第6話あの日の感触はそこになく
――日曜日の昼過ぎ。
スマホに届いたLINE。
『今日、ちょっとだるい〜〜〜』
送り主は、もちろんりりあだった。
「まったく……」
カフェでくつろいでいたゆうなは、軽くため息をつく。
だけど、既読スルーなんてできるはずもない。
『なんかいるもんある?』
すぐに返事が来た。
『ポカリとかぁ〜〜〜ゼリーとかぁ〜〜〜〜〜〜〜』
(……しょうがねぇな)
コンビニで飲み物とゼリーを買って、
慣れた道を、りりあのマンションへと向かう。
インターホンを押すと、
ぐだぐだな声が返ってきた。
「ゆうなぁ〜〜〜〜」
ドアを開けると、
ゴテゴテ真っピンクな部屋に、
毛布にくるまったりりあが転がっていた。
「お前……人として終わってんな」
「うるさぁ〜〜〜い〜〜〜〜〜〜」
だるそうにツインテールを揺らしながら、りりあが手を伸ばす。
「お土産〜〜〜〜」
「はいはい」
ゼリーとポカリを渡すと、
りりあは嬉しそうに両手で抱えた。
しばらくソファに丸まってぐだぐだしていたが──
ふいに、
りりあがゆうなにもたれかかってきた。
「……ゆうな、来てくれて、よかったぁ……」
小さな、本当に小さな声だった。
いつもの甘えた演技でも、
地雷系のふにゃふにゃトーンでもない。
素の、弱ったままの、
りりあの、本当の声。
(……なにそれ)
胸の奥が、不意にぎゅっと締め付けられる。
こいつ、ずるい。
こんな顔、見せんなよ。
それでも、顔には出さない。
ゆうなは無言で、
りりあの頭をくしゃっと撫でた。
「早く寝ろ」
その一言だけ、ぽつりと落とした。
りりあはふにゃっと笑って、
目を閉じた。
──結局、そのままぐっすり眠った。
ゆうなは静かに部屋を後にした。
──夜。
スマホが震えた。
『まだちょっとさみし〜〜〜〜』
りりあからだった。
(……まったく)
呆れながらも、すぐに通話ボタンを押した。
「もしもしぃ〜〜〜〜」
布団に埋もれたぐだぐだ声。
「だいじょぶかよ」
「うん〜〜〜〜でもぉ〜〜〜〜、
なんか声聞きたかったぁ〜〜〜」
甘えた寝ぼけ声が、鼓膜をくすぐる。
こっちはただ聞いてるだけなのに、
心臓がバカみたいにうるさい。
お互いに、特別な話はしなかった。
好きな食べ物とか、
次どこ行きたいとか、
そんなくだらない話ばかり。
それでも、切りたくなかった。
「……そろそろ寝ろよ」
名残惜しさを隠して、
ゆうなが言った。
「うん〜〜〜〜〜……」
りりあは、ほんの少し間を置いて、
ぽそりと呟いた。
「……ゆうなの声、聞けて、よかったぁ……」
(……バカ)
言葉にならないまま、
「おやすみ」とだけ答えた。
通話終了の音。
スマホを胸に抱えたまま、
壁にもたれて、ずるずると床に座り込む。
頭をがくりと下げ、
静かに深いため息をついた。
背中に感じるのは、冷たい壁の感触。
──あの日、遊園地の帰りに背中で感じた|"温もり"《ゆうな》とは、まるで違った。
胸に押しつけたスマホだけが、じんわりと温かかった。
──静かな夜。
聞こえるのは、自分の心臓の音だけだった。




