知らないわね。わたしの名前はアリスよ。あなたの名前は?」


 私はまだフリーズしていた。 

「あれ?ちゃんと聞いてる?」

「(まずいです。どうしましょう。)」


※次回の更新は一週間以内を目指します。

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