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閑話 マスター

「マスター、朝です。起きて下さい。」


 声と共に部屋の扉をノックする音が聞こえる。窓のカーテン隙間から朝日が射していた。いつの間にか朝になっていたらしい。


「おはようございますマスター。朝食の準備ができています。」

「ああ、おはよう。もう朝なのか。」


 扉を開けると一人の可愛らしい少女が立っていた。左目は透き通るような空色、右目は柔らかな撫子色というオッドアイを持ちやや青みがかった銀髪は背中の辺りまで伸びている。顔立ちも非常に整っているがどこか幼さが残っているため綺麗より可愛さが勝っている。つい三日前にわしが完成させたホムンクルスの少女だ。最終調整も終わり今日はまだ特に何も申し付けていなかったのだが何もしないという選択肢は取らず朝食を作ったらしい。少し誇らしげに胸を張っている。人形を作ったわけではないのだから少女にはある程度好きにさせるつもりだ。勝手に弄られると困る物もあるから後でそれだけは注意しておくか。


 朝食を済ませ片付けを終わらせた少女に近づいて声をかける。


「これからお前の勉強を見てやろう。」


 少女に今日の予定を告げる。わしの目的はホムンクルスを作ることではない。それはあくまで過程、通過点でしかない。大事なのはわしの作ったこの少女が何をして何を成すのかである。それはもしかするとその身に持つ力で起こすかもしれない。まあ高性能な身体能力やおそらく強大な魔力はおまけの様なもの。単にわしが作るからには最高のものをと凝ってしまっただけである。わしはそれよりも与えた大量の知識を活用して新しい発見・創造をして欲しいと思っている。そのために《探究心》を強く持てるように設計して少女を作ったのだから。


「ありがとうございますマスター。…ところで何の勉強をするのでしょうか?私はマスターの記憶を貰っているのであまり必要性を感じないのですが。」


 少女は首を傾げながら疑問の声を上げる。身長差からこちらを見上げるような形になっている。


「記憶じゃない知識だ。記憶なんか与えたらわしの複製になってしまうではないか。お前にはわしがこれまで生きてきて知りえた全ての知識とついでにわしにもよく分からん古代の知識っぽいのを片っ端から詰め込んだのだ」


 古代の知識はまだ少女が理解することはできないだろう。だが知識とは一代で突然生まれるものではなく先達から受け継がれてきた知識を土台にしているものだ。今あるものを深く理解すればそれを辿って使えるようになる日がくると思っている。わしは他にやりたい事が多くあるために手を出していないだけにすぎない。

 少女が驚いたあと何かに納得したような表情をする。


「失礼しました。ですがマスター、知識だとしてもすでに私はマスターと同等以上の物を持っています。やはり勉強する意義がないように思えるのですが。」


 わし以上とはよく言う。わしの知識+古代の知識を持っているから間違いではないのだが。


「知識を持っていてもそれをどう使えばいいのかという経験がないだろう。今は暗記しているだけの状態だ。きちんと理解しなければ応用することも新しく創造することもできん。知識は実際に使うことができなければただのゴミでしかない。」


 そう、少女に教えることは沢山あるのだ。


「わかりました。そういう事でしたらありがたく教えて貰いたいと思います。まず何からはじめましょう?」


 最初だから身近なところから始めるか。


「そうだな。まずお前自身のことから始めよう。己のことを知るのは大事なことだ。お前は自分が何かわかるか?」

「ホムンクルスですよね。ところで早速質問があります。ホムンクルスの製作は非常に難しいとのことですがマスターはとてもすごい人なのでしょうか?」


 なにを当たり前なことを聞いてくるのか。わし以上の人物がいるなど露ほども思わない。


「もちろんだ。わしは人類史上最高の頭脳を持っていると自負しているからな。」


 信じていないのか少女が疑わしそうな目を向けてくる。これはわしがどれだけ凄いか教えてやらなくてはなるまい。


「そんなわしが製作したのだ。お前はただのホムンクルスではない。先達が作ったホムンクルスは人の劣化版でしかなく欠点も多くあったが、お前はその欠点を克服しさらに人の性能を超えた人外の存在なのだよ。」


 少女が何故か迷惑そうな顔をしている。凄いことだなのだから喜ぶところだろうに。ちゃんと理解できるようにもう少し細かいことまで話をするか。


「ホムンクルスの最大の欠点である数時間、長くて数日しか生きられないという短命は肉体と魂が上手く同調せずに結合しなかったことが原因であることをわしは突き止めた。そこでわしが集められる最高の素材で肉体を作りそれに同調できる魂を一から設計したのだ。設計はできたが素材を集めるのにてまどってな。数年かかった。」


 少女は諦めたように頷いて話を聞いてくれる。どこか投げやりになっている気がするが本当に理解しているのだろうか。


「魂の素材になったのは何ですか?」

「魂の素材は魂だよ。人、獣、魔物、亜人、その他多くの少数種族のな。わしの魔法でこの世界を検索して素材にできる魂を見つけていった。ほとんどはこの世界を循環して漂っているだけで楽に捕獲できたが、肉体をもっている奴は肉体を破棄させなくてはいけなかったから面倒だったな。それらをパズルのように組み立てていたんだが最後の1ピース。一番重要な部分がどうしても見つからなくてな。この世界には存在しないと結論づけていたのだがつい先日急にこの世界に現れてようやく完成させることができたのだ。」


 一番重要な素材。それは《探究心》を持たせるのに必要なものだった。その条件は無知であること。この世界に在りながらこの世界のことを何も知らない。そんなものが簡単に見つからないのは当然なのだが。しかし、今まで散々探して見つからなかったのに何故突然見つかったのか。あの日世界が揺れたと錯覚するほどの魔力を感じたのとなにか関係があるのだろうか?


「私の魂はまるでキメラのようですね。」

「全然違うぞ。キメラはベースとなった素材の性質が大なり小なり残るものだがお前の魂は素材となった魂の性質など欠片も残っていない全くの別物だからな。キメラを1+1=2と表現するならお前は1+1=Aだ。」


 キメラも製作が難しくはあるのだが、少女を作るのはそれより遥かに難しいのだから一緒にしてほしくないな。


「苦労しただけあって凄まじく強大な魂ができ肉体との同調も上手くいった。これで肉体と魂が結合しないことで起こる短命を克服したのだ。まあ魂が強大すぎて肉体が性能負けしてるから一年ほどで肉体が崩壊してしまうがな。」


 少女が少し青ざめてしまった。そのまま流れで喋ってしまったがその内どうにかする事なので別に教えてしまって問題ない。本当は魂を肉体とつり合うように作ればいいだけだったのだが、更にいい物を作れるのに妥協して弱めるという事をしたくなかたのだ。それに性能負けしてるとはいえ肉体もわしの最高傑作である。崩壊するまで十分対応するまでの時間が取れるというのも一つの理由だ。


「心配するな。魂と違って肉体は後からでも弄りやすいからな。やり様はいくらでもある。」

「例えばどの様な?」

「そのうち思い浮かぶ。」

「………………」

  

 少女が批難するかのように睨みつけてくる。さっさと話題を変えてしまおう。


「他にはホムンクルスの身体的特徴にオッドアイがあるがわしの作品にそんな縛りはない。それどころか身長、体重、年齢、性別、他細かな造形すべて自由自在よ。せっかくだから凡人達にお前がホムンクルスだと分かり易いようにオッドアイにしてあるがな。」


 なんかさらに少女が不機嫌になってしまったのだが何がいけなかったのだろう。オッドアイにしたのは完全にわしの趣味だから本人にはなんとなく言いづらくてつい嘘をついてしまった。ここ数百年ホムンクルスの研究・製作は全ての国で禁止され今までの研究内容もほぼ破棄されている。わずかに残った物もわしが回収してある。そんなことだからオッドアイがホムンクルスの身体的特徴だなんて事を知っている奴なんてわし以外いないのだ。この苦しすぎる嘘がばれてしまったのかもしれない。ここは少女の喜ぶ情報を教えて機嫌を直してもらおう。


「私の体の造形は全てマスターが決めたのですね」

「そうだ。芸術方面でもわしは超一流だからな。性別は男より女の方がいいに決まっているし、造形もわしが全力を尽くした結果人ではとても体現できないほど美しくできたよ。」


 喜んで機嫌を直すどころか少女はわしから後ずさって距離を取ってしまった。何故だ?


「そうでしたか、それはお疲れ様でしたマスター。次の質問ですが、ここ数百年全ての国でホムンクルスの研究・製作は全面禁止されていると思うのですが…」

「そうだな。」


 少女の声は少しも労わっていない上に警戒の色が含まれていた。しかもまた不機嫌になってきている。

 ホムンクルスの研究・製作禁止の事についてはまあ、今更である。別に手を出さなくてもわしを捕まえたい人間など掃いて捨てるほどいるのだから。


「ええっと…その…マスターは何故禁止されているホムンクルス…私を作ろうと思われたのですか?」

「わしは数年前にな、そこそこの大きさの街を生贄に世界を滅ぼすといわれる魔物を召喚したのだ。」

「…はい?」


 少女が怪訝そうな顔をする。さっきまで睨んでいたのが半目に変わっている。本当に表情のコロコロ変わる奴だな。


「わしはその魔物を暴れさせその結果小国がいくつか滅んだ。」


 暴れさせたと言うより勝手に暴れたのだが。行動を観察したくて制御もせずに好きにさせていたからな。


「………マスターは世界を滅ぼしたかったのですか?」

「いや、本当に伝承どうりその魔物が世界を滅ぼせるのか確かめたかっただけだ。実際その魔物は伝承どうり人では太刀打ち出来ないと思うほど非常に強力だった。しかし、わらわらと群がった人によって討ち取られたのだ。その時わしは人の可能性という力魅せられそして考えた、もし人外といえるほどの力を人が持ったらどれほど強くなるのだろうかとな。だが後天的に人にそれほどの力を持たせるのは難しい。それなら最初から力を持った人を作ってしまおう。それがわしがお前を作った理由だよ。」


 人の持つ力、それは勿論《知恵》である。自分たちより遥かに強力な魔物を知恵を絞り弱らせ討ち取ったのだ。普通の人が多くの知識を得るには一生が短すぎる。だから深く知識を得ようとすると分野ごとの専門に分かれてしまうのだ。だから最初から多くの知識を《知恵》という力を持った者を作ってしまう。そんな事思いついても実行できるのはわししか居ないだろうな。

 少女は今度は落ち込んで顔色も悪くなっていた。ずっと立ったまま喋っていたから疲れたのだろうか?


「質問に答えて頂きありがとうございますマスター。次はなにを教えてもらえますか?」

「次はわしの本来の専門でもある魔法についてだ。」


 その前に顔色の悪い少女を休ませるために休憩をとることにしよう。


「魔法、次はそのことについて教えてもらえるのですねマスター。」


 休憩を挟んだことで少女の様子も元に戻っている。続きを始めても大丈夫そうだ。


「そうだ。まず魔法の元となる力、魔力についてだ。魔力は魂に由来しているから魂を持つものなら誰もが扱うことができる…理論上はな。」

「実際は違うのですねマスター。それは個人の持つ魔力量、特に種族の違いでその差が顕著に現れるのと何か関係があるのでしょうか?」


 少女が真剣な表情で聞いてくる。術式を組むのが不得意というか魔力のほとんどが身体強化として消費されてしまう獣人族など少々変化球な魔法を使う亜人種がいる。あれは種族の持つ固有魔法と言えるだろう。そういうのは今は置いといて先に一般的な話から入ったほうがいいだろう。


「魔力の源となる魂。実はこの魂は、特別製のお前や一部例外を除いてどれもほとんど差が無い。つまり、潜在的に保有している魔力量はどの種族もほぼ同じなのだ。」

「潜在的には同じでも実際に扱える量が違う…魂に差が無いのなら肉体の違いによる差でしょうか?」

「そのとうりだ。正確には魂と肉体の結びつきの強度差だな。魔力は魂から直接発現するのではなく必ず肉体を通さなくてはいけない。結びつきの強度が強い、つまり魂と肉体の同調が高いほど魂は魔力という形で現実に干渉しやすくなる。この同調率が種族によって大きく違うのだ。」


 おそらく魂には寿命がない。同調率が高いと肉体が魂の持つ性質に近づくため寿命が長くなるのではないかと考えているが証明のしようがないな。


「一度に扱える魔力量に差が出る理由は分かりましたが、同調率の低い者の魔力切れが早いのは何故ですかマスター。潜在的な量はほとんど同じなのですから一度に使用できる量が少なければ魔力切れも起こりにくいように思えるのですが?」

「それは肉体を通る際に力をロスするからだ。例えるなら同調率の高い者は水を汲み取れる水源が近く汲み取る桶も大きいが、同調率の低い者は水源が遠く汲み取る桶は小さい上に穴が空いているようなものなのだ。同調率の高い者と低い者とでは同じ事をしても消費される魔力量が圧倒的に違うのだよ。」


 今話しているのは魔法の基礎的な考え方だがこれはわしのこれまでの研究成果とそこから推測された内容だ。推測と言っても実証手段が見つからないだけで間違ってはいないだろう。わしは研究成果を発表していないから他の者ができる話ではない。

 

「魔力を使用して様々な現象を起こす事を魔法という。中でも一番広く使われているのは術式を使って魔力を制御する方法、つまり魔術だ。術式の表現方法は陣であったり詠唱であったりと様々だが魔法と言われる物の多くがこの魔術に分類される。魔術の長所はその汎用性だ。きちんと術式さえ組めればどのような現象でも起こせると言われるほど万能だ。短所はより強い現象を起こそうとすると術式が複雑になりすぎることだ。理論上は固有魔法さえ魔術で再現することが可能だが余りに複雑になるその術式を現実に組むことができない。」

「とっさに術式を組むことができなくても陣や魔術書などの形式で少しずつ組めば可能なのではないのですか?」

「確かにそういう研究をしている者もいるが凡人たちは既存の術式でさえ満足に解析できないのだから無理だろうな。簡単で基礎的な術式の解析は終わっているのだが、複雑な術式は基礎的な物を適当に組んでできた偶然の産物がほとんどだからな。何故その術式でそういう現象が起きるのか、というのを知らずに使っているのだ。」


 新しい術式を開発しても術の方向性ぐらいは分かるが実際の効果は使わないと分からない。なので一般には術式の開発は命懸けと思われている。この場合、命を懸けているのは自分の魔法の影響を受けない術者ではなくその周りにいる人間のほうである。運が悪いと術者も死ぬことがあるが。


「魔術以外の魔法はどのような物がありますかマスター?」

「魔術以外で有名なものに精霊術というのがあるな。これは精霊と契約してする必要があって、契約者が精霊に魔力を渡し精霊が術を行使する。術式を自分で組むのではなく精霊にやって貰う形になる。精霊がではあるが術式を使っているから変則的な魔術といえなくもない。長所は自分で術式を組まなくて済む分負担が軽減されるから術の行使が容易なことだ。術式を組むのが下手な者でも行使できる。魔力が足りるのならば魔術と併用することも可能だ。短所は精霊との意思疎通が上手くいかなければ思っているような効果を得ることができない事だ。後、魔術との併用が可能とは言ったがよほど魔力量に自信がないと直ぐに魔力切れを起こす事になる。また魔術と精霊術で使う魔力の配分に失敗するとどちらか片方、最悪両方の術が失敗するからかなり難しいな。」

「精霊との契約は簡単にできるのですか?」

「精霊を選ばないのならば、精霊に嫌われてさえいなければ契約を結ぶのは難しいことではない。だが契約を結べる精霊は一人につき一体だけだから慎重に選ぶ者がほとんどだな。」


 精霊と性格が合わないと契約後の意思疎通が大変だからな。精霊術師の中には契約のことを結婚と表現する者がいるほどだ。


「一度契約を結ぶと破棄はできないのですか?」

「契約の破棄は可能だがそれをすると精霊に嫌われるな。二度と精霊と契約できないと思っていいだろうな。」


 少女が考え込みながら頷いている。


「他には固有魔法というのもある。これは魔力が術式で制御しなくても何かしらの現象を起こす物をひっくるめてそう呼んでいる。魔眼などもここに分類されているな。長所はこの固有魔術に分類されている物は強力なのが多いこと。短所といえるかは分からんが望んで手に入るものではないことだ。」


 一通り説明したので実際にやらせてみよう。体験しないと分からないことも多いからな。


「説明は此の位にして置いて実際に魔法の練習をしてみようか。」


 この場で練習するわけにもいかないから場所を移すか。少女も少し早歩きになりながら後ろからついてきた。部屋に着き扉を開けるが窓の無い部屋のため真っ暗である。わしが部屋の壁に配置されている蝋燭に火を灯していると強い視線を感じた。見ると少女が目を輝かせながらこちらの一挙手一投足を見逃すまいと食い入るように見つめていた。そういえば少女の前で魔法を使うのは初めてだったか。そしてふと少女は何かに気づいたのか考え込み始める。まだ魔術の無詠唱については説明していなかったな。


「固有魔法ではないよ。」


 考えていそうなことに当たりをつけて言ったのだがどうやら正解だったらしい。少女の顔に何故考えている事が分かったんだと大きく書かれている。


「術式はきちんと組んでいるよ…頭の中でね。」

「??…術式を思い浮かべたという意味でしょうか?思考することで術式を組んだのですか?」

「詠唱破棄や無詠唱と言われる技術だよ。正確にそして明確に術式を思い浮かべる必要がある。うろ覚えだったり術式に自信が持てず迷ったりすると失敗するな。難易度は術式の複雑さによる。簡単な物なら少し練習すれば直ぐ使えるようになる。」

「マスターはその火で火傷をしたりしないのですか?」

「基本的に身体強化や治癒のように自身を対象に含めるように術式を組まなければ自分の魔法の影響を受けることはないよ。ただ自分の周りを真空にしたり頭の上にでかい氷塊落としてみたり深い穴を掘って飛び降りたりすると死ぬぞ。」


 記録に残っているから実際やった人がいるのだろう。


「自分に攻撃用の魔法を撃ち込む奴は余りいないから何処までがセーフで何がアウトなのかまだよく分かってはいないのだ。だから基本的に大丈夫だとしても十分注意することだ。」


 火を灯し終わり部屋の中央に移動する。すると少女が心配そうにこちらを見た。部屋の中で練習する事に不安があるのかもしれない。部屋には結界が張られているが、たとえ結界が無くても現時点では心配は要らないだろう。少女も練習を始めれば気づくはずだ。


 「それでは魔法の練習を始めようか。この部屋には結界を張ってあるから遠慮はいらんぞ。まずは魔力を出すところからだ。」


 少女は気合を入れているが直ぐに何かに気づき申し訳なさそうにこちらを見た。


「マスター魔力の出し方が分からないです。」

「だろうな!言ってみただけだ。これは知識ではなく感覚的な物だからな。お前は知らないはずだから出来なくて当然だろう。」


 フォローしたつもりだったのだが見ると少女の表情が硬くなって少し引き攣っているように見える。


「…マスターどうやって魔力を出すのですか?」

「感覚的な物と言ったろう気合で…あーいや…。」


 急に部屋の温度が下がったように感じ鳥肌がたった。改めて少女を見ると表情が抜けたように真顔になっていた。普段表情豊かな分ちょっと怖い。


「魔力は魂から生まれる。集中して己の存在を強く意識することだ。」


 納得したのか少女は目を閉じて集中し始める。しかし、なかなか上手くいかないようでこの様子だと暫く時間がかかることだろう。


「焦る必要はない。魔力が出せれば後は術式で制御するだけ。そしてお前はその術式を既に識っているのだから。最終的には術式を深く理解して場面に応じて新しい術式をその場で組み立てれるようになることが目標だな。それが出来ればいつでも自分のイメージどうりの魔法を使うことができる。」


 かなり無茶な要求だとは思うが少女ならそう遠くないうちに出来るようになる。わしはそんな気がしていた。



「マスター、撫子色とはどのような色ですか?」

「淡い赤紫色のことだ。」


※次回は一週間以内の更新を目指します。

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