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あの虹の向こう側へ  作者: 宙埜ハルカ
第二章:婚約編
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#01:実家への報告

長らくお待たせしてすいません。

覚えていて下さったら嬉しいです。

クリスマスイブですので、こっそりと更新させて頂きます。

どうぞよろしく。


 高速道路を走る車の中で、ラジオから流れるクリスマスソングに合わせ無意識にハミングしている俺は、きっと浮かれているのだろう。

 そんな自分に気づき苦笑する。俺らしくないなと思いながらも、頭の中は先ほどまでの出来事を、何度もリピートさせている。あいつを抱きしめた時の感触が、まだこの腕に、この胸に残っている。

 あいつと別れてからの3年と9ヶ月、それらの日々が走馬灯のように過ぎ去る。苦しんだ日々も、悩んだ日々も、全て過去だ。


「ただいま」

 クリスマスに突然帰って来た俺を、実家の家族は驚きながらも喜んで迎えてくれた。2日前に姪と甥にクリスマスプレゼントを持って帰ってきたばかりだったから、驚くのも無理は無かった。

 子供達がサンタクロースに貰ったと言うプレゼントを競うようにして見せ、リビングのカーペットの上でプレゼントの玩具を広げて遊び始めた。そんな幸せなクリスマスの午後の風景を見つめながら、ソファーに座って出されたコーヒーとケーキを頂く事にした。ケーキは昨夜母と兄がダブって買って来て余っていた物らしい。


「お前、クリスマスに実家に帰ってくるとか、本当に彼女いないんだな」

 目の前のソファーに座った兄が呆れたように言う。

 あいつと別れてから、俺の恋愛に関しては余り口に出さない家族だったが、兄だけは時々「彼女できたか?」と訊いて来る事があった。その度に「出来ない」と答えると、それ以上は何も言わなかったが、その会話を聞いていないフリしている他の家族達も、気になっているのがミエミエだった。皆に心配と気を遣わせてきたんだなと、改めて家族の有り難味に胸が熱くなった。

 しかし、今回の兄の発言は、義姉には不興だったようで、思い切りエルボーを食らわされていた。そんな様子も微笑ましく思いながら、俺はニコニコと「今朝会って来たよ」とさらりと答えた。

 俺があまりに自然に答えたからか、一瞬「そう」と流しそうになった家族達は、次の瞬間「ええっ!?」と大声を上げた。


「け、慧、まさか、か、彼女出来たのか?」

 驚いた兄は、噛みながらも問い返してきた。

「ん、まあね。今日はその報告をしに……」

「今朝まで一緒に居たのか? 一緒に居たのなら、どうして連れて来ない?」

 兄は俺の言葉を断つ様に、興奮気味に質問を重ねる。他の皆も身を乗り出す様にして俺を見つめている。皆の目が聞かせろと催促しているのが分かった。

「まあまあ落ち着いて。それから、朝まで一緒にいたんじゃなくて、今朝会ったの」

「そんな事どっちでも良いよ。そうじゃなくて、どんな子なんだ? どこで出会ったんだ?」

(かい)、気持ちは分かるが落ち着け。慧が報告に来たと言うんだから、静かに聞こうじゃないか」

 加速気味に興奮する兄を諌める様に守谷家の家長が口を開くと、場の雰囲気が落ち着いたものになった。そんな父の横で母が優しく微笑んで大きく頷いた。

 皆が静かに聞く体制に入ると、妙に恥ずかしくなり、俺はコホンと咳払いをした。


「皆には言ってなかったけど、実は今年の四月に美緒と再会したんだ」

 ここまで言っただけで、また皆に驚く顔をさせてしまった。

「美緒って、元カノの美緒ちゃんの事?」

 焦った様に口を挟んだのは兄の奥さんである義姉だった。俺があいつと別れて落ち込んでいた時に活を入れてくれた人だ。

「そうだよ」

 話し出した途端に口を挟まれた事で少々ムッとして返事を返すと、義姉の目は大きく見開き、先程の兄の様に興奮を加速させる。

「うそー!! 素敵! 運命の再会ね!」

詩乃(しの)、興奮するな。慧にしゃべらせろ」

 先程までの自分の興奮具合は棚に上げた兄が、義姉に忠告する。彼女はハッとして「ごめんなさい」と謝った。


「いや、いいんだ。黙ってた俺も悪いから。実は俺と別れる直前に、美緒のお姉さん夫婦が3歳の息子を残して事故で亡くなったんだ。美緒はその甥を自分の子供として育てる決意をして、当時大学生だった俺を巻き込めないと思って、俺には何も言わず別れを告げたんだよ」

 あいつとの別れの原因を話すと、皆は痛ましそうな表情になった。

「お姉さん夫婦が亡くなった事、あなたは知らなかったの?」

 もっともな疑問を母が口にする。

「あの頃、春休みで一ヶ月ぐらい実家に帰っていた事があっただろ。その間に亡くなったみたいで……だから知らなかったし、美緒にはお姉さん夫婦は海外転勤になったって言われたんだ。最近までそれを信じ切って、疑いもしなかったよ」

 説明しながらも仏間飾られたお姉さん夫婦の優しく笑った写真が脳裏をかすめる。あいつに嘘まで付かせなければいけなかった自分の不甲斐なさが悔しい。


「それで、再会したって言うのは?」

 話しながらもいろいろな想いに囚われて黙りこむ俺に話を促すように、母が再び口を挟んだ。

「その甥が今年小学生になって、俺の居る小学校へ入ってきた。それも俺のクラスに」

 あまりに皆の想像の斜め上をいっていたようで、驚くと目を見開くと言うが皆の目が通常の1.5倍から2倍程も大きくなった様に見えた。

 それはそうだろう。こんな偶然、ご都合主義過ぎてドラマの設定にも使わないんじゃないかな。だから運命だなんて思ってしまう俺は、やっぱりどこか浮かれているんだろうな。

 それにしても、どこまで詳しく話せばいいのか。再会して結婚する事にしたと簡潔に話せば、きっと質問責めに合うだろう。

 俺は悩みながらも、再会してから今日までを思い出しながら話し始めた。


「今の小学校は美緒の母校で、美緒が最初の赴任先のK市から甥の小学校入学に合わせて転勤して、実家へ戻ってきたんだよ。でも最初は甥だなんて知らないから、子供の居る人と結婚したのかと思ってた。だから、担任と保護者として接していたよ。お互いにまったく初めて会った様な顔してね」

 思わず苦笑が漏れる。話しながらもあいつと再会してからの出来事が頭の中で渦巻く。今朝、幸せな結末を体感したばかりなのに、まだどこか現実味が無い。

 皆は驚きすぎたのか、声も出せずに俺を凝視して話の続きを待っている。


「でも、美緒がクラス役員をする事になったから、結構顔を合わす機会が多くてね。お互いに気持ちを隠したまま緊張しながら会話してたよ」

 義姉が思わず「クラス役員って、美緒ちゃん立候補したの?」と口を挟んだ。俺は「くじ引き」とだけ答えたが、内心そのくじ引きを操作した自覚があるので何となく後ろめたい。母が「詩乃ちゃんも幼稚園の役員さん、くじで引いちゃったのよね」と笑ったのでスルーする事にした。


「それから秋頃に、1年の学年主任の先生から美緒が亡くなったお姉さんの子供を育てていると聞いたんだ。どうやら学年主任の知人が美緒のご近所らしくて耳に入ったらしい。俺が初耳だと言ったら驚かれたけど、本人が言いたくない事のようだから、その事には触れないようにしましょうって言われて、教師の立場としてプライベートに踏み込めなかった。だから、美緒の方から話してくれるのをずっと待ってた。それに、その時でもまだ美緒には別に想う相手が居ると思っていたし、美緒の方は俺に対する罪悪感から、お互いに真実も気持ちも言えずにいたんだ」

 あの頃の葛藤の日々が思い出される。大学祭での事や、拓都の入院の事。辛かった気持ちが甦ったからか皆の表情までしんみりして見えた。


「そんな時に大学のサークルの先輩で美緒の友達が、仕事を辞めて地元に戻ってきて、養護教諭の臨時採用として俺のいる小学校へ来たんだ。彼女は美緒から俺がいる事は聞かされていなかったみたいで、とても驚いていたし、俺も驚いたよ。それで俺は美緒には訊けなかった事をやっと昨日その先輩に訊いて、美緒の別れの真実を知って、今朝から美緒に会いに行って話をして来たんだ。それで、結婚する事にした」

「えー!!!」

 皆が綺麗にハモって驚きの声を上げた。

「け、結婚って……」

「今朝話をしてもう結婚なのか?」

「キャー!素敵!」

「美緒さんの甥の父親になる覚悟は有るのか?」

 戸惑う母と兄、興奮する義姉、そして冷静な父。

「もちろん有るよ」

 父以外の言葉は無視して返答する。

「美緒ちゃんもOKなの?」

「そんなに簡単に決めていいのか?」

「いつ結婚式するの?」

「今は良くても、自分の子供が出来たらどうだ? じっくり考えたのか? 分け隔てなく育てていく覚悟が無いなら、賛成しかねるぞ」

 相変わらず皆が口々に質問を繰り返す。しかし、冷静な父親の言葉に、他の全員が黙り込んだ。

「それに、彼女の甥はお姉さんの子供と言う事だから、篠崎家の跡取りだったんだろう? その辺の事は考えてるのか?」

 父親の思い至りもしなかった質問に、俺は返す言葉を失くした。そう言えば、昔あいつを両親に紹介した時に、あいつの姉は婿をもらって家を継いでいると話したっけ。でもそれは、母親を一人にしたくない事と、妹が実家の事を気にせず結婚できるようにと言う姉の思いからだった。別に跡継ぎのいるような家じゃないと、あの頃あいつは言っていた。

 それでも、俺たちの結婚によって拓都の姓が変わると言うのはとても大きな変化だ。それに、出来るだけ拓都の環境を変えたくないから、俺があいつ達の住まいに入ろうと考えている。それなら、俺が『篠崎』になるのが一番良いんじゃないのか。


「父さん、俺が『篠崎』になってもかまわないだろ? 『守谷』は兄さんが継いでいるし」

「ええっ! おまえ、婿養子になるのか?」

「そうか、そうだな。そこまでの覚悟があるなら、頑張れ。応援するよ」

 再び驚きの声を上げた兄とは対照的に、納得したように微笑み頷く父の言葉は心強いものだった。

「父さん、ありがとう。兄さん、俺は出来るだけ俺たちの結婚で、美緒の甥の拓都の環境を変えたくないと思ってる。それは婿養子になるという事じゃなくて、『篠崎』の方の姓を名のると言う事なんだ」

 俺の真剣な説明の勢いに飲まれたように、兄は反論も出来ずコクコクと頷いた。

「慧、あなたが『篠崎』になっても私達の子供に変わりないからね。それからあなたの新しい家族は私達の家族でもあるんだからね」

「母さん、ありがとう」

 優しく微笑みながら言う母の言葉に、俺は心からの感謝の言葉を返す。

「俺がこうして仕事も結婚も自由に出来るのも、理解有る両親と、実家の事業も守谷の家も兄さんと義姉さんが守っていてくれるお陰だと、本当に感謝してる。皆、ありがとう」

 俺は感極まって零れそうになる涙を堪えながら、皆に向かって深々と頭を下げた。


「それで、美緒さん達にはいつ会わせてくれるの?」

 家族の有り難さに胸を震わせた余韻に浸っていた俺を、母親は嬉しそうに引き戻した。

「それは、3月の終わりまで無理だ」

「ええっ、どうして?!」

「俺は拓都の担任だろ。今年度が終わるまでは拓都に俺の事を意識させたくないから言わないつもりなんだ。だから、年度末まで美緒と拓都にはプライベートでは会わないつもり。もちろん、美緒と連絡は取り合うけど、みんなに紹介するのは3学期が終わって、拓都に俺と家族になる事を了解してもらってからだと思ってる。その点は分かって欲しいし、待っていて欲しい」

 喜んで受け入れてくれた家族の気持ちを、半減させてしまうようなお願いだとは分かっていたが、これだけは譲れない。

「それは仕方ないわね。でも、慧も成長したわね。自分の気持ちよりも拓都君の事を優先したいのね。そう言う事なら、3学期が終わるまで首を長くして待ってるわ。ねぇ、あなた」

 母は同意を求めるように父に声をかけた。父も「そうだな」と優しく微笑んで頷いた。





 





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