魔法
「魔法、次はそのことについて教えてもらえるのですねマスター。」
一旦休憩を挟んだのち先ほどの続きを促す。
「そうだ。まず魔法の元となる力、魔力についてだ。魔力は魂に由来しているから魂を持つものなら誰もが扱うことができる…理論上はな。」
「実際は違うのですねマスター。それは個人の持つ魔力量、特に種族の違いでその差が顕著に現れるのと何か関係があるのでしょうか?」
人による得手、不得手は当然あるのだろうが種族によって魔法への適正が大きく違うように思う。
「魔力の源となる魂。実はこの魂は、特別製のお前や一部例外を除いてどれもほとんど差が無い。つまり、潜在的に保有している魔力量はどの種族もほぼ同じなのだ。」
私の魂が別なのは、作る時マスターが素材としていろんな魂を沢山つぎ込んだみたいですしそのせいでしょうね。
「潜在的には同じでも実際に扱える量が違う…魂に差が無いのなら肉体の違いによる差でしょうか?」
「そのとうりだ。正確には魂と肉体の結びつきの強度差だな。魔力は魂から直接発現するのではなく必ず肉体を通さなくてはいけない。結びつきの強度が強い、つまり魂と肉体の同調が高いほど魂は魔力という形で現実に干渉しやすくなる。この同調率が種族によって大きく違うのだ。」
そういえば魔法に長けた種族は長寿なのが多いですがそれにもこの同調率が関わっていそうですね。
「一度に扱える魔力量に差が出る理由は分かりましたが、同調率の低い者の魔力切れが早いのは何故ですかマスター。潜在的な量はほとんど同じなのですから一度に使用できる量が少なければ魔力切れも起こりにくいように思えるのですが?」
「それは肉体を通る際に力をロスするからだ。例えるなら同調率の高い者は水を汲み取れる水源が近く汲み取る桶も大きいが、同調率の低い者は水源が遠く汲み取る桶は小さい上に穴が空いているようなものなのだ。同調率の高い者と低い者とでは同じ事をしても消費される魔力量が圧倒的に違うのだよ。」
さすが専門だというだけあってマスターは魔法に詳しい。まあ、まだ基礎的の内容のように思えるので専門でなくても知られている内容なのかもしれないが。私もマスターに知識として与えられている内容のはずだが如何せんその量が膨大な上に多岐に渡っているためすんなりと出てこない。まだ覚えているだけで理解していないからなのでしょう。こうして話をすることで私の中で知識が整理されていっている気がします。
「魔力を使用して様々な現象を起こす事を魔法という。中でも一番広く使われているのは術式を使って魔力を制御する方法、つまり魔術だ。術式の表現方法は陣であったり詠唱であったりと様々だが魔法と言われる物の多くがこの魔術に分類される。魔術の長所はその汎用性だ。きちんと術式さえ組めればどのような現象でも起こせると言われるほど万能だ。短所はより強い現象を起こそうとすると術式が複雑になりすぎることだ。理論上は固有魔法さえ魔術で再現することが可能だが余りに複雑になるその術式を現実に組むことができない。」
「とっさに術式を組むことができなくても陣や魔術書などの形式で少しずつ組めば可能なのではないのですか?」
「確かにそういう研究をしている者もいるが凡人たちは既存の術式でさえ満足に解析できないのだから無理だろうな。簡単で基礎的な術式の解析は終わっているのだが、複雑な術式は基礎的な物を適当に組んでできた偶然の産物がほとんどだからな。何故その術式でそういう現象が起きるのか、というのを知らずに使っているのだ。」
それはちょっと危なくはないのだろうか?それとも原理は解らなくても使えれば良いという考えなのだろうか?
「魔術以外の魔法はどのような物がありますかマスター?」
「魔術以外で有名なものに精霊術というのがあるな。これは精霊と契約してする必要があって、契約者が精霊に魔力を渡し精霊が術を行使する。術式を自分で組むのではなく精霊にやって貰う形になる。精霊がではあるが術式を使っているから変則的な魔術といえなくもない。長所は自分で術式を組まなくて済む分負担が軽減されるから術の行使が容易なことだ。術式を組むのが下手な者でも行使できる。魔力が足りるのならば魔術と併用することも可能だ。短所は精霊との意思疎通が上手くいかなければ思っているような効果を得ることができない事だ。後、魔術との併用が可能とは言ったがよほど魔力量に自信がないと直ぐに魔力切れを起こす事になる。また魔術と精霊術で使う魔力の配分に失敗するとどちらか片方、最悪両方の術が失敗するからかなり難しいな。」
精霊との意思疎通が上手くいかないと水を出して欲しいのに火が出てきたりするのでしょうか?
「精霊との契約は簡単にできるのですか?」
「精霊を選ばないのならば、精霊に嫌われてさえいなければ契約を結ぶのは難しいことではない。だが契約を結べる精霊は一人につき一体だけだから慎重に選ぶ者がほとんどだな。」
「一度契約を結ぶと破棄はできないのですか?」
「契約の破棄は可能だがそれをすると精霊に嫌われるな。二度と精霊と契約できないと思っていいだろうな。」
契約を破棄をすると精霊全員に嫌われるということは、破棄するとなしかしらの痕跡が残るのでしょうか?
「他には固有魔法というのもある。これは魔力が術式で制御しなくても何かしらの現象を起こす物をひっくるめてそう呼んでいる。魔眼などもここに分類されているな。長所はこの固有魔術に分類されている物は強力なのが多いこと。短所といえるかは分からんが望んで手に入るものではないことだ。」
魔力が肉体を通る時に何かしらの影響が出た物のが固有魔法なのですね。何故そういうことが起こるのかはまだ解明されていないようです。
「説明は此の位にして置いて実際に魔法の練習をしてみようか。」
そう言ってマスターは歩き出す、どうやら場所を移すらしい。置いて行かれないように後ろについて歩いて行くとまだ私の入ったことの無い扉の前に着いた。中は昼なのに真っ暗でマスターが部屋の壁に配置されている蝋燭に火を灯していった。窓も何も無いだだっ広い部屋のようだ。だが私は部屋の事よりもマスターが火を灯す挙動に目を奪われていた。何もない所から火が生まれたのだ。これが魔法なのだろう、初めて見た。便利そうなのだからもっと普段から使ってくれればいいのに。しかし、今マスターは陣も詠唱も使わなかったがどうやって魔力を制御したのだろう?精霊もいないようだしまさか…
「固有魔法ではないよ。」
思考の先読みをされた!でもそれじゃあ術式は何処行ったのだろう。
「術式はきちんと組んでいるよ…頭の中でね。」
「??…術式を思い浮かべたという意味でしょうか?思考することで術式を組んだのですか?」
「詠唱破棄や無詠唱と言われる技術だよ。正確にそして明確に術式を思い浮かべる必要がある。うろ覚えだったり術式に自信が持てず迷ったりすると失敗するな。難易度は術式の複雑さによる。簡単な物なら少し練習すれば直ぐ使えるようになる。」
「マスターはその火で火傷をしたりしないのですか?」
「基本的に身体強化や治癒のように自身を対象に含めるように術式を組まなければ自分の魔法の影響を受けることはないよ。ただ自分の周りを真空にしたり頭の上にでかい氷塊落としてみたり深い穴を掘って飛び降りたりすると死ぬぞ。」
例えが怖いのですが…もしかして試した人がいるんですかね?
「自分に攻撃用の魔法を撃ち込む奴は余りいないから何処までがセーフで何がアウトなのかまだよく分かってはいないのだ。だから基本的に大丈夫だとしても十分注意することだ。」
火を灯し終わり部屋の中央に移動する。今更だが部屋の中で魔法の練習をして大丈夫なのだろうか?
「それでは魔法の練習を始めようか。この部屋には結界を張ってあるから遠慮はいらんぞ。まずは魔力を出すところからだ。」
マスターに促され私は魔力を放出する………どうやって?
「マスター魔力の出し方が分からないです。」
「だろうな!言ってみただけだ。これは知識ではなく感覚的な物だからな。お前は知らないはずだから出来なくて当然だろう。」
マスターのその物言いにイラッとくる。落ち着け、別に今に始まった事ではないのだから。
「…マスターどうやって魔力を出すのですか?」
「感覚的な物と言ったろう気合で…あーいや…。魔力は魂から生まれる。集中して己の存在を強く意識することだ。」
目を閉じて集中する。しかし、己の存在と言われても曖昧しぎてやはりよく分からない。
「焦る必要はない。魔力が出せれば後は術式で制御するだけ。そしてお前はその術式を既に識っているのだから直ぐに魔術くらい使えるようになる。最終的には術式を深く理解して場面に応じて新しい術式をその場で組み立てれるようになることが目標だな。それが出来ればいつでも自分のイメージどうりの魔法を使うことができる。」
なんかマスターにすごく難しい目標を勝手に立てられてしまった。なんにせよまずは魔力を出せるようにならなくてはいけない。
「マスターは研究者ではなく魔法使いだったのですね。」
「違うな。わしは研究者であり魔法使いであり芸術家であり…云々」
「………はぁー」
※次回は閑話マスター視点です。一週間以内の更新を目指します。