23 幻の常世石(4)
私は、黒の隣に座り、ヘーパイストスへ話しかけた。
「幾つか質問させてください」
「どうぞ」
私が、日の本の言葉で話しかけると、ヘーパイストスも日の本の言葉で答えた。そう、鍋パーティーで親睦を深めている間に、大先生から日の本の言語データをちゃんと貰ったから、もう、話が通じるんだ。神様って、便利だろ。
「持ってこられたその欠片は、もともと何の一部だったのですか」
「アイギスです」
「ふむ、かの有名な神盾のことじゃな」と、大先生が言った。
「アイギスは、どういう事に使用していますか」
ギリシヤ神話は、人の手になるものだ。実際のオリュンポス界でも、同じとは限らないから、確認しておく必要がある。
ヘーパイストスは、宙を見上げ、しばらく考えてから答えた。
「ゼウスは、アイギスを最強の防御と言っておりました。クロノスと戦った時、天から降下する業火の攻撃を、アイギスが全て防いだと話すのを聞いたことがあります」
常世石の実力なら、それくらい防げるのは当然だよ、と思い、私と黒はお互いを見ながら、うんうんと頷きあった。
「それでは、最近は、使用したことはなかったのですか」
「・・・・・・」
ヘーパイストスは、ちょっと悩ましげな顔になった。どうやら、核心に迫ってきたようだ。急かす事なく、話す気になるまでじっと待った。
「実は、ゼウスは最近、妙なことに興味を持つようになったのです。その、なんというか、神界一強者決定戦を開きたいとか言い出して、アイギスを拡張し、亜空間を使えば、異なる神域の神を召喚し、一大武闘大会が開催できるとか、言い出したのです」
黒は隣で目を剥いていた。私は、多分、表情はそのまま保ったと思う、多分・・・
だが、そんなとんでもない事、一体全体どうして思いついたんだ。私は、恐る恐る
「それ、実際にやってみようとしたのでしょうか?」と、尋ねてみた。
「ヘラ女神は、その事は何もおっしゃってはおりません。今のところ、拡張できたという話は聞いていません」
当たり前だ。あれの拡張は、ほぼ無限大にできる。ただし、それだけの神力があればだ。それがたとえ、オリュンポス界の最高神といえども、それほどの神力はないはずだ。えっ、どうして断言できるのかって?実際、上古の時代に拡張して、いろいろ大会を開いていたからだよ。だが、ゼウスは、そんな方法をどこで知ったのだろう?もし、中途半端な神力の流し方で拡張しようとすれば、常世石は不均等な神力の流れに歪みを生じ、破壊されてしまう。破壊だけで済めばいいが、一気にエネルギーを放出し、大惨事が勃発・・・・
私は、顔から血の気が引いた。一瞬、大劫の記憶が脳裏を掠めた。そうだ、あの時、神器が暴走したのだ・・・
「顯、どうしたの、大丈夫?」
我に返ると、ダーキニーが顔を覗き込んでいた。
横目で黒を見ると、彼も難しい顔で黙り込んでいた。
今の地上で、そんな状態の常世石を常態に戻せるのは、多分私だけだろうが、オリュンポス界の問題なのだから、黒でも通して、天界の誰かが対処すればいいだろうと、私は気楽に考えていた。間抜けな私は、その時、因果が蜘蛛の糸みたいに、私をもう捕まえていることに全然気がついていなかったのだ。




