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小悪魔主人公とヤンデレ魔王と苦労人勇者(仮)

作者: 風白狼

 陽気な日差しの当たる窓辺に、一人の青年が頬杖をついて座っていた。気だるそうに外の景色を眺めている。そして時折、あくびをするのだった。


「ケンタ様、行かなくて本当に良かったのですか?」


 傍らにいた男性が、遠慮がちに青年に尋ねる。彼は三十路をいくらか過ぎた辺りで、剛健な風格を醸し出している。落ち着いた黒髪と体中の古傷が歴戦の戦士を連想させるようだ。対して、ケンタと呼ばれた青年は大儀そうに男性を見やる。


「ああ。わざわざ全員で買い物に行くこともないだろう?」


 彼の言葉に、男性は軽く息を吐いて腕を組んだ。


「テンネ様は買い物に出掛けてらっしゃるのにか?」


 男性は意味ありげな視線を送る。ケンタは“テンネ”の名にどきりと顔をこわばらせた。が、すぐに表情を戻して椅子に深くもたれかかった。


「ちぇ、あいつも大人しく留守番してくれればいいものを…」


 そう言って、恨めしげに天井を仰ぐ。その様子を見て、男性はふっと破顔した。


「そういうわけにはいきますまい。なにせ、王宮の外は珍しいものですからな」


 笑う彼を一瞥し、ケンタはまた天井を見上げた。



「三位! ソルド三位! た、大変であります!!」


 突如、ばたばたと足音が駆け込んできた。息を切らしながら、少女が部屋へ入ってくる。ソルドと呼ばれた男性は、驚いて彼女に駆け寄った。駆け込んできた彼女をなだめる。


「落ち着け、ヴェラ六位。何があった?」

「それが大変なことになっているんです! エイミさんもセレヴィトさんも、もうてんやわんやなんです!!」


 ヴェラと呼ばれた少女は走ってきた勢いのまま答える。まくし立てるような彼女の物言いに惑わされることなく、ソルドは声を張った。


「六位、もう一度聞く。一体何がどうなったのだ?」


 男性の問いに、少女ははじかれたように顔を上げた。それほど身長のない彼女は、大柄な彼を見上げる格好になる。ヴェラは一度深呼吸し、震える声を絞り出した。


「て、テンネ様が……テンネ様が行方不明になりました!」


 ガタン、とけたたましい落下音が響く。二人は驚いて音の方を向いた。そこには、いままで関係なさそうに座っていたケンタが顔をこわばらせて立っていた。眉をひそめ、ヴェラを睨むように見る。


「今……なんて?」


 彼に問われ、少女はまた大きく息を吸った。


「ですから、テンネ様が買い物の帰り道で突然いなくなったんです! 今、エイミさんとセレヴィトさんが必死で探しています!」


 彼女の答えに、青年は舌打ちした。そして、素早い動作で身支度を調えていく。先ほどまでだるそうに座っていた人と同一人物だとは思えないほどの豹変ぶりだ。


「ヴェラ、はぐれたところまで案内してくれ!」

「は、はいであります!」


 青年の言葉を皮切りに、三人は部屋を飛び出した。


「テンネ、無事でいてくれ…!」





*****





 ギャアギャアとやかましい鳥の鳴き声が聞こえる。見上げても、昇っている太陽が見えないほど木々が覆い被さるように生えている。そんな道を、密生した草をかきわけながらひたすら進んでいく影があった。影の正体は、森の中に溶け込みそうな緑髪の少女だ。年は10代後半といったところだろうか。高貴さを感じさせる服を身につけている。迷いない足取りで――と言いたいところだが、彼女は道に迷っていた。方向も分からぬまま、闇雲に進んでいるだけだ。

 おかしい。私は確かにさっきまでみんなと買い物をしていたはずだ。少女、テンネは進みながら考えていた。いや、彼女でなくても誰もが思うだろう。街中で買い物をしていて、どうして光も届かないほど樹木の密生した森に迷い込むんだ。袋小路ならまだしも、密林は入ったことに気付くだろうに。

 しかし、テンネはきっとどこかにつくだろうという謎の自信をもって歩いていた。楽観的にもほどがある。案の定、どこに出ることもなく森の中をさまようことになっていたのだが。



 ガサリと草むらが揺れる。テンネは目を見開いてそちらを見た。草の影に、ぎらりと何かの目が見える。


「どうしたの~? あなたも迷った?」


 大胆にも、彼女はそれに近寄った。ゆったりとした動作で手をさしのべる。彼女はそれがそっと出てきてくれることを期待していた。が。


「グルヮア!」

「きゃっ!?」


 茂みから勢いよく獣が飛び出した。さすがにテンネも驚きで後ろに飛び退く。一言で言い表すなら、狼だろうか。しかしその姿は、私たちが知っているようなものではない。黒い毛並みに虎にも似た白い縞模様が走り、足は熊のようにずんぐりと太い。何より、殺気をともす双眸とは別に、もう一つの目が額についていた。野獣は低くうなりながら少女を睨む。テンネは震える足を懸命に動かして後ずさった。何かしなければとは思うが、恐怖で体が思うように動かない。その間にも獣はこちらににじり寄ってくる。彼女は覚悟を決めた。


『この世におわします大いなる御霊よ、今こそ我が願いに応え給え――』


 テンネは目を閉じ指を組んで、祈りの言葉を唱えた。流れるように言葉が走り、テンネの体が光を放ち始める。


『――その意を以て、()の逆賊に鉄槌をくださん!』


 彼女が唱え終わると同時に、光が一点に凝縮。一気に発散すると、元の明るさに戻り始める頃には徐々にその形が現れてきた。ことん、と音がして、それは地に降り立つ。現れたのは、香ばしい芳香を漂わせ、したたりそうなほどの肉汁を例えた、照り焼きチキンだった。断じて、けたたましい声上げる生きた鶏が召喚獣のごとく現れたのではない。調理済みの(・・・・・)チキンが、ポン、と出てきたのだ。当然そんなものが撃退に役立つはずがない。獣は危機としてチキン料理にかぶりついた。ぺろりと一口で食べてしまうと、舌なめずりをしてテンネの方を向く。


「き、きゃあぁぁぁ!」


 テンネは踵を返し、無我夢中で走り出した。もちろんこれは逆効果で、獣は逃げる彼女を追いかける。草をかき分け、どうにか追いつかれずにはいたが、危険であることには変わりがない。後ろを確認したそのとき、テンネは木の根に躓いた。そのまま地面に倒れ込む。好機とみた獣は、ばっと飛びかかった。テンネは思わず目をぎゅっとつむる。


 こんな時、彼がいてくれれば――テンネはこの場にいない男性を思い浮かべて、首を振った。違う。彼は助けに来ない。いや、それどころか彼は今――


 キャン、と獣の悲鳴が上がった。おそるおそる目を開くと、目の前に華奢な背中があった。視線を上げれば、燃えるように赤い髪の毛。顔は見えずとも、テンネのよく知る人物であるとすぐに分かった。


「ケンタ…」

「怪我はないか、テンネ?」


 赤髪の青年はテンネの方に振り向いた。彼女が無事であることに、とりあえず安堵する。先ほどの獣はケンタに蹴飛ばされ、よたついていた。が、よろけながらも立ち上がり、怒りに満ちた瞳で二人を睨み付ける。ケンタは腰に帯びた剣を抜き放ち、走り出す。


『切り裂け!』


 ケンタは得物を振り下ろした。刀身はそこまで長くはなかったが、一瞬のうちに敵を切り裂く。獣は断末魔を上げることなく崩れ落ちた。動かなくなったのを確認して、青年は息をつく。


「まったく、お前は何をやっているんだ。おかげでこんな森まで探しに行く羽目に――」

「ありがとうケンタ!」


 説教をし始めた彼に、テンネは抱きついた。まるで飼い主に再会した子犬のように、頬を彼の胸に押しつける。袖をしっかり握られ、上目遣いで見つめられると、ケンタも怒るに怒れなくなってしまった。あいた方の手で照れくさそうに頭をかく。


「あー、わかったわかった。ほら、戻るぞ」

「うん!」


 ふわりとした満面の笑みに、ケンタは思わずどきりとするのだった。





*****





「くっ……うらやましい奴め!」


 椅子に腰掛けていた男性が、不意に机を叩いた。彼の見つめる先には水晶でできたモニターがあり、そこにほのぼのとした男女の姿がある。先ほどのケンタとテンネだ。


「テンネが微笑んでいいのは私だけのはずだ…!」


 ぎりり、と男性は奥歯を噛みしめる。と、今まで光っていたはずのモニターが不意に切れた。


「また盗撮ですか、魔王様? 感心しませんね」


 映像の切断に愕然とした男性の元に、一人の女性が現れる。彼女はそこまで背は高くなかったが、真っ赤な双眸が威圧を放っていた。加えて、肩付近の翼のように生えた毛と、先のとがった毛深い耳が、異様な雰囲気を醸している。女性は流れるような動作で男性からモニターを取り上げた。


「ルーシュ、何をする!」


 魔王はいきり立った。が、ルーシュと呼ばれた女性は涼しげな顔だ。


「盗撮してるってバレたら、彼女に嫌われるんじゃないですか? 少なくとも、私なら絶交します」


 彼女の言葉に、魔王はぐ、と言葉を詰まらせる。いったん椅子に深く座り直し、深く考え込んだ。ふた呼吸ほどの間の後、魔王は口を開く。


「だが、彼女を国家から救わなければならない(・・・・・・・・・・)ことはお前も承知だろう? そのための偵察だ」

「ええ、存じております。あなたの目標に添えるよう従いましょう。ですが、私はあなたの狂気じみた趣味まで手伝うつもりはありません」


 穏やかな声音だったが、女性はぴしゃりと言い放った。


「ぐううぅ……だが、もうことは動いている! 作戦は遂行するぞ!」


 低くうなった後、魔王は声を張り上げた。女性は肩をすくめた後、深く頭を下げる。


「承知しました」


 そして、男性の部屋から出て行く。ふと、出入り口で立ち止まった。ルーシュは顔だけ魔王に向ける。


「嫌われても知りませんよ」

「いいからさっさといけ!」

「はい」


 女性は事務的に対応し、外へ出て行った。部屋では魔王が一人、不敵な笑みを浮かべている。


「ふっ、国家にはたっぷりお礼をせねばならんな……テンネは私のものだ――」


 彼の発言を聞いていたものは、この場に誰もいなかった。

 読んでくださりありがとうございます。この作品は、現在4人で書く予定のリレー小説のプロローグです。4人がまず序章を書いてみようと言うことになりまして、このような形で投稿しています。興味がありましたら、是非合作完成版も見てくださいませ!


<業務連絡>

 とりあえず書いてみました。キャラを5名ほどつくっちゃいましたw

まあ、二人は名前しか出てきませんが…

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