22 雷ちゃんと謎の異国神(5)
縄を解かれたヘーパイストスは、畳の上に足を投げ出して寛いでいたが、大先生が入ってくると、ぱっと立ち上がり、
「アミァノヒッポゥコ!」と叫んだ。
いつも通りの烏帽子に水干姿の大先生は、ヘーパイストスの前まで来ると、腕を組んで仁王立ちとなり、両者互いに睨み合いに入った。大先生は、背丈こそ彼の胸元だが、鍛え上げた体から滲み出る迫力は、ヘーパイストスにも勝りこそすれ劣ることはない。天日槍神は、日の本随一の刀匠で、本物は、平家のゴッドマザーが海に身投げした時に一緒に沈んだという、かの天叢雲剣を作った御神なのだ。
大先生は、にやっと笑い、それから呵呵大笑し、ヘーパイストスの肩をバンバンと遠慮なく叩いた。
「わしをわざわざ訪ねてきたそうだな。ヘーパイストス、気に入ったぞ。お主は、なかなかの匠の技の持ち主とみた。わしに分かることなら、遠慮なく聞くがよい。なんでも答えてしんぜよう」
鍛治仲間同士、何か通じ合うものがあるのか、ただ、睨み合っただけで、お互い旧知の間柄のように、すっかり打ち解けていた。
お茶の用意をして持っていくと、律子さんから、
「顯くんも、一応、話を聞いておきなさい」と言われた。
「へっ、私もですか?」
オリュンポス界の話なんて、私に一体なんの関わりがありましょうか、何もないはずですよね、と思い、律子さんを見返した。
「あなたも聞きなさい、いいですね」律子さんが、ちょっと怖い顔で言った。
「・・・・・はい」
本気で怒ると滅茶苦茶怖いから、私は大人しく従った。
横から雷ちゃんが、
「おまえ、律子さん、よっぽど怒らせたんだな。将来大物になるぞ」と、耳打ちされた。(いや、将来大物になんてなりたくありません。もう、女神とは、関わり合いたくないんです。お願いだから、構わないでください、トホホッ)
ヘーパイストスは、日の本へ来た訳を話した。
「私は、ゼウス神やアテナ女神、マルス神などから様々な無茶な注文を受けても、何とか望み通り、時には望みを上回る神器を作り、納めてきました。ところが、先日、ヘラ女神より、アイギスという神器が壊れたので、ゼウス神に気づかれないうちに秘密裏に修理してくれないかと頼まれたのです。ところが、アイギスに使われている材質がどうしても突き止めることができないのです。方々調べ、日の本一の刀匠で、神界一の冶金学者でいらっしゃるアミァノヒッポゥコの噂を知り、この問題を解決できるのは、この御神しかいないと思い、すぐやって来たのです。ゼウス神に察知されてはならないため、密入国のような真似をしてしまい、申し訳ない」と言い、胸元から巾着袋を取り出した。
「これが、欠けてしまったアイギスの欠片です」
オパール石のような、乳白色に水色や薄紅色が複雑に混じり合い、液体のように揺蕩いながら鈍い光を放つ石が現れた。
(えっ、あれって、まさか・・・)
私は、立ち上がり、
「鍋の用意をしてきます」と言って、青銀も引っ立てて部屋を出た。それから、青銀に“大至急、曽祖父ちゃんに来てもらってくれ”と、誰にも聞かれないように念話で頼んだ。




