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あの虹の向こう側へ  作者: 宙埜ハルカ
第一章:再会編
7/85

#07:告白

ずいぶんお待たせしました。

本当にすいません。

今回も宜しくお願いします。

 彼女から言質を取ったと喜んでいられたのは夜までだった。

 

「なにやってんだよ」

 今後どうしようかと考えている内に、自分のやってる事って騙しているようなものじゃないかと思い至り、思わず自分への突っ込みが口から出た。

 恋愛体質じゃないと言う彼女に、こんなやり方をしたって、恋愛に持ち込めるはずもない。

 そもそも俺だって、自分からアプローチした経験がなかった。

 けれど、本郷さんの話では、まともなアプローチでは、ことごとく断られるのだと……たしか、『好きじゃない人とはお付き合いできません』だっけ。

 今のサークルと言う接点しかない状態で、彼女に好きになってもらうのは、難しいだろう。ただでさえ2歳の年の差は講義などの接点もないし。そもそも、学部が違うから、サークル以外で会う事が殆ど無い。

 やっぱり、今回のチャンスは手放せない。


 彼女の事をもっと知りたいと思う。

 この気持ちは恋なのか、好奇心なのか、まだよく分からない所もある。

 でも、夏の公園で彼女との間に流れたあの穏やかな時間をもう一度、手に入れられたら……。

 とにかく彼女に近づかなければ、何も始まらないのだから。

 あの夏の公園のような自然の中なら、今日のコンパの時とは違い、二人の間に穏やかな時間が流れるかもしれない。そう思い、俺は彼女をハイキングに誘いだした。


 当日は車で彼女を迎えに行き、目的地の森林公園へ向かって出発した。助手席に彼女がいると思うだけで緊張してしまいそうになるのを必死で気持ちを落ち着かそうとしていたけれど、隣の彼女もどうやら緊張しているようで、それに気付いた途端、心の焦りはすっと落ち着き余裕ができた。

 考えてみたら、今まで恋愛をした事がないと言う彼女にとって、もしかしたらこれが初デートなのかもと思うと、俺は一人浮かれた。

 お弁当を買うためにコンビニへ寄ると、彼女は「昼からもかかるの?」と驚いた。こちらこそ驚きだ。午前中だけなんて思われていたなんて。

 でも彼女の言い分はお弁当なら作ったのにもったいないと言うものだった。俺は悔やんだ。先に言っておけば、彼女の手作りのお弁当が食べられたかも知れなかったのに……。

 また今度お願いしますと言うと、機会があればと言う。

 機会は作ればいいと言えば、今日の勝負がつかなかったらと返ってきて驚いた。

 勝負って……なんだ?


「守谷君が言ったんでしょう? 年下だから頼りないかどうか試してくださいって……だから、これは守谷君の年下の男としての意地と、私の年上の女としての意地の勝負だと思ったんだけど……」

 俺は彼女の言葉に驚きながら落胆した。

 俺はデートのつもりでも、彼女は勝負という認識だったなんて……。

 がっくりと肩を落とし、俺は額に手を当てて俯いて頭を横に振った。


「篠崎さんがそう思ったのなら、それでもいいです。今日は付き合ってくれるんですよね? だったら行きましょう」

 俺は何とか自分を叱咤して、気持ちを切り替えた。

 彼女がこうして来てくれただけでいいじゃないか。

 このチャンスを生かすんだろう?

 そう、このチャンスを生かさなければ、後が無いんだから。


 目的地の森林公園へ着くと、来た事があると彼女が嬉しげな声を上げた。それだけで俺はずいぶん救われた気持ちになった。

 これから展望台までハイキングに行くんだと言うと、彼女は怪訝な顔をした。

 ああ、そうか。彼女の中では勝負と言う事になってるんだから、ハイキングと勝負が結びつかないのだろう。

 でも俺は、知らない振りしてどんどんと進めて行く。リュックにお弁当とお茶を入れて車から降りると、彼女を促して歩き出した。

 落ち葉を踏みしめて森林の中をお喋りしながら歩いて行く。まずは森林の奥にある滝を目指す事にしている。彼女がいろいろ考えないよう、次々に話をしていく。家族で行ったキャンプやスキーの話、失敗談や面白いエピソード等、彼女はその度に驚いたり笑ったりと反応してくれた。俺は嬉しくて、上機嫌だった。

 滝で一服した後、俺達は展望台を目指して坂道を登り始めた。普段、余り運動をしてなさそうな彼女にはキツイかもしれない。その予想通り、彼女はだんだん俺から遅れ始めた。

 やっぱり相当キツイのかなと心配になり、立ち止まって彼女を待ち、引っ張って行こうかと追いついた彼女に右手を差し出した。すると彼女はムッとした顔をして首を横に振った。

 ああ、彼女は負けず嫌いだったと思い直し、また俺は彼女の先を歩き出しながら、心の中で苦笑した。

 相当苦しそうなのに、この人のこんなところが可愛いんだよなと、心の中で一人ごちた。


 先に展望台へ着いた俺は、彼女の来るのを待ち構えた。ようやく彼女が着いた時、苦しそうな表情がホッと緩んだ。その表情にこちらまで嬉しくなり「篠崎さん、着きましたよ。頑張りましたね」と、本当なら拍手で迎えたいところだったけど、気持ちを笑顔に込めて迎えたのだった。

 

 展望台から二人で彼女の住む街を眺めた。隣で彼女が深呼吸している。ここへは何度か来たけれど、いつも一人だったから、何となく新鮮な気がして、気分が良かった。


「守谷君、ありがとう。連れて来てくれて」

 彼女が突然そう言った。そんな言葉を言ってくれるなんて思っていなかったので、柄にもなく胸が震えた。


「よかった。篠崎さんが喜んでくれて……。来た甲斐があったよ」

 俺はそう言いながら、笑顔で彼女の方を見た。彼女も笑って頷いてくれた。

 これはいい雰囲気なんじゃないかと自分の中にGOサインを出す。

 このチャンスを生かさなければ。


 その後ものんびりとお弁当を食べて、彼女の様子を窺う。すると、彼女は思わぬ言葉を言ってくれた。

「自然の中を歩くのって、こんなに気持ちが良くて、楽しいものだとは思わなかったわ。また、行きたいなぁ」

 また行きたいって?

 俺はすかさず「ぜひ行きましょう」と意気込んで言った。しかし彼女の返事はのんびりとしたものだった。

「そうね。春になったら、サークルの皆で行きましょうか?」

 俺は少しがっくりとしながらも、気を取り直して「それもいいけど、俺は篠崎さんと二人で行きたいんだけど……」と、彼女を窺うように言うと、彼女は驚いて俺の方を見た。

「守谷君、認めるよ。守谷君は年下でも頼りがいあるって……勝負は私の負けで、いいよ」

 はぁ? このシチュエーションで、まだ勝負だと思っている訳?

 どれだけ鈍感なんだよ? 

 それから、彼女の誤解を解くためにいろいろ言ってみたが、全く理解してくれそうにないので、俺はとうとうストレートに言う事にした。

「篠崎さん、俺が言った付き合いって、交際して欲しいって事なんだけど……」

 俺がそう言うと、全く思ってもみなかったのか、彼女の目がみるみる大きく見開かれた。

「守谷君、からかわないでよ。やっぱり私を馬鹿にしてるでしょ?」

 相変わらず彼女は彼女らしい反応で、俺はどこか安心しながら、心の中で苦笑する。

「篠崎さん、俺は真剣に言ってるんです。俺……篠崎さんの事が、好きなんだ」 

 自分からこんな事を言うのは初めてだなと思いながら、俺は後ひと押しの言葉を口にしていた。

 しかし、彼女は驚き過ぎたのか、俺を見たまま何も言えなくなってしまった。

 それから俺は必死になって言い募った。

 彼女に好きじゃない人と付き合えないと言われてしまったらお終いだと思うと、彼女にそれを言わせないよう、次々にいろんな言葉を繰り出した。その度に彼女はどこか俺の気持ちをイマイチ信じてない様な言葉が返ってくる。

 それでも、今は公務員試験の勉強があるから考えられないと言う彼女を、何とか説き伏せ、試験が終わったら考えてもらえるよう予約を取り付ける事に成功したのだった。

 とりあえずは断られなかった事で良しとしよう。メールを送るぐらいは許してもらったし。


 しかし、その後事態は急変した。

 サークルで会っても、目をそらされてしまうし、どこか避けられている様な気がする。

 あの時は予約と言う事で承諾してくれたけど、もう後悔しているのだろうか?

 でもそれなら、彼女の性格なら、はっきりと言ってくれそうな気もする。

 迷っているのだろうか?

 今の俺にはサークルでしか接点が無いから、後は日々の何げない風景を切り取って写メールを送る事で、彼女の気持ちを(ほぐ)そうと思った。

 たまに彼女の方からも写メールが届く。俺はそれをドキドキしながら開く。

 もし、もうメールを送って来るなとか、やっぱり予約は取り消したいとか、書いてあったらと思うと、情けないけど少し怖かったんだ。

 いつの間にこんなに彼女に()まってしまったのだろうと思う。

 

 県北部の山に雪の便りが届く12月、スキーに行った事が無いと言っていた彼女に雪を見せてあげたいと思いついたら、もう次の冬まで待てないと思った。先輩と後輩と言う関係でもいいから、彼女が初めてたくさんの雪を見た時の表情を一人占めしたくて、ダメ元で誘ってみた。驚く事に彼女はすんなりOKしてくれた。

 彼女の中で何か変化があったのだろうか?

 それとも、予約を取り消すため?

 自分のネガティブさを笑いたくなった。

 今までどんなに告られても、すぐ断る彼女が、先延ばししただけかもしれないけど、断らなかったんだから……ちょっとぐらいは自惚れてもいいよな。俺だからすぐに断らなかったんだと。


 彼女と雪を見るためにロープーウェイに乗り、降りるとそこは白銀の世界。けれど、彼女は喜ぶどころか、口数も少なくどこかいつもと違う。

「篠崎さん、寒かったから、あまり良くなかった?」

 山の上のカフェで一休みした時、彼女に問いかけると、彼女は慌てたように首を振った。

「ごめんなさい。こんなに雪のある所へ来たの初めてで、とても嬉しかったし楽しかったの。だけど……私、変に緊張しちゃって……」

 変に緊張って……? 

「もしかして、この間、俺が告白した事、意識してるから? 俺、できるだけ今までと同じように接しているつもりだったんだけど……今日、ここへ誘うのも、すごく悩んだんだ。でも、スキーとかした事無いって言ってたから、雪を篠崎さんに見せたかったんだ」

 俺は出来るだけ自分の気持ちを正直に話した。すると彼女の頬が、みるみる赤くなり、俯いてしまった。

 この反応は……?。

「篠崎さん、俺……自惚れてもいいかな? 篠崎さんも俺の事……? もう一度訊いてもいいかな? それともやっぱり、来年の夏まで待たないとダメかな?」

 俺は、期待を込めて彼女を見つめると、問いかけた。

 彼女は、今度は静かに首を横に振った。

「それって、待たなくていいって事?」

 尚も俺は問いかけた。今度はコクリと頷いてくれた。

 彼女と目が合った。俺は思いを込めて彼女を見つめる。

「じゃあ、俺と付き合ってくれますか?」

 彼女が「はい」と言って頷くのを、俺は夢のように見つめていた。


今回は「いつか見た虹の向こう側」の第一章の#06・#07の部分の慧視点になります。

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