世界
黒、と聞いたら何を連想するだろう?
暗闇?暗黒?絶望?それとも、死?
黒はそうやっていつの間にか暗く悲しいイメージがつけられてきた。それはきっと俺の生まれる前から、ずっと。
結論から言わせてもらえば、俺は黒は嫌いではない。黒は何にも染まらない。自分を保つことができる。何にも囚われず、屈せず、染まらず。勿論、周りの連中はレッドやらイエローやらグリーンやらブルーやら、そんな色が好きなようだった。
でも、それは染まるだろ。他の何かと混じってしまえば、違うものに。
俺はそういうのがなんだか軽薄で浅はかで、馬鹿馬鹿しいと思われるだろうが、そんな色が好きな奴らをどこか見下して軽蔑していた。
そんなくだらない持論は子供のころから変わらないのだから、この先もずっと、俺が死ぬまでおうなんだろうと思っている。
今日も1日が終わる。夕日は沈み、辺りが暗闇に_つまり黒に染まっていく。
その様子を見ながら、漆黒の車を車通りの少ない道に止めると、窓を少し開けて煙草を吹かした。
「ニコチンが、足りない」
口に出したところで、それに反応してくれる人間はここにはいない。
しばらく煙草を吸っていると、控えめに携帯が鳴り出した。
『もしもし?生きてるか、ハル』
「久しぶりだっていうのに、その質問はどうかと思うぜ」
かかってきたのは、俺のよく知る幼少時代からの顔見知りだった。腐れ縁というかなんとかで、大人になった俺たちは今でも交流がある。
いや、交流とは、仕事仲間だということなのだが。
しかしお互いやっていることは全く違うため、毎日顔を合わせて話したり一緒に仕事をすることは無い。だから、最近では会うどころか、連絡をとりあうことも無かった。
『お前が不快に思ったのだとしたら、謝るよ。悪かった。…最近じゃあ周りの奴等が結構惨いことになってるから、もしかしたらお前も』
「そんなくだらねえ話なら、切るぞ」
『……電話では話せないことなんだよ。今日、10時、いつものバーで待ってる。』
いきなり呼び出すなんて、何考えてんだと言ってやろうと口を開いたが、すぐにプツと電話は切れた。言いたいことだけ言いやがって。まあ、そっち方が手っ取り早くて良いが。
それに、だいたい用件は分かっている。あいつが忙しい時間割いて呼び出すっていうことはな。
後部座席から真っ黒なキャリーを掴んで、助手席に持ってくる。おもむろにスーツの内ポケットに手を突っ込み、ひやりとした硬いものの出す。それは鍵だ。銀色に鋭く光る鍵。そして黒いキャリーを開ける鍵。
鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。ロックが解かれる音が聞こえると、鍵を抜き取りキャリーを開く。
「また、よろしく頼むぜ」
6発詰まった黒く光るそれを胸ポケットにしまうと、俺は車を発進させた。