第4話 何故だか絶えない気苦労
――日曜日、カフェ。
ふわふわのソファに沈みながら、りりあは甘えた声を上げた。
「ねぇぇ〜〜〜〜、旅行行きたぁ〜〜〜い〜〜〜〜」
「いきなりだな、おい」
ストローでアイスコーヒーをかき混ぜながら、ゆうなは苦笑する。
「だってぇ〜〜〜、なんかぁ、せっかく仲良しなのにぃ、どっこも行ってないじゃぁん〜〜〜〜」
ツインテールを揺らして、机に突っ伏すりりあ。
本気で駄々をこねる5歳児みたいだ。
「……まぁ、行けるっちゃ行けるけど」
「ほんとぉ〜〜!?うれしぃ〜〜〜!!」
顔をぱっと上げて、きらきらした目で見上げてくる。
無邪気すぎて、つい吹き出しそうになる。
「で、どこ行きたいんだよ」
「え〜〜〜〜、海ぃ〜〜〜〜〜?」
「焼けるだろ」
「え〜〜じゃあ、ディズニーぃ〜〜〜〜?」
「土日とか地獄だろ」
「え〜〜〜〜〜」
ぶーぶー唇を尖らせたあと、りりあはポンと手を打った。
「じゃあさぁ〜〜、温泉とかぁ〜〜?」
「……温泉?」
「そうっっ!温泉でぇ〜〜、まったりぃ〜〜〜してぇ〜〜、浴衣着てぇ〜〜〜、美味しいもの食べたぁ〜〜い〜〜!」
(温泉、か……)
一瞬、ゆうなは考えた。
だが──すぐに引っかかる。
(……普通の温泉じゃ、マズイか)
今のこの姿じゃ、大浴場なんて無理だ。
それに、りりあが女装してはいったら大騒ぎだしな。
──そして、何より。
(……こいつの裸、見せたくねぇし)
無意識に浮かんだその考えに、ゆうなは小さくため息をついた。
「……じゃあ、貸切のとこ探すか」
「え〜〜〜〜?そんな贅沢でいいのぉ〜〜〜〜?」
「つーか、そうじゃないとマジで疲れるだろ。休みに行くのに疲れてどうすんだよ。」
「う〜〜ん、まぁ、そっかぁ〜〜〜」
甘えた声でうだうだ言いながらも、りりあはすぐにスマホを取り出して、
「貸切温泉 かわいい旅館」とか適当に検索し始めた。
「ほらぁ〜〜〜、箱根にめっちゃよさげなとこあるよぉ〜〜〜!」
「箱根か……まぁ、そこまで遠くないな」
「行こう行こう〜〜〜〜〜っ!!決定ぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」
盛り上がるりりあを横目に見ながら、ゆうなは小さくため息をつく。
(……ま、悪くはないか)
たまには、こいつとゆっくり過ごすのも悪くない。
……友達として、な。
──数日後、箱根。
小さな旅館に着くと、ふたりは受付を済ませ、貸切温泉の時間を予約する。
「やったぁ〜〜〜〜〜、あたしぃ〜〜、温泉楽しみぃ〜〜〜〜〜!」
「うるせぇ、声デカい」
部屋に荷物を置いて、まずは浴衣に着替えることに。
襖を開けた先の広縁で、
先に着替え終わったりりあが、ふわりと振り返った。
白地にピンクの花模様の浴衣。
ゆるくまとめたツインテール。
「……似合ってるじゃん」
つい、口をついて出た本音。
「えへへ〜〜〜、ゆうなも見せてぇ〜〜〜?」
「はいはい」
ゆうなも、落ち着いた色味の浴衣姿で広縁に出る。
ふたりして、思わず笑った。
「なんか……まじで女子旅みたいだな」
「女子旅だも〜〜ん」
「いや、ちげーだろ」
小さく肩をすくめて、浴衣の袖を直す。
やがて、貸切温泉の時間が来た。
暖簾の前で、りりあが無邪気に言った。
「一緒に入ろぉ〜〜〜〜?」
「無理」
「えぇ〜〜〜〜貸切だしぃ〜〜〜〜〜別にいーじゃぁん〜〜〜〜〜」
「絶対無理」
即答だった。
りりあは口を尖らせたけど、結局は従うしかなかった。
「……じゃ、あたし先入ってくるぅ〜〜」
「ああ」
りりあが小走りで暖簾をくぐっていく。
ゆうなはその後ろ姿を見送った後、
手持ち無沙汰にスマホをいじりながら、心の中で呟いた。
(……なんでだろな)
(友達なんだから、別に、隠す必要なんて……)
──そう思うくせに、
心臓だけが、バカみたいに鳴っていた。




