作戦会議
「やべぇ、マジヤベェよ」
「…落ち着きなさい。そー。今更慌てたって。どうなるものでもないわ」
「いや、そうだけどさ。何かこう、気分がムカムカするというか」
「まぁ、安心したまえ、そう。もし、本当に『特別クラス』に行くことになった時には
私がなんとかしてやるから」
ポンと舞は自分の無い胸を叩いた。
「いや、舞。お前には頼むことはない」
しかし、そーは冷たく舞の提案を拒絶した。
「は?何で?」
「どうせ、お前のことだから、金で買収するんだろ?
私は、そんな汚い真似するくらいなら死を選ぶ」
「そーさ~ん。命は大切にしてくださいよぉ~」
澄香が、棒ゼリフ気味に気遣う言葉を言う。
「澄香…。気遣ってくれるのは嬉しいが…。この通り」
そーは、懐から封筒を取り出した。
そこには、筆で『遺言状』と書かれていた。
「いつでも死ぬ覚悟はできている。無駄な生き恥を曝すくらいなら、私はいっそ死を選ぶ」
すると、ヒョイっと舞がその遺言状を奪いとり、そそくさと中身を広げた。
「え~、何々。……豚肉100グラム98円。春菊1束100円。きゅうり3本98円」
「あぁ、遺言状って何書いたらいいかわからんから、メモ帳代わりに使ってんだ。
それ、今日のおつかい」
「あの、何なんですかね、この脱力感は?」
澄香達は、ただ苦笑いを浮かべるしか無かった。
「えー。こほん」
教卓に立つ中年の男が、一つ咳払いをした。
「…まぁ、この遺言書に本気で何か書かれていたら逆に引くでしょ。
だから、これで良いのよ」
「ちょ、百恵。それフォローになってないって」
「そうですよ。ももさん。せめて『あ、今日豚肉焼いて、あと春菊のおひたしと
きゅうりの浅漬ですか』ぐらい言ってあげないと可哀想です」
「いや、澄香。それもフォローになってないというか。勝手にうちの夕食の献立を
想像しないでくれ」
「あ、新山さん。今日は、きゅうりすりおろして、豚肉の浅漬と…」
「もういい。舞。お前は、何も話すな」
「えー。あのそこの君たち。授業はとっくの昔に始まっているのだがね」
……。
…。
一瞬の沈黙を破るかのように、舞がこう提案した。
「よし、じゃあ今から真面目な議題。
そーの『赤点脱出計画』。ちゃっちゃーん」
「…突然まともになったな」
そーは、訝しげに舞を見た。
まるで裏があると疑っているかのように。
だけど、舞は動じない。
「まぁ、私たちも高2になったわけだから?
少しは真面目に生きないとね。って思ったのですよ」
「なら、授業を真面目に受けてくれ。橋田」
英語教師の熊谷は、少し諦めたような口調で呟いたが、彼女たちの耳に入る筈もなかった。
何時ものように諦めたのか、それ以上注意することはなかった。
そして、授業終了のチャイムが鳴った後も、彼女たちの会議は終わることはなかった。
「あのさ、少しはまともな意見出してくれよ。
睡眠学習の枕買ってみるとか、当事者の私にとって、厳しい物ばかりじゃないか」
そーが、頭を悩ませていた。
「ふむ…。だったら、中国の蓬莱山て所で…」
「却下!というか、舞。
今から30分間、アニメ、漫画、ゲームネタを使用することを禁じる!」
「うぉ…おお…ぐほっ!!!」
「ちょっと、舞。何で呼吸まで止めているんですか!?」
「…前に言ってた。自分の呼吸は波紋法だって」
「ちょ…。馬鹿だ。こいつ。……ちっ。とりあえず10分ぐらい何も話すな。それだけでいい」
「サンキュー」
「話すなって言ってんだろ」
「まぁ、これで邪魔者がいなくなったところで、
何か赤点を防ぐ方法ってないかな、真面目な話」
「…真面目に授業受けて、勉強する」
「無理、無理!私が、そんな芸当できてたら赤点なんて取らないって」
「じゃあ、カンニング?」
「却下だ、澄香。汚い真似なんてごめんだ」
「む~、む~」
舞が、口を閉ざしながら、何かを伝えようとジタバタした。
「な…何だ。まともな意見でもあるのか。まぁいいや、話してみろよ」
「えっと、イケナイ家庭教…」
「つまらん、死ね!」
再び、舞の口は、そーの右手で塞がれてしまった。
と、百恵が一つ提案を出した。
「…だったら、学年1番の人にみてもらうっていうのはどうかしら?」
「学年1位?百恵の事か?」
「…違うわ。私は、良くて10位以内よ」
「いや、それでも十分すごいんだけどな」
「で、1位って誰ですか?」
「…あの人」
百恵が指さしたその先には、机の上に突っ伏して眠る一人の男子学生がいた。
「えっと…、誰だっけ?」
「私も、あまりよく…」
「…相田拓人。今年、転校してきて突如今回の中間試験でトップを取ったダークホース。
なのに授業中は常にああやって眠っている。謎の男子生徒」
「あれ?何でももさんそんな事知ってるんですか?」
「…私、これでも学級委員長だし」
「そっか、忘れてました」
澄香が、苦笑いを浮かべた。
「謎の天才転校生、なんかよく知らんがかっけえな」
「…だから、あの人に勉強の方法を聞けば良い。
きっと私以上の勉強方法を知っているはず」
「なるほど!!さすが、百恵。
…ちなみに教えてくれ。百恵はどんなやり方で勉強してるんだ?」
「…ん。一応、学校では遊んでリラックスしたら家で、夜中のさん…」
「あぁ!!!言うな、言うな!!!!鳥肌がぁぁぁ!!!」
そーは、怖いものを見たかのように百恵の言葉に震えた。
「…まぁ、もしかしたら私以上にハードな事してるかもしれないけど、
とりあえず聞いてみたら良いんじゃない?」
「おっし。そうだな!ちょっと行ってくるわ」
そーは、席から立ち上上がるとツカツカと相田の席に近づいた。
そして、右腕を大きく振りかぶるやいなや……
「チョップ!!!」
相田の後頭部めがけ手刀を振り下ろした。
「あれ…起きない。じゃ、もうい…」
「ちょ…そう!いきなり知らない人に何してるんですか?」
慌てて澄香が、そうの右手を掴んだ。
「何って。気合入れて…」
「ちょっと、駄目ですって。曲りなりにもこれから教えを乞おうとしている人に対して」
「ん、あ。そうか。よし、お~い、起きろ~」
すると、その声に反応したのか、嫌そうな表情を浮かべ相田は顔を上げた。
「何か用か?」
相田の視線ががそーの視線と重なった。
「…」
突然、そーの頬が真っ赤になった。
「あ、あのさ、その…」
相田の前でそーがもじもじし始める。
まるで、それは…
「むむー。むむむーむーむーむうー?」
「…私の前では、口開いていいよ?舞」
「もしかして、そー。乙女モードに入っちゃった」
「…かもね」
「ったく、元女子中だからって、未だに耐性無いとか驚き。
しゃーない。そーには、口開いちゃいけないから…。
澄香、フォローしてあげて」
「オッケーです。あのですね…」
澄香は、ぐいと体を前に乗り出し、見上げる相田の視線と合わせた
「このそーさんは、あなたに勉強方法を教えて欲しいと請い願っているのです。だから…」
「特に無い」
そう一言発すると、また机に突っ伏してしまった。
「あの~、特に無い。って、宿題をちゃんとするとか。夜10時以降は最低2時間勉強するとか
特に無いんですか?」
「……」
代わりに聞こえてきたのは、寝息。
「こりゃダメですね」
「あ…あぁ、そうだな」
二人は席に戻ってきた。
「はぁ、緊張したぜ」
「へぇ?男勝りのそうちゃんでも、本物の男の前じゃしおらし…」
「お前は、一生黙ってろ!!!!!!!」
舞の顔面にそーの右ストレートが突き刺さった。




