第8話 ただの気の合う友達だったはずなのに...
――日曜日、昼。
ひとりで新宿をぶらついていた。
いつもなら、りりあの横を歩いてる時間。
ふと思い出して、スマホを開こうとした、そのとき──
「あれ……?」
向こうの歩道。
人混みの中、ふわふわ揺れるツインテールが目に入った。
ピンクのトップス、ミニスカート。
歩き方も、肩の揺れ方も見覚えがある。
──りりあ、だ。
けれど、隣に──
見たことのない男がいた。
年上っぽい雰囲気。
落ち着いた服装に、優しそうな笑い方。
ふたりで、肩を並べて歩いていた。
少しだけ距離はあるけど、
近すぎるようにも見えた。
りりあが笑った。
ツインテールがふわっと揺れる。
その笑顔を、ゆうなは無意識に目で追っていた。
──なにしてんだ、俺。
立ち止まったまま、足が動かなかった。
隠れるように、看板の陰に身を寄せる。
ふたりの姿が通り過ぎていく。
それでも、目を逸らせなかった。
りりあは、まるで“俺の知らない顔”で笑っていた。
いつもの甘えた声でもなく、
ふにゃふにゃ崩れた地雷モードでもない。
もっと、自然で、素の笑顔だった。
隣の男に、そんな顔を向けていた。
(……誰だよ、あいつ)
喉が、きゅうっと締まる。
(何、してんだよ……)
指先が冷える。
(俺……何が、気に食わねぇんだよ)
怒ってるわけじゃない。
でも、気持ちがぐちゃぐちゃだった。
気づけば、背中に汗をかいていた。
結局、声もかけられず、
視線をそらして、その場を立ち去った。
──夜。
『ねぇ〜〜〜〜〜、今度いつ会えるぅ〜〜〜〜?』
スマホに、りりあからのLINE。
いつもと同じ、甘えた絵文字付きのメッセージ。
でも、指は止まったまま、返せなかった。
(……何なんだよ、俺)
画面を伏せて、ベッドに倒れ込む。
うるさい。
心臓がうるさい。
好きって認めたくない。
でも、このざわつきの正体は、それしかなかった。
胸の奥で、何かが暴れていた。
──次の日の夕方。
別件で用事があり、新宿を再び訪れる。
ふと、視界の端に、見覚えのある後ろ姿が映った。
りりあ、だった。
そして──また、あの男もいた。
今日はカフェの前で話している。
会話の内容は聞こえない。
でも──ふたりは、やっぱり笑っていた。
ゆうなの胸が、ひゅっと縮む。
そのときだった。
カフェを出たところで、ふたりが立ち止まる。
どうやら別行動になるらしい。
「じゃあね、お兄ちゃん〜〜〜〜!」
りりあが軽く手を振る。
「おう、気をつけてなぁ〜」
男が優しい声で返した。
──お兄ちゃん。
ゆうなは、その言葉に動きを止めた。
(……兄貴……?)
男が手を振って去っていく。
その後ろ姿に、ようやく合点がいった。
あれは、“恋人”なんかじゃなかった。
家族──
りりあの、兄だった。
ゆうなはその場に立ち尽くした。
安堵と、
そして、自己嫌悪。
(……勝手に、勘違いしてた)
(勝手に、嫉妬して……)
スマホを取り出す。
昨日のLINE。
『ねぇ〜〜〜〜〜、今度いつ会えるぅ〜〜〜〜?』
返事を打とうとして、結局何も書けずに画面を閉じた。
(何してんだよ、俺……)
喉の奥が、じんわり熱くなる。
返す言葉が、まだ見つからなかった。




