【第2話】聖女様、ひとまず腰を下ろします
「異界より、ようこそおいでくださいました!」
「……え???」
突然の歓迎の声に、思わず聞き返した。
でも――まぁ、これってアレだよね?
そうだよね?
光に包まれたし。
太鼓鳴ってたし。
絶対に異世界召喚だよね?!??
あたりを見回すと、騎士っぽい男たちがズラリと並んで平伏している。
彼らの視線の先は――俺だ。
俺の真っ正面でひざまずいて、深々と頭を下げてる。
えっ、マジで!?
俺、勇者じゃない!?!?
もう、テンションがぶち上がりだ。
あれこれ想像していた“異世界召喚されし者”の俺、来たコレ。
よし、落ち着け慎……“勇者感”を出すんだ……!
背筋を伸ばして、ドヤ顔を軽く抑えて構える俺。
が。
その瞬間――背後から、聞き慣れた、ゆる〜い声がした。
「……あらまぁ、ここが異世界かいな?」
……え?
振り向くと、そこにはステッキをついたおばあちゃん――
ばあばが、ひょっこり立っていた。
しかも、騎士たちの視線と礼は、まさかの……ばあばに向けられていた!!
「――ばあばぁぁぁぁあああ!?!?!?」
俺の叫び声が、神殿に響き渡った。
「ありゃ、慎じゃないかい。さっきのはあんたの声かい?」
「え、ちょ、ばあば!? まって、なんでここに!?」
「さぁてねぇ。気づいたら光に包まれてて……あんたの後ろに立ってたわぁ」
俺とばあばがぽかんと向き合っていると、騎士たちが静かに立ち上がり、
その中のひとり、鎧姿の壮年騎士が一歩前へ進み出てきた。
「ようこそお越しくださいました、聖女さま」
「……え、聖女!?」
俺じゃないの!?
この状況、どう考えても俺が主役じゃなかったの!?!?!?
動揺する俺を尻目に、ばあばは祭壇みたいな石の台にドッカリ腰を下ろす。
「ここ、ちょうどええ高さやね。腰痛もちにはありがたいわ」
「聖女さま!なにかお飲み物をお持ちしますか!?お茶、湯、果汁水……!」
「ま、なんでもええけど……できたら梅ジュースがええねぇ」
「……梅……? た、ただちに用意いたしますッ!」
騎士団、完全に混乱している。
……俺もだよ!!!
そのとき、金ピカの服を着た少年がずかずかと前に出てきた。
たぶん王子だ。あきらかにプライド高そうな顔をしてる。
「冗談ではない。なぜ、このような老婆が聖女などと――」
ばあばはゆっくりと立ち上がった。
杖をコン、と静かに床につく。
その瞬間――
神殿の天井に飾られたステンドグラスから、朝の光が差し込んだ。
ばあばの背後に虹色の光が広がり、銀糸のような髪がきらきらと光る。
ばあばの顔は、年相応の柔らかさを湛えているのに、
どこか彫りが深く、目元は凛としていて、
その瞳――それは、まるでヒスイのような、澄んだ緑色だった。
神々しい、とさえ思えるその姿に、俺も息を飲む。
「……うちの孫より背ぇ高いくせに、そんなこともわからんのかい?」
ズバァアアン!!!
王子、顔を真っ赤にしてぷるぷる震える。
「……っっ……!!」
口を開きかけては閉じ、何か言いたそうなのに何も言えずに黙り込む。
騎士団、笑いをこらえて肩ぷるっぷる。
俺、メンタル大打撃。
召喚されたのは……俺じゃなかったんだなぁ……。
でもばあばの背中を見ながらふと思った。
あの光に照らされる姿。
あの物腰と、あの目の色。
……ほんとにばあば、ただの人……?
召喚されたのが俺じゃなくても、
世界を救うのがばあばなら――
まぁ、ありっちゃあり、なのかもしれない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今後も、笑いと癒しとちょっぴり不思議な展開をお届けしていきますので、
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