チャドゥの街
私は草原を歩いていた。といってもセンテの街に向かっているのではない。私は屋敷を出た後センテの街とは逆方向に向かったのだ。
理由は、行った事のあるセンテの街とは違う方向に行ってみたかったからである。そして更に私は地図を見て確認していない。行った事のない方向に地図を見ずに歩くことで次にたどり着く街がどの街になるか分からないというくじ引きをするようなどきどき感を味わいたかったのだ。
最初は次の街についていろいろと思いをはせていたのだが、太陽が昇りきり更に傾き始めていくらか経った頃にはどきどき感は薄れてしまっていた。今に至るまで街どころか街道にさえ出なかったのだ。
「…失敗しましたか?」
冷静になって考えると余りにも無計画すぎるように思う。まだ日が落ちるまでには時間があるがこのまま進んでも、少なくても今日中に街にたどり着くことは無いだろう。というより何故これで街に着くと思っていたのかと頭を抱えそうになる。
だがまだ軌道修正はできるはず。異界空間から地図を取り出し、屋敷から進んだ方向と自身の進行速度から現在地点の目星をつけた。やはりこのまま直進しても街はないようだ。
「どの街に行きましょうかね?」
地図を眺めながら目的地となる街を決める。そして私は現在地点と思われる場所から一番近い街…ではなく二番目に近い街に行くことにした。何故なら地図を見てみると自分のいる場所と二番目に近い街の間に山が描かれていたのだ。
初めて平地に出た時はこの世界の広さに驚いた。高く険しいといわれる山の上からならもっと遠くまで見ることが出来るのではないだろうか。それはどんな景色なんだろう?
地図を広げる前に、日が落ちるまでに街に着こうと考えていた事を跡形もなく忘却して再び歩き始めたのだった。
「もうそろそろ山のある場所のはずなのですが…」
地図にしたがって歩いてきたが山の姿を見る事が出来ない。すでに山の描かれている場所に踏み入っていてもおかしくはないはずなのだが。
………いや、本当はずっと前から見えていた。そしてそれはもう目の前にある。しかし、私はそれを無視していたのだった。だってそれはなだらかな傾斜の…
「丘じゃないですか!」
…確かに地図には標高とかまで描かれてませんし私が勝手に勘違いして期待しただけなのだが、それが分かっていてもがっかりしてしまいます。足取りが重いのは坂道を上がっているからだけではないでしょう。そうこうしている間に丘の頂上に着きました。
「うわぁ~………」
丘の麓には目的の街があり私のいる場所からは夕日に照らされた街を一望するとができました。私が思い描いていたものとは違いましたが今のこの景色がそれらに決して負けないほど素晴らしいものに思えます。足取りが軽くなったのは坂を下っているからだけではないでしょう。
日没ぎりぎりではありましたが街に到着し宿屋に直行したおかげで部屋をとることが出来き移動の疲れから私は部屋入るとすぐにベッドに倒れこむように横になりました。
く~~
私は何かの音を聞いて目を覚ましました。日は完全に落ちていて窓から入る月明かりだけが部屋を照らしています。今私の目を覚ました音は何だったのでしょうか?
く~~
私のお腹の音でした。そういえば宿屋に着いて直ぐに寝てしまったので夕食を抜かしてしまったのでした。意識すると余計にお腹が空いてきましたね。でも今は中途半端な時間なので明日の朝まで我慢して今は飲み物でも飲んでごまかしましょう。私はベッドから起き上がりました。あー服もそのままで寝てしまっていました。皺になってませんよね?ローブを脱いで壁に吊るします。
なんか目が冴えてしまいました。眠くなるまで何しようか?
あっ!そういえば急いでいたのでまだこの街にはセンテの街の入り口にも仕掛けた位置認識用の術式を設置していませんでしたね。今から行きましょうか。ついでに散歩してくれば眠くなるでしょう。宿屋の玄関はもう閉まっていると思うので私は窓から外に出ました。
夜の街は人通りがなくひっそりとしています。この街はチャドゥという名の街でセンテの街ほどではないですがこの周辺の中枢都市の一つらしくそれなりの大きさがあります。街の入り口付近に術式を刻んだ石を設置してそのまま夜のチャドゥの街を散歩します。
街の外周部に沿って一周するように歩いていると、私はある建物の前で止まりました。その建物は一軒屋というにはずいぶん大きくかといって豪華なわけでもない質素な建物でした。私が歩みを止めたのはその不思議な建物に目を奪われたからではない。その建物の中からわずかではあるが魔力を感じていたからだ。それだけならば中の人が魔法を使ったのだろう位にしか思わなかったのだがその魔力は途切れなかったのだ、私が宿屋を出て直ぐに感知してからずっと…。身体強化など魔力を消費し続ける魔法もあるが長時間使うのは魔力の消費が多くなるため難しい。しかしこの散歩中ずっと途切れないその魔力に私は興味を持った。どんな人がこんな時間に何の魔法を使っているのだろうと。
別に中に入って会おうなどとは思っていない。ただ外からこっそり覗いてみたくなったのだ。私は音を立てないように静かに建物の裏手に回った。二階の角部屋から魔力を感じる。運よく窓にカーテンはかかっていない。しかし、明かりはついていなかった。不思議に思いながらも私は身体強化の魔法を使いジャンプして角部屋にある窓枠に指をかける。そのまま懸垂のように体を持ち上げこっそり中を覗いた。
そして私は窓の近くにあるベッドに腰掛けている少女とばっちり目が合ってしまった。
「………………………」
「(まずいです。どうしましょう。)」
「………………………」
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