第1話 うわっ。タイプだわ
――新宿、夜。
ネオンの海をふわふわと泳ぐように、はるかは歩いていた。
パステルカラーのロングスカート、巻き髪。
外見はゆるふわなお姉さん。でも中身は、わりとざっくりした男。
そんなゆうなの前に、ツインテールを揺らした地雷系女子が立ちはだかる。
ピンクのブラウス、黒のミニスカート、きらきらしたスマホケース。
「あのぉ……今、時間あるかなぁ……?」
見上げてくる声は、甘ったるい。
ふわふわのツインテールが揺れるたび、香水の甘い匂いが漂った。
(うわ、めちゃくちゃタイプ……)
はるかは即座に直感した。
だけど、どこかに引っかかるものを感じて、肩の力を抜く。
「……俺、男だけど。平気?」
一瞬、空気が凍った。
地雷系女子の口元が小さく震える。
「……うそっ、あたしも、男、だよぉ……」
(やっぱりかよ)
心の中で苦笑しながら、ゆうなはふっと笑った。
「……おもしれぇな。」
「……だよねぇ……」
どちらからともなく、肩の力が抜けた。
「つか、遊ぶ?」
「……うんっ、行こぉ……」
カラオケに飛び込んで、ドリンクバーを適当に取って、ソファに座る。
「何歌う?」
「あたし、アニソンしか歌えないかもぉ……」
「別にいいだろ。好きにしろよ。」
「……じゃ、入れちゃうねぇ……?」
リモコンを操作して、甘え声のままアニソンを歌い出す。
思った以上のハイトーンボイスに、はるかは素直に笑った。
「なにそのギャップ。うまっ」
「うるさいよぉ……恥ずかしいんだからぁ……」
両手でマイクを抱えながら、ツインテールを揺らす。
バカみたいにタンバリン叩きながら、2時間を騒ぎ倒す。
カラオケを出ると、夜風が肌に心地いい。
「ねぇ……ゲーセン、行きたいなぁ……」
「元気だな。ま、いいけど。」
雑踏をすり抜けて、駅前のゲーセンへ。
ビルの隙間から漏れるネオンがふたりを照らす。
プリクラ機の前でツインテールがぴょこっと跳ねた。
「……撮ろぉ?」
「いいよ。」
カウントダウンが始まる。
甘ったるいピースサインと、ちょっと無愛想な片手ピース。
バシャッ。
フラッシュに照らされたふたりは、
どう見ても「可愛い女の子同士」だった。
プリクラを受け取ったあと、
りりあがぱっと横を向いた。
「……あっ、あれ、欲しいなぁ……」
指差した先には、
でかいぬいぐるみが詰まったUFOキャッチャー。
「……取れんだろ、あんなの。」
ゆうなが苦笑する。
「お願いぃ……? 一回だけぇ……?」
ツインテールを揺らして上目遣い。
その破壊力に、はるかは小さくため息をついた。
「……しゃーねぇな。」
千円札を崩して、コインを数枚投入する。
レバーを操作して、クレーンを動かす。
腕まくりして本気のはるか。
横でりりあが、ぴょんぴょん跳ねながら応援する。
「がんばれぇ、がんばれぇ……!」
「うるせぇ、集中できねぇ……」
慎重に位置を合わせ、ボタンを押す。
クレーンがぬいぐるみに食いつき──
ふわっ
ぬいぐるみは、あっさりスルリと逃げた。
「……は?」
「うそぉ……?」
ふたりして、同時に呆然。
「詐欺だろ、これ……」
「もう一回だけぇ……!」
再挑戦。
だが結果は、同じだった。
結局、取れたのは、
景品コーナーの端っこに転がった小さなキーホルダーだけ。
「……ごめんねぇ、ありがとぉ……」
「まぁ、取れただけマシだろ。」
そう言って、りりあの手にキーホルダーをぽいっと渡す。
りりあは、キーホルダーを両手で大事そうに持って、
にこにこと笑った。
「……うれしぃ……」
(なんなんだこいつ……)
ゆうなは、心の中で苦笑いした。
ゲーセンの出口。
プリクラを見ながら、りりあが甘えた声を出す。
「……ねぇ、撮ったやつ、あとで送ってほしいなぁ……」
「あー、じゃあLINE交換すっか。」
ゆうながスマホを取り出すと、
りりあもラインストーンが散りばめられたスマホを差し出す。
QRを読み取ると、新しい名前が登録された。
「ありがとぉ……」
「おう。」
画面に表示された名前──
「莉里愛」。
中身がどうとか、そんなのは今はどうでもよかった。
──新宿の夜は、まだ続いていた。