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あの虹の向こう側へ  作者: 宙埜ハルカ
第一章:再会編
6/85

#06:罠

お待たせしました。

今回は「いつか見た虹の向こう側」第一章#05;罠 とリンクしています。

どうぞよろしくお願いします。

 このざわざわした気持ちはなんだろう?

 本当はもうとっくに気付いていたのかもしれない。自分の中のこの不可解な気持ちの正体に。

 でも今は知らない振りをしていたかった。

 そんな感情は厄介なものだと思うから。

 反対の立場で振りまわされたから、自分がその立場に立つのは遠慮したい気分だった。

 そしてなにより、本郷さんの言った通りになるのが癪だった。


 ――――――美緒はあれでも結構モテるのよ。


 確かに彼女のあの癒しの微笑みに参る奴はいるだろう。

 けして美人ではないけれど、彼女の周りの陽だまりのような温かさに惹かれる奴もいるだろう。

 自分だってその一人じゃないかと自嘲気味に苦笑する。

 だけど、元はと言えば、じろじろ人の事見て来たのはあっちの方じゃないか。

 いくら人に見られるのに慣れてるって言っても、あんな無遠慮な視線、気にならない方がおかしいよ。

 あっ、あれは観察か……って、観察ってなんだよ?

 人の事、珍獣か何かだと思ってるのか?


 ――――――美緒は恋愛体質じゃないから。


 分かっていたさ。彼女の視線に熱を感じなかったから。

 それでも、あのまっすぐな視線に、俺はいつだって落ち着かなかった。

 もしかして俺は、嵌められたのか?

 それとも自ら墓穴を掘ったのか?

 それでも今日の彼女を思い出すと顔を緩むのが分かった。

 怒って改札を抜けて行ってしまった彼女を追いかけて、ホームで追いついた時に真っ先に謝ると、彼女の方も情けなさそうな顔をして「私の方こそ大人げなかったわ」と謝罪の言葉が返ってきた。

 俺の方が言い過ぎたんだともう一度謝ると、彼女はお互い様だと笑ってくれた。

 拗ねたように怒った彼女も可愛かったけれど、すぐに素直に謝って、照れたように笑った彼女からも目が離せなかった。

 いろいろな表情を見せてくれる彼女を知って、俺はやはり自ら穴を掘ったのかもしれない。


 ――――――でも、何度告られても『好きじゃない人とはお付き合いできません』って断っちゃうのよね。

 

 へぇ~と思いながら、心のどこかで安堵している自分がいる。

 でも、彼女が好きな人から告られたら?

 恋愛に興味がないって本郷さんは言ってたけど、好きな人はいないのだろうか?

 いくら親しい友人でも、心に秘めて言わないかもしれないじゃないか。興味がない振りしてるだけかもしれないじゃないか……。


 彼女のあの微笑みが、誰かのものになってしまったら?

 そうなったら仕方ないよ。

 まだ今なら諦めがつくだろう?

 本当に?


 結局俺の一人相撲なのか……。

 恋愛感情の全くない彼女の行動に翻弄されて、一人本気にさせられるなんてバカみたいじゃないか。

 こうなったら彼女も巻き込んでやる。

 俺を観察対象にした事を後悔しても遅いんだからな。


     *****



 大学祭は思った以上に大盛況で、大型折り紙もそうだったけれど、クリスマスツリーのオーナメント作りのワークショップが意外に女子高生に受けたらしくて、沢山集まってくれた。


「守谷効果だよな」

 伊藤先輩が後片付けをしながらそんな事を言う。どうやら、俺が校門のところでワークショップ開催のビラ配りをしたからだと言いたいらしい。


「そうそう、守谷君はいい餌だったよねぇ」

 餌だって?

 俺は餌発言をしながらニヤニヤ笑ってる本郷さんを睨んだ。


「美鈴、なんて事言うのよ。守谷君のお陰で大盛況だったんだから。守谷君、ありがとう」

 篠崎さんは本郷さんを咎めると、俺の方を見て癒しの微笑みでお礼を言った。

 これは飴と鞭か?

 鞭の後の飴の甘さに、さっきの怒りが溶けて行くような気がする。

 俺も単純だな。

 大学祭の前夜に自覚してしまったばかりに、彼女の微笑み効果がここまで絶大になるとは。

 俺は小さく息を吐くと「いいえ、お礼を言われる様な事はしてないから……」と少し苦笑しながら言った。

 そんな俺を意味深な笑いをにじませた眼差しで本郷さんがチラリと見る。

 あーもう。

 昨日は強気で「協力お願いします」と言ったけれど、やはり本郷さんには弱みを握られた事になるのか……。



 そして、大学祭の打ち上げのコンパで、俺はうんざりとした気分を張り付けた笑顔で押し隠していた。

 肝心の篠崎さんの傍へ行こうにも、女の子たちに取り囲まれ身動きとれない。

 お前らいい加減にしろよ。普段サークルに出てこないくせに。

 俺は心の中で悪態をつきながらも、篠崎さんのあの無遠慮な観察視線を感じ、女の子達を突き放す事も出来ない。一応サークルのメンバーだし……と心の中で言い訳しながら、送られてくる視線の方には向く事も出来ない。

 なんだよ、これは。どんな拷問なんだ。

 気付けばさっきまで隣にいたはずの伊藤先輩がいつの間にか消え、篠崎さんや本郷さん達の傍にいるじゃないか。

 

「楽しそうですね」

 トイレへ行くと女の子達から抜け出し、その後は元の席に戻らずに篠崎さん達がいるテーブルに近づき声をかけた。

 驚いた三人に拗ねたような目を向けながら「伊藤先輩、酷いですよ。自分だけさっさと先輩達の所へ抜け出して……」と言うと、伊藤先輩は慌てたように手を振った。


「いや、違うって。俺はおまえのファンに追い出されたんだよ」

 伊藤先輩まで、ファンとかって……。

 俺が心の中で嘆息していると、ニヤニヤと笑う本郷さんがいつものようにからかってきた。


「守谷君、今日のコンパの女子の80%は、守谷君狙いだよ」

「本郷さん、俺は獲物じゃありませんよ」

「いやいや、守谷君が餌だと、食いつきがいいのよ。コンパの参加率も急上昇。女子に限ってだけどね」

「なんですか、それは? 俺をからかってます? それより、楽しそうでしたけど、何の話をしてたんですか?」

 俺は本郷さんのからかいから逃れるべく、強引に話を変えながら、何気なさを装って篠崎さんの隣に座った。

 本郷さんの意味深な視線なんか無視してやる。


「ああ、そうだ。守谷、おまえ、この間美緒先輩を送って行った時、先輩を見下すような事言ったのか?」

 先輩を見下す?

 突然の伊藤先輩の思いがけない質問に、俺は困惑した。


「伊藤君、その事なら、もういいよ」

 篠崎さんも、伊藤先輩の言葉に戸惑っているようだったけど、俺に見下されたって話した訳だ。

 

「篠崎さん、見下すってどういう事ですか?」

 俺はカッとなって、横に座る篠崎さんの方を向くと、ストレートに問い詰めた。

 見下すって……あの「年下のくせに」と彼女が言ってからの一連の会話の事か?

 あの事はあの時に謝ったはずだ。彼女もお互い様だと笑ったじゃないか。

 まだ根に持っていたのか……。


「だから、もういいのよ」

 彼女が切り捨てるように言うから、俺も「よくないです」と切られてたまるかと言い返す。

 

「まあまあ、守谷君。美緒のいつもの愚痴だから……。男の人にバカにされたくないって言う……」

 本郷さんが俺達を諌めようと口を挟んだけれど、俺はその言葉にまたカチンと来た。 

 篠崎さんは俺がバカにしたと思っていたのか?

 あの時のお互い様だと言ったのは大人の余裕のつもりだったのか……。


「俺、篠崎さんを馬鹿になんかした事無いですよ」

「へ~そう? 年上の私に負けてるって言ったの、守谷君でしょ?どうせ私は可愛くも無いし、大人でもないわよ」

 やっぱりまだ根に持ってたんだ。

 それにしても篠崎さんって、すぐに逆ギレするんだ。でもその逆ギレの仕方が、妙に可愛い。

 俺は内心クスリと笑った。


「はいはい、そんな風に一人いじけてたら、余計に可愛くないわよ。美緒、飲み過ぎじゃないの? 守谷君、美緒は勝手にいじけてるだけだから、放っておいてちょうだい」

 本郷さんは篠崎さんを(いさ)めたいのか、(あお)りたいのか。

 どうやら篠崎さんのいじけ心をまたまた刺激したようで……。


「守谷君、ほらファンの子たちが、こちらを睨にらんでるわよ。私達の様なお姉さんの所じゃ無く、あなたに似合う年頃の女の子達の方へ行きなさいよ」

 逆ギレを通り越して八つ当たりですか?

 それにしてもどうしてそんな事を言うかな?

 

「篠崎さん、俺に合う年頃ってどういう事? 篠崎さんにしたら、俺は年下で頼りないって事?」

 

「そうよ、年下は頼りないの! ほら、あの子達睨んでるから、早く行きなさいよ。関係のないこちらが恨みを買ったら嫌だもの」

 ああもう、この人は!

 そうやって周りを攻撃して自分を守っているのだろうか?

 あなたがそんな事を言うのなら、こちらもあなたを巻き込みますよ。

 後悔しても遅いですよ。


「篠崎さん、それなら俺が年下だから頼りないかどうか、試してみてくれませんか? 俺の事よく知りもしないのに、年下だからってだけで頼りないって決めつけられたくないんです」

 売り言葉に買い言葉のごとく、俺は彼女の偏ったプライドを刺激していく。そして俺は、罠を仕掛けた。


「わかったわよ、試してやろうじゃないの!」

 受けて立った彼女があまりに可愛く思えてしまった。

 篠崎さんは自分が罠にはまった事、分かってないんだろうな。


「じゃあ、俺と付き合って下さい。前言撤回は認めませんよ。それじゃあ、また連絡します」

 俺は嬉しさのあまり口元が緩むのを堪えられなかった。けれど、彼女が俺の罠に気付いて断るといけないので、すぐに踵を返してその場を離れた。そして俺は、心の中でガッツポーズをしながら緩みそうになる頬を必死でこらえ続けていた。

 

 

今回もお話を読んでくださり、ありがとうございます。

沢山の方にお気に入り登録して頂き、とても嬉しいです。

なかなか進まなくて、本当に申し訳ないですが、

もう少し更新速度をアップできるよう、がんばります。



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