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第5話 今はこれでいいか

――ヨミウルランド、春。


まだゴールデンウィーク前。

人混みもそこまでなく、アトラクションはほぼ並ばずに乗れた。


「ねぇねぇ、ジェットコースター乗ろぉ〜〜〜〜っ!」


「はいはい」


りりあはツインテールを跳ねさせながら、ぐいぐい手を引く。

厚底ブーツでよくそんなに走れるな、と感心しつつ、

ゆうなは苦笑いしながら後をついていった。


ジェットコースターは想像以上に本格的だった。


急降下、急旋回、悲鳴の渦。


「ぎゃああああああああああ!!」


「うるせぇ!」


隣で叫びまくるりりあを横目に、

ゆうなも思わず笑い声を上げる。


メリーゴーランドでは、

りりあが無邪気に白馬にまたがり、はしゃぎまくる。


「見て見てぇ〜〜〜〜っ、かわいくなぁい〜〜〜??」


「馬のほうがな」


「ひどぉ〜〜〜〜〜い!」


ふざけ合いながら、甘ったるい時間が過ぎていく。


シューティングゲームでは、

ふたりして本気のガチ対決。


夕方になる頃には、遊び疲れてぐったりしながら、

園内をゆっくり歩いていた。


桜並木にイルミネーションが灯る。


木々を縫うように走る、ピンクと白の光の帯。

遠くに光る観覧車。

ネオンに染まった夜桜が、風にふわりと揺れている。


「……きれい……」


りりあが、ぽつりと呟いた。


その横顔を、ゆうなはそっと盗み見た。


(……なんだよ、それ)


無意識に、胸が騒ぐ。


夜の遊園地は、昼とは違う顔を見せていた。


「観覧車、乗ろぉ〜〜〜〜っ!」


ツインテールが弾む。


「ああ」


自然な流れだった。


ゴンドラに乗り込み、ふたりだけの小さな空間。


ゆっくりと、観覧車は上昇する。


遠くまで続くイルミネーションの海。

桜の光が、柔らかく夜を染める。


ふたりとも、黙って外を見た。


──静寂。


耳に届くのは、観覧車の軋む音と、

どこか遠くのざわめきだけ。


自然と、手を伸ばしたくなるくらい近い距離だった。


何かを言いたかった。

何かを伝えたかった。


でも──


その一歩を踏み出した瞬間、

きっと、今の”夢のような関係”は壊れる。


怖かった。


怖くて、手も声も出なかった。


やがてゴンドラは降下を始める。


ふたりの間に流れた、甘くて、苦い沈黙。


地上に戻ったとき、りりあが小さく声を上げた。


「もぉ〜〜〜〜〜〜〜足がぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜死んだぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


「……厚底だしな。自業自得だろ」


「やだぁぁ〜〜〜もう歩けないぃ〜〜〜〜〜〜〜〜」


ふにゃふにゃになったりりあが、ゆうなにもたれかかる。


ため息ひとつ。


「ったく……しょうがねぇな」


屈んで、りりあの小柄な体をおんぶする。


背中に感じる、温もりと重み。


甘いシャンプーの匂い。

鼓動のかすかな振動。


たったそれだけで、

心臓がどうしようもなく騒がしかった。


(……今は、これでいい)


(今は、背中に感じる温かさと騒がしさだけで、十分だ)


そっと、自分にケジメをつけた。


夜の道を、ふたりは静かに歩いた。


言葉はなかった。

でも、心だけは、誰よりも騒いでいた。

 

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