23 幻の常世石(2)
着替えて部屋を出ると、大部屋からは、ヘーパイストスと大先生の豪快な笑い声や、雷ちゃんが何かご機嫌で歌っているのが聞こえた。そして、律子さんは、まだ廊下で待ち受けていて、
「顯くん、どうして御老公をお呼びしたの?あの物体が何なのか、あなたは見当がついているんでしょう?」と、ちょっと怖い顔で尋ねられた。
「いや、分かるっていうか・・・」
(困ったな、何て説明しよう。とにかく、神力を流してみないことには、説明が難しいし)
律子さんは、少し表情を和らげた。
「あの物体を御老公に見てもらいたくて呼んだの?」
私は頭をふり「いえ、見てもらうだけでは不十分で、実際に手に取って、神力を流してみてほしいのです」と言った。
「そう、分かりました。では、御老公が神力を流し込めるよう、私の方から話をしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
わたしがペコッと頭を下げたタイミングで、大部屋から、
「俺、もうちょっとお湯割り飲みたい、顯〜、レモン酎ハイ作って〜」と、雷ちゃんの声が聞こえた。
「はーい」と返事をしながら、私は大部屋の障子を開けて、他に注文がないか聞くことにした。一緒に部屋に入ってきた黒は、私にピッタリひっつくと、誰にも聞こえないように念話で、
“ワカ、上位神でいらっしゃるあなたが、どうして、地上神の御用聞きなどされておるのです。情けない”と話しかけてきた。
“いいんだよ、これも小遣い稼ぎなんだ。今時の人界での暮らしに必要なのは、一にも二にも金なんだから、小銭を稼ぎたいんだ。だから、ちょうどいいんだよ”
“くぅぅ〜、お痛わしや〜”
そう、誰から貰おうと、金であることは変わりないし、労働の対価なんだから、しっかり稼ぐぞう!私は注文を聞いて回った。
宴会が一段落し、皆がお茶を始めたところで、律子さんが、御老公を紹介した。
「こちらは、ひ孫の青銀くんの様子を見に、下界へ降りてこられた、天龍界の御老公です」
その言葉を聞くや、雷ちゃんはガバッと立ち上がり
「えっ、すげー、あの伝説の玄黒公なのか。格好いい、あとでサインください」
と、目をキランキランさせて叫んだ。大先生も起立し、天龍界の大長老へ拝礼を行った。
「いや、楽になされ、わしは、今日はただひ孫の様子を見にきた曽祖父なのだ」
と、大長老の風格を滲ませつつ、黒は楽にするよう命じた。
ここで律子さんが、話題を切り替えた。
「そうだわ、御老公がせっかくお見えになったのだから、ヘーパイストス、あなたの持ってきた物体を、御老公にも見ていただいてはどうかしら?」
(律子さん、素晴らしい)
ヘーパイストスは、首からぶら下げた巾着袋から、例の石を取り出し、御老公へ手渡した。黒は、すかさず、それに神気を流し込んだ。




