第3話 友達のくせにドキッとさせんな
――新宿、夜。
喧騒を抜けて、静かなビルの屋上庭園にたどり着いた。
「わ〜〜〜、めっちゃきれい〜〜〜!」
りりあがツインテールを揺らして駆け出す。
黒の厚底ブーツがコツコツとタイルを鳴らすたび、
ふわふわのスカートが揺れた。
目の前には、きらきらと広がる夜景。
ビルの隙間をぬって光るネオンの川。
遠くには観覧車のイルミネーション。
「やっば〜〜〜!超インスタ映えじゃん〜〜!」
「インスタやってんの?」
「やってないけどぉ〜〜〜〜」
「やってねぇのかよ」
笑いながら、ゆうなはポケットに手を突っ込んだ。
ひんやりした夜風が、ふたりの間を通り抜ける。
りりあはスマホを構えて、夜景をパシャパシャと撮りまくっていた。
盛れる角度を探して、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
「あっ……」
ゴトッ。
嫌な音がして、次の瞬間──
「わわっ」
バランスを崩したりりあが、ふらりと倒れこむ。
「っ──わ、っ」
反射的に、ゆうなが腕を伸ばした。
りりあの華奢な体が、ドスンと胸に当たる。
近い。
甘い香水の匂いが、鼻先をかすめた。
「……っ」
ほんの一瞬、息が詰まった。
重いブーツが足に当たって、ちょっと痛い。
でも、それ以上に、心臓がバクバクとうるさかった。
「だ、だいじょぶ?」
「う、うん〜〜〜ごめぇ〜〜ん〜〜〜」
りりあは顔を上げて、にへらっと笑った。
ツインテールがふわふわ揺れている。
「厚底、重すぎたぁ〜〜〜」
「バカか……」
ゆうなは、少しだけ苦笑いを浮かべた。
支える腕をそっと離すと、
りりあはぴょんと立ち上がった。
「よかったぁ〜〜〜〜ゆうなのおかげで助かったぁ〜〜〜」
「危なっかしいな……」
ポツリと呟きながら、もう一度夜景を見やる。
りりあが隣に並んで、同じ方向を眺めた。
「ねぇ……」
甘ったるい声が、夜空に溶ける。
「今日も、ありがとぉ……」
「べつに。俺も楽しいし。」
ぽつぽつと、ビルの屋上に吹く夜風。
りりあはスマホを握ったまま、にこっと笑った。
「また、どっか行こぉ〜〜?」
「ああ。」
それ以上、何も言わなかった。
言葉を重ねたら、たぶん、何かが変わってしまう気がした。
──ただ、ふたりで並んで夜景を眺めた。
まだ、“友達”のままで。
それだけで、今は十分だった。




