23 幻の常世石(3)
黒が神力を流し込むと、石は突然揺蕩うのをやめ、水晶のような硬質な光を放つ物体へと変化した。
「何、これ、さっきと全然違う」
ダーキニーが驚き、石を覗き込んできた。他の者も気を取られている。その隙に、私は、黒の背後から覗き込むフリをしながら、黒の肩先に手を当て、自分の神気を一気に流し込んだ。私の神気が突然流れ込んで、黒は感電したようにブルッと一瞬震えた。
“黒、じっとしてろ、動くな”
“おおっ、ワカの神気が流れていく、何と尊いっ”
石は、白銀色の眩い光を発し、六角柱構造の結晶へと組成変化を起こした。
ナクシット石から、太陽神の神気を取り戻していなければ、これはできなかっただろう。光の神気と闇の神気、両方を手中に収めて初めて可能な変成だ。
もう、決定的だった。常世石で間違いない。
「うわっ、これ何だ。石が別物になってるじゃないか。御老公、凄い、凄いよ」
雷ちゃんは、ものすごく興奮した。が、大先生は、冷静に石を観察し、それから、私をチラッと見た。
(・・・バレたかな?)
大先生に気づかれても、雷ちゃんにさえ気づかれなければそれでいいと思った。
「これは、おそらく常世石でしょう」
黒が重々しく宣言した。
大先生は腰を浮かした。
「常世石とおっしゃいましたか」
「いかにも」
「しかし、常世石は、上古の時代、伝説の常世国、一夜にして海中に没したというあの国でしか産出しない鉱物であったと聞いております。今では幻の存在ですぞ」
大先生の言うとおりだ。もう、存在しない幻の石が、どうして、オリュンポス界に存在するのか是非知りたい・・・いや、厄介事に巻き込まれそうだから、本当は知りたくないな、ハハハッ。
黒が私をチラチラ見た。黒は融通が効かない、次に何を言ったらいいのか指示待ち中だ。しかし、私がこの件に詳しいのは怪しすぎるから、うっかり口を挟めない。困ったな、どうしよう。ああ、黒、そんなに私を見るなっ、私は部外者でいたいんだから。
「ウォッホン」
突然、大先生が大きく咳をした。
「雷、お主は、そろそろ帰らねばならんだろう」
「ええっ、俺、もっとここにいる。話おもしろそうだし」
「お主、深夜の神域の巡回を怠ってよいのか。都の安寧秩序を護るのは、お主の大切な役目であろう」
大先生は、重々しい口調でいう。
「うぅぅぅぅ・・・」
雷ちゃんは神でも年若い方だから、本当は遊びたい盛りだ。しかし、尊敬する御老公の前で、仕事をさぼりますなんて言えない。仕方なく帰ってくれた。
雷ちゃんが、帰った後、お茶を飲んだ大先生は、私をジロッと見て
「顯くん、おまえが一番、この物体について詳しそうだから、説明してくれんか」
と言った。やっぱり刀の大先生には、しっかりバレてたんだ。




