入学の心得
2050年、春風が心地よく感じる。風が頬を撫でてくれているような今までにない気持ちの良い風だ。こんな都会にも山とそして・・・こんなに大きな桜の木があったとは予想だにしなかった。風が気持ち良いのはこの桜の花びらのおかげかもしれない。
「おーい。リュウぅー?あんた学校に遅れるわよ。」
「わかってるよ。もう支度は済んでるし、走れば間に合うよ!じゃあ行ってくるよ。」
「入学式行けなくてごめんね。頑張ってらっしゃい。」
「行ってきまーす。」
そう言って全力疾走で家をあとにした。俺は引っ越してきたのだ。学校のために・・・ここの県にある闇能者討伐生徒育成学校に入学するためだった。15歳になると晴れて自分の人生を選べるという分かれ道を選べるのだ。
道には普通の人間と討伐能力者になるという2つが存在する。討伐能力者の仕事は命に係わることがあるので親の意見が大きいところなどが多いが、俺の場合、その学校の先生に父親がいた。だから親に進められた。普通じゃない意味で。
しかもやる気があるだけでこの学校には入学できる。だから入試なんてものはないのだ。
「おっとっと・・・ごめんなさーい。」
自分が昔住んでいたところよりも人は少なかったがやはり通勤ラッシュや討伐能力生徒の多さで時折当たってしまった。家から走ってから約10分で学校に着くことができた。
「ここが・・・今日から通う学校か・・・」
「おいこら!新入生!ギリギリじゃないか!ミッションでそんなことは許されないぞ!」
突然の怒鳴り声に体が硬直し足が止まってしまった。逆の意味で遅れをとってしまうではないか!
「何してる!早く教室に向かわんか!」
俺は渋々と視線を感じながら靴箱へと向かった。靴箱を過ぎた目の前の廊下のところに張り出されている教室の割り振りを見て教室へと向かった。教室には女子から男子・・・ごつい奴からきゃしゃな奴といろいろいた。俺が入ったと同時に説明の先生も入ってきた。
「えー新入生のみなさん、この度は入学していただきありがとうございます。厳しいことしかありませんがそれはみなさんのやる気でカバーしてください。今後のご検討を祈ります。」
まぁ普通のあいさつだな。どこの学校でも一緒みたいな感じだよなと思いながら今後の説明を聞いた。そして入学式はグラウンドで行われた。余裕で10万人でもはいれそうなグラウンドだった。入学式も終わり教室へと戻った。
!!!。教卓にいるのは・・・
俺の父親だった。
「早く席につけ。」その一言だけ言って全員を座らせた。もしかして・・・まさか親父が・・・
「今日から約5年間、お前達の担任をすることになった黒鬼斬(くろき きりさき)だ。専門使用武器は剣の大剣だ。よろしく。」
生徒の間でどよめきの声が洩れた。斬でキリサキって名前だなんて珍しい以上のもんだから。それとこの学校には剣、銃、素手(ナックル)という武器を自分で選び極めて闇の討伐をするのだ。
「それじゃあ、ほとんどの生徒が初対面だろう。一人一人自己紹介してもらおう。」
そう言われて出席番号順に自己紹介していて自分の番が回ってきた。
「黒鬼龍(くろき りゅう)です。よろしくお願いします。」
それを言った途端また生徒からどよめきの声が洩れた。あーこのパターンあれだよな。この時間が終わった休憩時間に誰か押しかけてくるんだろうな。
それから最後の30人目まで自己紹介が終わった。そして狭間休憩時間となった。この学校では授業と授業の間の休みを「狭間休憩」と呼んでいる。その狭間休憩は実に久しぶりに楽しいものであった。
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「お前、先生と同じ名前だけど・・・。」
ほらやっぱり来た。でも1人や2人じゃなかった。クラスの半分以上は俺の机の周りに集まっていた。そして俺は次々と飛んでくる質問に率直に答えた。俺はこれで人気があるほうなのかと思った。そうと思ったがもう1つ教室の隅で塊ができているところがあった。女子生徒だった。あいつの名前はたしか・・・飛雷弩威瑠(ふらいど いる)だったっけな。まぁかなり珍しい名前だと思う。俺もいろんなことを聞いてみたいぐらいだ。
新しい学校に来たわりには早く友達ができたと思う。いろんな人とウォッチテレパスのメアド交換もした。ウォッチテレパスとは腕につけるもので通話やメールなどの情報交換が可能な通信電子機器である。いわゆる2020年ぐらいまで使われていた携帯電話と同じようなものである。一人一人の名前を確認しながら情報データを登録していった。
いろんな人が俺の情報もっていったな。相性が合いそうな奴ばかりではなかったが、今はまだ気にならなかった。
「龍君だよね。私のデータも交換しようよ。」
「あ、うん。いいよ。」と短く言葉を返してデータの交換をした。
「龍・・・って呼んでいい?」
「あ、ああ。OKだよ。」
あまりの唐突さに言葉を失いかけた。そしてなんか話を長引かせないといけないと思ってしまった。
「あの飛雷弩さん・・・」
「威瑠でいいよ。」
「あ、ああ威瑠さん。ほかになにか御用ですか。」
それを聞いて威瑠はクスッと笑った。自分で後悔をしてしまうような言葉を言ってしまったとあとから思ってしまっていた。
「んー?特に聞くことはないんだけど・・・あっそうだ!専門武器決めた?」
それを聞いてあっ!と声を出して思いだした。狭間休憩が終わったら専門武器調査があったことを忘れていた。みんなが寄ってたかって来たから忘れてしまっていた。
「そういえばあったな。うーん今のところまだ決めきれてないな。それじゃ?威瑠は何の武器か決めたのかい?」
「うん、素手でいこうかなぁって。」
意外すぎて言葉を失った。女の子が・・・女子が素手!?ああ、こんなこと言ってしまったら差別になってしまうな。
「そうなのか、頑張れよ。」
そう短い言葉をかけると、うなずいて席へと戻っていった。
さて・・・武器か・・・もう決めなくてはならないのか。そう思って狭間休憩が終わるまでうつ伏せのままでいた。武器で生涯が変わるといってもいい重大な選択だ。決して間違ってはならないことだろう。




